3 過剰な異常
俺は家に着いた。
「ただいま。母さん。」
「おかえり。もうすぐ梨花も学校から帰ってくるから、帰ったらご飯にしましょう。」
そして俺はリビングに移動し、テレビをつける。
「あれ、母さんテレビ壊れた?」
「そんなことないと思うわよ。」
テレビがつかない。ケーブルの接続に問題がると思い確認したが、そうでもないらしい。
「おかしいなぁ。」
諦めて、部屋に戻った。
最近は70年代の洋ロックにはまっている。この時代の音楽は本当に心を落ち着かせてくれる。
そして、梨花と父さんが帰ってきた。
「ケンちゃん、ご飯よー。」
父が、いつもの様にテレビをつけようとした。
「父さん、なんかテレビ壊れてるよ。」
「何言ってるんだ?つくじゃないか。」
あれ?おかしいな。
まぁ壊れてなくてよかった。
そして、いつお通り、父はテレビを見ながら、
母と梨花はおしゃべりをして、俺は黙って黙々と箸を進める。
食事中はいつもこんな感じだ。
そして風呂に入り、眠りにつこうとした時。
電話が鳴った。高松刑事さんからだった。
「もしもし、健人君。夜分遅くにすまない。」
「こんばんは。どうかしましたか?」
「実はあの後、色々調べてたんだが、道東金融は誘拐に関しては、何も知らないっていうんだ。特にそれらしい証拠も出なかった。
それに、君の借金は全額返済されているそうだ。」
「え、いつの間に。」
「誰が返済したかはわからない。お金だけ事務所のポストに入っていたらしい。」
誰だろう。まさか母が勝手に?
いや、そんなはずはない。
病院でちゃんと納得してくれたはずだ。
「時系列を調べてみたんだが、借金が返済された後、君が誘拐された。つまり、彼らが君を誘拐するとは考えにくい。」
「そうですね。」
「何か思い出したことはあるかね?」
「いえ、今のところはまだ何も」
「そうか、こちらも引き続き調べてみる。また何かあればいつでも連絡してくれ。」
「はい、わかりました。おやすみなさい。」
誰が借金を返済したのか、全くわからなかった。
なんか最近身の回りに変なことが起きすぎている。ダラダラフリーターを続けているバチが当たったのか。
その時はまだ、その程度にしか考えていなかった。
次の日、俺はバイトに向かった。
いつものように接客をこなしていく。
「DVD3本で、300円になります。」
「500円お預かりします。」
ポチ、
あれ、、、
レジが開かない。
ポチ、再びボタンを押す。
それでも開かない。
「店長、レジが開かないです。」
「そんなわけないだろ。なんだ、開くじゃないか。」
あれ、、、
「お待たせいたしました。200円のお釣りになります。」
おかしい。なんだこれは。
「ちょっと、健人大丈夫か?」
「すいません。押しても開かなかったので」
「そうじゃなくて、お前の顔真っ赤だぞ。熱でもあるんじゃないのか?」
といって、額を触れられる。
ちょうど、竹盛が出勤してきた。
「ちーっす。先輩熱でもあるんですかー。」
「お前、すごい熱だぞ。やっぱりまだ働くのは早かったな。しっかり休んで、完全に直してから戻ってこい。その状態で、仕事をされる方が迷惑だ。」
言葉はきついが、店長なりの優しさだと感じた。
「はい。」
熱?なぜだろう。体調も悪くないし、普通に働ける。でも確かに、顔だけではなく腕も赤い。
「なんだこれ。」
ただの熱だろうか。
そう思いながら、家に帰り、母に心配され、とりあえず寝ることにした。
「明日はデートなのに。」
そう呟きながら、目が覚めたら治っていることを祈り、目を閉じた。
次の日、赤みは完全に消え、体調にも問題はなかった。
「そういえば今日休みって言ってたな。」
そして、セイラにメールをする。
「色々あって今日バイト休みになった。セイラも休みだったよね。」
返事が来る。
