5 さとばあちゃん
ピピピピピピ
あぁ、もう朝か。
よく寝られなかった。どうしても、昨夜の事が忘れられなかった。
しかし今日俺はやらなければならないことがある。
急いで支度をしよう。
そして俺は、病院に向かって歩いていた。
その時、たまたま竹盛にあった。
「先輩、もう体は大丈夫なんですか?」
「おう、竹盛。もう大丈夫だ。」
「ならバイト戻ってきてくださいよ。ほんと最近つまんないんすよー。休憩中も、店長の愚痴ばっか聞いてるんすよー」
「わかったわかった。近いうち戻るから。もう少しだけよろしく頼む。」
「わかりました。あ、それと最近セイラちゃんとよく会ってるそうじゃないですか。コトちゃんが言ってましたよ。」
「最近色々あってな。それより、コトと付き合ってるの?」
「それが、告白したんですけど、フラれちゃいました。」
「そうか。その割には落ち込んでるようには見えないが。」
「最近、新しい恋が始まったんで。時代の流れは早いですよ、先輩」
「全く。お前ってやつは。」
何はともあれ、楽しそうでよかった。
「じゃあ、俺はそろそろ。」
「どこ行くんですか、先輩?」
「ちょっと、病院にな。」
「まだどこか悪いんですか?」
「いや、そうじゃないけど」
「あ、わかった。セイラちゃんに会いに行くんだ。」
まぁ、それも間違いではない
「あぁ。」
「そっかー。いいなー。セイラちゃん可愛いもんなー。」
「じゃあな。」
「また。」
そして、竹盛と別れ、病院に着いた。
入り口を入ると、受付でセイラが待っていた。
「健人さん。こっち。」
私服の彼女もいいが、白衣の彼女にもまた違う魅力がある。
セイラに連れられ、老夫婦の病室へ向かう。
ドアを開けると、そこにはおじいさんを見つめているおばあさんの姿があった。
「さとばあちゃん。こちらが、さっきお話しした健人さん。」
「ほぉ。あなたが霊能者の健人君か。」
「霊能者?」
「ごめん、なんて言ったらわからなくって。」
まぁ、その方がわかりやすいか。
「はい。北山健人と申します。」
「あなたは、本当におじいさんと会話ができるのかい?」
「現段階では、まだわかりません。おじいさんの意識がないので、実際にお話できるかはわからないですが、やるだけやってみましょう。」
「そうかい。伝わる事を祈るかね。」
「それで、私はどうしたらいいんだい?」
「まずは、僕の右手を握ってください。」
そして、俺は左手でおじいさんの右手を握る。
「セイラちゃん。なるべく、この間は、他の人が病室に入ってこないようにしてもらえるかな?」
「わかりました。」
「では、さとばあちゃん。目をつぶって。そして、左手に集中して。」
さとばあちゃんが静かに目を瞑る。
「そして、おじいさんへ伝えたいことを頭の中で考えてみて。」
右手に、温かいものを感じる。
なんだろうこれは。
声が聞こえる。
さとばあちゃんの声だ。
「おじいさん。
聞こえますか。
聞こえていることを祈り、あなたに感謝の気持ちを伝えたいと思います。
あなたは今心筋梗塞で、病院に入院しています。急に倒れたので、今何が起こっているかわからないと思いますが、ずっとそばにいるので安心してください。
おじいさん、長いことお眠りになられていますが、夢は見ていますか?
私は最近、いろんな夢を見ます。
忘れてしまった夢もあるけれど、ほとんどは覚えています。
綺麗な景色を見たり、お祭りに出かけたり、美味しいものを食べたり、時には大声で怒鳴る夢も見ます。でもね、どの夢にも必ずおじいさんがいるの。
それもそうよね。
二十歳の時に結婚して、それから50年間ずっとあなたのそばにいたんだもの。
私にはあなたとの記憶しかないの。
だから早く戻ってきて。そして、一緒に思い出を作りましょう。
まだまだ、行ってないところも食べてないものもたくさんあるの。
何もない中で時間を過ごすのは大変でしょう。
孫の顔も見たいでしょ?
