禁断の果実
朝起きてシノンとシオンと一緒に食堂に行くと何やら騒がしい。
「ねぇ、聞いた?遂にうちの生徒まで行方不明になったってー」
「あ!知ってる!昨日の夜に部活から帰る先輩のことでしょ!」
「それそれ!学院に通う生徒って双子が多いから標的にされやすいのかもねー」
双子は産まれにくいが、少しだけ他より強いので入学する生徒の2割は双子だ。何故双子だと双子ではない場合より強いのかは判明していないが、双子は強いというのが一般常識だ。
この食堂は色んな情報が集まるなー。まるで酒場みたいだ。
どこの世界でも飲食店には情報が集まる。ここは学院だけど貴族が大半を占めてるのだから腹の探り合いやら単なる雑談やらが少し耳を傾けるだけで聞くことが出来る。といっても大事な話はこんなところでする訳がないので噂程度の情報しかない。
「皆双子誘拐事件の話ばかりしていますね」
「そりゃ双子が友人な人だって多いでしょうし、うちの学院の生徒が誘拐されたらしょうがないわよ」
シオンの言うことは尤もだ。誰しも身近で最近有名な事件が起こったら話題にする。
「双子を集めて何をしようとしてるんだろうね」
なんとなく思ったことを呟いてしまう。恐らく誰も僕の声を拾った者はレニーナ以外いないだろう。
雨の窓際の席で左肘をつきながら窓に当たり流れ落ちる水滴を眺める僕。
昔から雨の日は不吉なことが起こる予兆だったことが多いから勇者パーティにいたときは雨が嫌いだったけれど、いつの間にか好きになっていた。
この雨もまた、不吉呼ぶ雨なのだろうか。
不吉とは良くないことのはずなのにも関わらず不快どころか少し愉快な気分になっている。
僕は随分変わってしまったんだな。
人間だった頃との違いを実感するのは今でも少し辛い。
そんな僕の感情を読み取ったのかシノンが僕の顔を覗きこんでくる。
「どうしたのですか?」
「いや、なんでもないよ」
教室に向かうと手前の入り口で困った顔のギーランが女子に囲まれていた。
何やってんだか。
仕方なく存在隠蔽を解除してギーランの元へ駆けつける。
「おはようギーラン。少し話があったんだけど、大丈夫?」
僕が助けに入るとは思わなかったのか一瞬だけ驚いた表情を顕にしたがすぐに笑顔になる。
「おはようトウヤ、大丈夫だよ」
ギーランは周りの女子に謝りつつ僕と一緒に窓際の席に座る。
「いやぁ助かったよ。借りを作っちゃったね」
風魔法で音を遮断したのを確認してギーランが感謝の言葉を述べる。
「別にこれくらいなら貸しにするつもりはないよ。それで?なんであんなことになったのさ」
「それが、昨日と同じ様に教室に入ろうとすると急に囲まれてしまってね。昨日と何が違ったんだろうか?」
「多分だけど周りが対応したんじゃない?」
ギーランは僕と違い、女性とは関わっても構わないとはいえ、自分の存在価値を求める女性があまりにも多かった為わざわざSPを6も使って真実の瞳を習得した程に女性が苦手になってしまったのだ。
しかし、騙されなくなっただけで話をしない訳にはいかない為、先ほどの状況はギーランにとっては相当辛かったことだろう。
一応ギーランは得意魔法である光魔法の応用で姿を消して登校していたのだが、魔力は消せない為、見つかってしまったという訳だ。
「はぁ、これからどうしよう」
これから毎朝、女子生徒に囲まれるのは、さぞ辛いだろうな。
「僕と一緒に登校する?」
僕は基本的に存在隠蔽を使うことで穏便に過ごすことが出来ているが、魔力を隠す程度なら闇魔法でなんとかすることは出来る。
「んー朝ギリギリに登校すればいいだけだから大丈夫だよ」
確かに、わざわざ早めに来る必要はない。放課だって昨日と同様に僕と過ごせばいいだろう。ただ、ホームルームが始まる直前に来るにしても多少は女子生徒に絡まれることになる。
「それに、警戒するのはたった1人だけでいいんだ。他の生徒は彼女が気付いたことで漸く分かった感じだから」
どうやら、とある生徒が話かけたことに気が付いて群がって来た様だ。
「霧の栄光の天気のこと?」
例年、特権持ちの生徒は3人前後いる。勿論このクラスにも僕の他に招待状を貰った者が二人いる。その者たちを纏めて栄光の天気というらしい。
この学院は空に関わる名前が多く、雨、霧、嵐、雲を含む空が学院の名前だとするなら、それを彩る天気にちなんだ名前だとか。
招待状を貰った者には義務なんてないけれど、例年図らずともそれぞれのクラスのコンセプト通りになっている様なので間違いではない。