「はい。」
「今から会えない?」
「わかりました。」
よっしゃ。
「じゃあ今からそっち向かうね。」
「まだ起きたばかりだから、1時間後にお願いします」
「了解」
そう返信し、俺も支度を始める。
今日は土曜日で、父も仕事が休みの為、
車を借りて出かけることにした。
セイラの家の前に着き、電話をかける。
数分後彼女が降りてきた。
「今日は車なんですね。」
「親の借りてきた。」
「どこいくんですか?」
「映画でも見に行かない?」
「はい。」
そして、映画館に向かう。
最近流行っているという恋愛ものの映画を見た。
正直、俺にとってはあまり興味のない映画で、流行っている理由がわからなかった。
しかし、彼女は隣で釘ずけになってみている。
やはり女の子はこういうのが好きなんだ。
なんて思っているうちに映画は終わり。
「ふぁ〜。楽しかったー」
背伸びをする彼女。
「そうだな。」
「健人さん本当に楽しかったですか?」
女の子は鋭いな。
「も〜。今度は、健人さんが見たい映画見ましょうね。」
「そんなことないよ。面白かったよ。ラストシーンとか感動したし。」
あんまり興味がないなんて、言えないよな。
「本当ですか?よかったー。」
ふぅ、危ない。
その後も遊園地に行ったり、軽くドライブしたり。THEデートを楽しんでいた。
そして、夕食は近くのレストランを予約していた。あまりお金はないが、借金も無くなったし、少し奮発してみた。
「ここ、高くないですか?」
「まぁまぁ、もう予約しちゃったし。」
お店の雰囲気は、本当に高級そのもので、シャンデリアなどが飾られている。
上品なウエイターさんに案内され、個室へ入る。
「個室って。普通でいいのに」
「まぁ、そんなに値段変わらなかったから」
そう言いながら、向かい合って座った。
「メニューはすでに予約してある。飲み物だけ選んで。」
「じゃあ、赤ワインで。」
「じゃあ俺は麦茶を。」
「飲まないんですか?」
「今日車だから。」
「あ、そっか。私だけすいません。」
「大丈夫。気にしないで。」
その後、病院での詳しい出来事や、バイトの話、趣味の話など、いろいろ話した。
そして俺は、
いつもニコニコしてて、元気を与えてくれる。
そんな、太陽のような彼女に、気持ちを伝えたい。そう思っていた。
「健人さんって、将来の夢あるんですか?」
言おうか迷った。なぜだろう。その時、自分の夢を語るのが恥ずかしく思えてしまった。
でもまぁ、いいか。
「昔は、起業を考えて、それで大学では経済学を学んでた。まぁそんな夢も、いつの間にか消えていったけど。」
「いい夢ですね。消えちゃったなんて、もったいない。」
「そう言ってもらえるだけで、ありがたいよ。でも、簡単じゃないから、自分の会社を持つって。」
「簡単な夢なんてないですよ、健人さん。」
まっすぐ、綺麗な目で俺を見つめる。
セイラの中の純粋な気持ち、清楚さを感じると同時に、自分はセイラのようにまっすぐな心を持てないんだろうなと、少し悲しかった。
「セイラは何か夢、あるの?」
「実は私の夢は、研究者として、新薬を開発することだったんです。治す事の出来ない病気を、私の薬で治せるようになったら嬉しいなって。でも、挫折しちゃって。だから、違う方法で人の役に立ちたいって思った時に、看護師になろうって決めました。」
なんていい子なんだろう。つくづくそう思わされた。
「ちょっと、トイレ行ってきます」
といって、彼女が席を立った。
なんとなく、携帯を見た。
まただ。
うまく動作しない。
電源を入れ直す。しかし、動かない。
するといきなり個室に、誰か入ってきた。
そう、あの白い部屋で見た男だ。
「久しぶりですね。北川様。」
「動くなよ。今警察呼ぶからな。」
「携帯、使えますか?」
くそ、何故知ってるんだ。