本当に可愛いのよ。
この前なんて、おじいさんの似顔絵描いて、持ってきてくれたのよ。
元気にならないと、見れないんだから。
待ってますね。
さとより」
自然と涙が流れた。
果たしてこの思いは、おじいさんに伝わったのか。
たとえ伝わらなかったとしても、こんなに思ってもらっているおじいさんは、本当に幸せ者だなと感じた。
「さとばあちゃん。この気持ち、伝わるといいね。」
「えぇ。そう願いましょう。」
そして、俺とセイラは病室を後にした。
「さとばあちゃん、なんて言ってたんですか?」
「さぁな。」
「隠さなくていいじゃないですか。」
「まぁまぁ、今度ゆっくり話すよ。」
「約束ですよ。あ、今日は早番なので、あと2時間で仕事あがるんですけど、よかったら一緒に帰りません?」
帰っても暇だし、適当に時間潰すか。
「わかった。じゃあ終わったら連絡して。」
「はい。じゃあまた後で」
「おう。」
俺は、廊下の窓から景色を眺めていた。
さとばあちゃんは、どんな景色を見てきたんだろう。
そんなことを考えながら。
ブー、ブー。
大きな音がなる。
「何の音だ?」
ブー、ブー。
看護師が慌ただしく、動いている。
緊急事態のようだ。
医者が病室へ入っていった。
おじいさんの部屋だ。
俺はそう思い、病室へと急いだ。
おじいさんの周りは看護師と、医者に囲まれており、必死に処置をしている。
数分後、おじいさんは担架に乗せられて、手術室へ運ばれた。
もちろんそこには、さとばあちゃんの姿もあった。
「ちょっと、セイラ、何があったんだよ。」
「私も詳しくはわからないですが。でも、おじいさんの容態が急変したらしい。急いでるので、また後で。」
俺は自分を責めた。もしかして俺のせいなのではないか。
数時間後、僕らは霊安室にいた。
「さとばあちゃん。俺のせいだ。
俺が、さとばあちゃんの気持ちを伝えることで、おじいさん、安心しちゃったのかもしれない。」
さとばあちゃんは優しく微笑みかけてくれた。
「そんなことないわよ。あなたがしてくれたことには、本当に感謝している。私たちのためを思ってしてくれたことだもの。ありがとね。」
俺は涙が止まらなかった。
後悔や罪悪感以上に、さとばあちゃんの優しさに、気持ちを抑えることができなかった。
本当は一番、さとおばあちゃんが苦しいはずなのに。
俺はどうしても伝えたいことがあった。
「さとばあちゃん。実はね。」
さとばあちゃんが、俺を見つめる。
「俺がさとばあちゃんの気持ちを伝えた後、声がしたんだ。」
「それってもしかして、おじいさんの?」
「多分そうだと思う。何かいろいろな声が聞こえたけど、うまく聞き取れなかった。」
「そうかい。」
さとばあちゃんは悲しそうな表情を浮かべた。
「でもね、さとばあちゃん。一言だけはっきり聞こえたんだ。」
「ありがとう。って。
ありがとうって言ってたんだ。
だからきっと、ちゃんと・・・さとばあちゃんの気持ちは伝わったと思う。」
そう伝えると、無理して笑みを浮かべていたさとばあちゃんも、我慢が出来なくなり、おじいさんの胸に顔を当て、泣き崩れた。
帰り道、俺とセイラはあまり会話をしなかった。というより、できなかった。
あんなことの後に、普通の会話ができるはずもない。
そして、いつのまにか彼女の家の前についていた。
「健人さん。今日はありがとうございました。さとばあちゃん、健人さんに本当に感謝していました。」
「ああ。少しでも力になれたならよかったよ。今度、おじいさんの墓参りに行こう。」
「そうですね。」
そして、俺は家に向かう途中、再びあの公園へ向かった。
もしかしたらまた、ジョーカーに会えるかもしれない。そう思って。
静まり返った、夜の公園。
虫の鳴き声だけが聞こえる。
「だから言ったじゃないですか。過信すると被害が訪れるって。」
またこいつか。ジョーカーめ。だが、今日は大声で怒鳴る気力がない。
「こうなる事、知ってたのかよ。」
「さぁ、未来は全て、北川様が能力をどう使うかによって、変わってきます。」
「お前は一体誰なんだ。悪人なのか、善人なのかわからない。」
「私は善人です」
「信じると思うか?お前は俺を誘拐した。善人がすることではない。」
「でもあなたは、それと引き換えにその能力を手に入れた。借金も返済できた。どうして、悪人扱いするんですか?」
「それはそうだが、お前は俺に銃まで突きつけたんだぞ。」