「ああ、このクラスには二人いるけど、警戒するのはナフルル・ティルノート、ほら侯爵家の」
彼女はティルノート侯爵家の長女で魔法の才能に秀でていると聞いている。そして、容姿はふわりとした金髪で真紅の瞳を持つ美少女だ。確か、双子の妹がいたはずだけど、この学院にはいない様子。
「……それは面倒だね」
このクラスのコンセプトは主に斥候みたいなものだから当然彼女は何かを見破ることや気配を消すことなどが上手いのは明白だ。
「とはいえ、相手が1人ならなんとかしてみせるさ」
ギーランは栄光の天気ではないが、魔法の才能は確かだ。しかし、栄光の天気には及ばない。
ギーランは純粋の人間だ。人間であることはステータスの補正がないことから弱いイメージがあるかも知れないが、代わりにSPの必要消費量を減らすという補正がある。
これは消費量を軽減ではなく減らしている為、適性があればSPを消費せずに習得出来るスキルもあるという利点もある。とはいえ、SPゼロのスキルは今まで有っても無くてもいい物しか習得した例はない。
ギーランの場合はその例を覆しレベルを上げ、進化させればかなり有用なスキルになるレアスキル、永遠なる癒し(微弱)を習得することに成功した。これは常時発動系スキルで魔力消費なしで回復出来るスキルだ。
こういった常時発動系のスキルはレベルアップ方法が特殊で使用時間プラスαの条件がある。これは人によって違う為、僕にもわからないが、現在ギーランは幾つか進化させて(微弱)から(中)になっている。
スキルは習得SPの何倍かのSPを消費して進化するのでギーランはSP消費ゼロでかなり有用なスキルを習得したことになる。が、今回の場合はなんの役にも立たない。
「それは中々希望的観測じゃないか。君だって分かっているんだろう?彼女をどうにかするなんて1人では不可能に近いということを、さ」
「……なんのことかな?でも、どうしようもなくなった時は、手を貸してくれるか?」
「当たり前だろ?但し、貸しにしとくよ」
ただ助けるだけでは親友ではない。助け合うことが親友になる条件のひとつだと僕は思うから、僕が気に入った者は決して無料では助けないのだ。
「大きな借りが出来ない様に頑張ってみるよ」
僕らが話をしている間にミシュノ先生が教室に入って来た。どうやらホームルームの時間の様だ。
放課後になり、僕はレニーナから途中報告をしてもらっていた。
「…………という訳で、恐らく犯人は犯罪組織で錬金術師たちの集まりでもある禁断の果実である可能性が高いですね」
禁断の果実、主に人体実験や禁書の解読などの犯罪に手を染めてまで研究をしている集団のことで、未だに国が手を出せずにいる犯罪組織のひとつ。理由としては、未知の禁断魔法や魔法生物、そして所属する錬金術師自体が相当の手練なのだ。
しかし、組織と言ってもその組織のメンバーはたったの6人の少数精鋭だ。組織と言うには些か数が少ない。それを埋めるのが研究成果である魔法生物、所謂スライムやゴーレム、キメラなどがいる為、組織と呼ばれている。
「ふーん。犯罪組織か。潰すのは大変そうだね」
「トウヤ様と私が居れば大丈夫ですよ」
「いや、僕らだって全能じゃないんだ。それに、相手の居場所も分からないだろう?」
この双子誘拐事件は被害にあった人の場所が転々としていて、それを線で事件の起こった順で結ぶと曲がりくねった一本線になり、1日に複数件の被害者が出なかったことから複数犯ではなく、単独犯であると予測されるとレニーナは言っていたが、分かったことはそのくらいなのだ。
「そうなんですよ。全く検討がつかないって訳ではないのですが、数日は欲しいところです」
数日で分かるものなのか?まぁ、レニーナは優秀だから問題ないと思うけど。
「そっか。なら何か分かり次第報告して欲しい」
報告が終わったからなのか、レニーナは僕の側に寄って来る。
面倒ごとは早めに終わらせておくのがベストだけど……
レニーナの方を見るとこちらに微笑み返してくれる。
……何事にも慎重に、だね。
次回、レニーナ視点でレニーナのステータスが見れると思います。
最近あまりステータスを書く機会がなかったのですが、基本的にステータスはそれぞれの視点の時に公開する予定です。
因みに、ギーランとかのモブキャラはステータスを公開する予定は今のところないですね。