「お前一体何者だ。」
「そう大声を出さないで下さい。そうですね。ジョーカーと呼んで頂けますか。」
「目的はなんだ。」
「あっ。そういえば、借金返済出来て良かったですね。」
「なぜそれをお前が?まさか、お前が・・・」
「ほんの感謝の気持ちです。」
「お前に感謝される筋合いはねぇぞ。」
「ははは、いずれわかりますよ。では、私はこの辺で。」
「おい、待てこの野郎。」
カチャ、冷たい鉄の塊が、額に当てられた。
「それ以上動くと、撃っちゃうよ」
不敵な笑みを浮かべるジョーカー。
目の前には、引き金があった。
こ・・・これは・・・銃か。
「くそッッッ!」
俺は一歩も動けなかった。
いつの間にかジョーカーは、姿を消していた。
「健人さん、地面に座って何してるんですか?」
腰が抜けて、地面に座っていたようだ
「いや、別に」
「変なのー。」
「そろそろ帰ろうか」
「健人さん、やっぱり様子おかしいですよ。顔も真っ赤です。熱でもあるんですか?」
体調に問題はない。しかし、さっきの男が気に仕方が無い。すぐに帰りたかった。
「ごめん、ちょっと熱っぽいかも。また今度、ご飯食べに行こうね。」
そういって、彼女を家まで送った。
本当は、帰りの車で、想いを伝えたかった。
でも今は、そんな余裕は無かった。
「健人さん、今日は御馳走様でした。
また連絡して下さいね。おやすみなさい。」
「おやすみ。」
彼女が、ビルの中に入るまで見送り、俺は車を走らせる。
頭の中は、さっきの男でいっぱいだった。
なんの目的で、俺に接触し、さらには借金まで返済したのか。
全くわからなかった。わからないことだらけで、だんだん腹が立ってきた。俺はアクセルを踏み、暗い夜道を駆け抜けた。
家に着き、そのまま階段を登り、部屋に入る。
「もしもし、刑事さん。北川です。」
「やあ、健人君。何か思い出した?」
「いえ、思い出したわけではないんですが、実は今日友達とご飯を食べていると、監禁された時に見た男が現れたんです。」
「なんだって!それで?」
「それで、借金を返済したのがそいつだってことがわかりました。その後銃を突きつけられて、逃げられました。」
「怪我は無い?」
「はい、大丈夫です。」
「それは災難だったね。なんてお店?」
「プリンスホテルの2階にある、Rainbowっていうレストランです。」
「わかった。連絡くれてありがとう。調べてみる。」
「お願いします。」
電話を切り、落ち着こうと思い、音楽を聴こうとした。アプリを立ち上げ、再生ボタンを押す。
あれ?そういえば携帯が直っている。
壊れたり直ったり、よくわからない。
半年前に買い換えたばかりだが、もう壊れたのか。
すると、なぜか勝手にいろんなアプリが起動されるのだ。
「ちょ、なんだこれ」
と思ったら、一気にアプリが消されていく。
それと同時に、自分の腕が赤くなっているのに気づいた。
「どういうことだ?」
コンコン
ドアがノックされた。
誰だろう?一瞬、嫌な予感がした。
「ケンちゃん。入るわよー。」
なんだ、母ちゃんか。
「これから洗濯するから、今着てる服着替えて洗濯機に入れてね」
「あぁ、わかった。」
そういって、母はリビングへ戻って行った。
携帯の故障が気になって、仕方がなかった。
とりあえず着替えを済ませようと、服を脱ぐ。
そして、ポケットを触ると、何か入っている。
何か、紙のようだ。レシートか、と思って見ると。
Jと書かれた手紙だった。
中を見ると
「第一段階:脳の電子信号を操作出来るようになる。」と書かれていた。
Jってまさか、さっきの男。
そうか、確かジョーカーと呼べと言っていたな。
なんだ、電子信号って。
まさか。そんなはずはない。
体への信号は脳がだし、それは電子信号として全身に伝えられるという話は聞いたことがある。
それを操作する?