「まぁ私はどう思われてもいいんですがね。」
「とにかく、過去に私は、もう一つ大事なキーワードを言っていましたが、ちゃんと覚えてますか?」
「キーワード?なんだそれ。」
「そうですか。忘れましたか。まぁいいでしょう。いずれわかります。」
「ちょ、なんだよ、教えろよ。おいっ!」
また消えた。
一体どんなカラクリで消えているのか知らないが、本当に不思議な奴だ。ただ、わかったことは、あいつに用があるときはこの公園に来ればいいって事だ。
次の日から、俺はバイトに戻った。さすがに、フリーターがバイトすら休んでしまうと、ニートになってしまう。正当化になってしまうかもしれないが、フリーターとニートは違う。俺には働く意思がある。
ただ、人間偏差値の低い俺を雇ってくれる会社がないだけだ。
ただ正直、この能力を利用すれば就職どころか、夢だった起業という夢も叶えることができるのではないか。
いかんいかん。悪い顔になってしまった。
「店長おはようございます。」
バイト先についた。
「おう、北山、来たか。」
「もう体調は万全なので、心配しないでください。ご迷惑をおかけしました。」
「体調良くなってよかったな。あと、竹盛にもお礼言っとけよ。お前がいない間、あいつ頑張ってくれたんだから。」
「わかりました。」
そうか、確かにあいつのおかげで休めてたんだもんな。
数時間後、学校を終え竹盛が出勤してきた。
「おぉー。先輩。戻ったんすねー。よかったー。」
「おう、竹盛。昨日ぶりだな。
それと、長い事悪かったな。俺の分まで働いてくれてたらしいじゃん。」
「そんなことはいいんすよー。先輩が戻ってきてくれてよかったです。これでやっと楽しいバイト生活が戻ってきます。」
「竹盛。どいう意味かね?」
「ちょ、店長。盗み聞きとかタチ悪いですよ。」
「違う聞こえたんだ。」
「先輩からも何か言ってやってくださいよー。」
何はともあれ、とりあえず日常に戻ったって感じだな。
バイトが終わり、竹盛と飲みに行くことになった。
「女の子無しで、俺とサシ飲みとは、珍しいな。」
「たまにはいいじゃないですかー。男同士で熱い話でもしましょうよ。」
「なんだよお前気持ち悪いな。まぁでも、たまにはそれもありだな」
そんなことを話しながら、
近くの焼き鳥屋へ入った。
お互い生を注文し。乾杯をする。
そして話題はもちろん、
「先輩、セイラちゃんとはどうなんですか?」
まぁ、予想はしていたが一発目からこの質問が来るとは。単純な男だな。
「まぁ、うまくいってるよ。」
「くぅー。いいなー。先輩達は付き合ってるんですか?」
そう言われると、正直わからない。
「さぁ。」
「さぁ。って!告ってないんすか?」
「ちゃんとした告白は、まだかな。」
「ちゃんとしてない告白なんて無いですよ。告白はしたかしてないかのどっちかなんですから。」
「うるせぇな!お前はどうなんだよ。その、新しいことはうまくいってるのか?」
「そうっすね〜」
焼き鳥を食べながら不敵な表情を浮かべる後輩。
「まぁ、ぼちぼちですわ。」
「なんだよそれ。まぁまだフラれてないだけでも、大きな進歩だな。」
「ひどいなーそれ。今度は大丈夫ですって。彼女も俺のこと好きっすもん。」
「そうなのか?」
「多分。」
「多分かよ。」
と、まぁいつも通りの会話をし、その後も特に熱い話をするわけでもなく、飲み続けた。
「先輩!せんぱ〜〜〜い。」
「なんだよ、聞こえてるよ。」
「二軒目行きましょうよ。二軒目〜〜〜!」
「わかったって、飲み過ぎだぞ。大きい声出すなよ。」
そうして俺たちは、二軒目のBarへ向かった。
あり雑居ビルの螺旋階段を登り、3階へ。”Bar Kazu”という看板が目に入り、そこへ入る。
「へぇ〜。おしゃれなとこっすね。どうやって見つけたんですか?」
「まぁ、知り合いの店なんだけど。」
と言いながらドアを開け、カウンターに座った。
すると、奥の方から声が聞こえた。
「おっ、ケンちゃんじゃん。久しぶり」
そう言って現れたのは幼馴染のカズだった。
「おう、カズ。久しぶりだな。こいつ、バイトの後輩の竹盛。可愛がってくれよ。」
「竹盛くんね。よろしく。」
「よろしくお願います。竹盛っす。えっとー、」
「あぁ、俺は斧田和久。カズでいいよ。」
「じゃあカズさんで。よろしくっす。」
「どうしたの急に。俺の店来るなんて珍しいじゃん。」
「竹盛がどうしても二件目行きたいっていうし、ちょうど近くにカズの店あるなーと思って。」
「そうか。でも本当久しぶりだな。いつぶりだろう。」
「多分1年くらい経つんじゃないか?最後に会った時、俺まだ大学生だったし。」
「そうか。もう1年以上もたつのか。はやいなー」
「だなー。」
「ケンさんとカズさんってどういう関係なんですか?」
「あぁ、俺らは幼馴染だよ。小学校から一緒でな、よく一緒につるんでたんだよ。」
「へぇー。」
「ケンちゃんは昔からよくモテてな、バレンタインなんて大変だったんだぞ。」
「え、そうなんすか?でも確かに、今も可愛い彼女いますもん。」
「ほう。そうなのか。」
「お前も余計なこと言わないでいんだよ。それに、まだ彼女ではない。」
「なんだ、ケンちゃん。告白するのびびってんのか?」
「ちげーって、そんなんじゃないよ。まぁいろいろ大人の事情ってもんがあんのよ。」
「なんだよそれ(笑)」
続けてカズが話し始める。
「まぁでも確かに、もう俺ら大人なんだよな。昔は、若いってだけでなんでもできたけど、今はいろいろ守るものもできちまって。したいこともだんだんできなくなっていくんだよな。」
「なんだよ、カズ。お前らしくないな。」
「実はな、俺子ども出来たんだよ。」
「えぇ!」
パリン。
驚いて、俺はコップを落としてしまった
「ちょ、先輩なにやってんすか。
カズさん、おめでとうございます。」
「おう、ありがとう。」
「マジかよ。もしかして、アリスとか?」
「あぁ。」
「え、誰ですか?」
「アリスも幼馴染なんだ。」
「へぇー。幼馴染同士の恋って憧れますよね。」
「なんだよ、結婚してたのか。なんで教えてくれなかったんだよ。」
「いや、まだ結婚はしてない。先に子どもできちゃってよ」
「それで、アリスの親はなんて言ってるんだ?」
「母さんの方は、アリスがそれでいいならって言ってるけど、父さんの方はどうも。なかなか頑固なんだよな。」
「あぁ、確かに。アリスの父さんは昔から厳しかったもんな。」
「あぁ・・・。」
「どうした?」
「いや別に。」
一瞬、ケンが暗い表情をした。
「なんだよ、何かあるなら言ってくれよ。」
「いや、なんでもないよ」
「そうか。そんで今、同棲してんの?」
「あぁ。」
「へぇー。お前ももう父さんになるんだな。」
「ちゃんと結婚式呼んでくれよな。久しぶりにアリスにも会いたいからよ。」
「わかってる。」
「お店の方はどうよ。儲かってる?」
「いやぁ、正直ギリギリだな。見ての通り、あんまりお客さんこねぇんだよな最近。」
「こんなにお洒落なのになんでこないんすかねー。」
「最近は景気が悪くて、財布の紐なかなか緩めてくれないからな。」
「色々大変そうっすねー」
「全く、適当な返事だなー。」
「まあまあ、ケンちゃん。若いときは、俺らもそうだったろ。」
その後も、俺はカズと昔話で盛り上がり、竹盛も、お酒が進み、カラオケを大声で歌っている。
「じゃあ、カズ。俺らあと一杯飲んだら帰るわ。」
「えぇー先輩。もっと飲みましょうよー。」
「まったく。お前は飲みすぎだ。明日学校だろ。家まで送ってくから。」
「えぇー」と言いながらソファに横になる竹盛。
「まったく。」
「昔の俺らを思い出すぜ。」
「もっとましだったろ。」
「それもそうか」
笑い声が響き渡る。
「じゃあまた来るわ。」
「おう、いつでも待ってる。」
「カズさん。僕のこと〜〜〜忘れないで〜〜〜」
「ったく、お前は飲みすぎだって。じゃあな、また連絡する。」
といって、俺たちは階段を降り、タクシーを拾おうとしていた。
ふと、階段を見ると黒いスーツの男が3人、階段を上っている。
「こんな時間からカズの店に行くのか?」
「えっ、先輩。なんすかー」
「なんでもねぇ。ほら、タクシー来たぞ。」
その後、タクシーで竹盛を家まで送り、俺も帰宅した。
次の日もバイトがあるので、帰って風呂にも入らず、横になった。
携帯にはメールが入っていた。
セイラからだった。
「今週の土曜日空いてますか?」
「バイトがある。でも5時には上がれるよ。」
「日曜は?」
「日曜は休みだけど。」
「じゃあ、またどこか連れてってください。」
「わかった。プラン考えとく。」
「ありがとうございます。ではまた。」
「おやすみ。」
そして、目をつぶり、俺は眠りに落ちた。