つまり、俺の携帯が誤動作をしたのが、それに関係しているのか?
テレビがつかなかったのも、レジの異常も、そのせいなのか?
にわかに信じられなかった。しかし、俺の携帯を見ると、そう考えるほかなかった。
確かにそれだと、つじつまがあう。だが、そんなの不可能だ。まず、人間と電子機器の波長が合うはずがない。
「ちょっと、けんちゃん早くしてよー!」
母の声が聞こえた。
とりあえず俺は服を着替え、洗濯機に服を入れる。
そして、洗濯機を閉めた瞬間、勝手に動き出した。
「ちょっと、けんちゃん。まだ洗剤入れてないんだから。」
といって、母が中止を押す。
「ご・・・ごめん」
部屋に戻り、冷静に考えてみた。
答えなんてわかるはずもないのに。
とりあえず、携帯を手に取り、右手に意識を集中させた。
すると、画面にいろいろな映像が映し出される。
なんだろうこれは。ぼやけていてよくわからない。
しかし、自分の意思で何かが表示されているのは間違いない。
なるほど。
これはさっきのデートの映像だ。自分の目線から見えていた景色が映し出されている。
鳥肌がたった。
ほ・・・本当に俺の脳と繋がっているのか。
他にもいろいろ操作してみた。
だんだん、コツをつかむと思い通りの操作ができるようになっていく。
携帯を持っているだけで、メール画面を開き、件名を指定し、メールを打てるようになっている。
リビングへ向かい、リモコンを持つ。
持っただけで、テレビがつき、さらにチャンネルを変えられる。
なんだこの力は。
誰に相談するべきかわからなかった。
信じてもらえるとも思えないし、実際に力を見せたところで、恐れられるだけだ。
こんなの、病院でどうにかしてもらえる話でもないし。
そんな時頭に浮かんだのは、セイラの顔であった。
彼女なら信じてくれるはず。
「もしもし。」
「セイラ?」
「健人さん。もう私が恋しくなっちゃったの?」
ハハハと笑う、彼女。
「ちょっと今から会えないか?」
「いいですけど、さっき別れたばっかじゃないですか。」
「ちょっと話があるんだ。」
「わかりました。じゃあ、杉村公園で」
「ああ、すぐ行く。」
俺は走って向かった。
車を使いたかったが、この能力が未知数で、怖かった。
そして俺は公園に着いた。
夜の公園。風が冷たく、静まり返っている。この公園には遊具もなく、ただベンチと青い色に茂った芝生
しかない。
すると、セイラが走ってきた。
「どうしたんですか?告白ですか?」
本当に告白だったら、どうするんだよ。と思いながらも、
「実は・・・」
なかなか一歩が踏み出せない。
馬鹿にされるかもしれない。
信じてくれなかったらどうしよう。
いろいろな不安がこの一瞬で押し寄せてきた。
「どうしたんですか?なんか今日おかしいですよ?それに、熱は大丈夫なんですか?」
「実はな、俺器械が自由に操れるんだ」
案の定笑われた。
「真剣な顔してるから何かなと思ったら。」
暗闇の中、笑い声が響き渡る。
「違うんだ、本当なんだ。」
といって、俺は自分の携帯を見せる。
そこには今日のデートの映像が映っていた。
「え、これってさっきの」
彼女の表情が変わった。
「そう。さっきのデートの時の映像。視点は完全に俺の目からものだ。つまり、俺の脳とこの携帯が繋がっているということになる。」
「でも、そんな事って。」
「普通考えられないよな。未だに俺でも信じがたい。」
「健人さん、手が赤い」
「そうなんだ。こうやって、何かとつながっているとき、体が赤くなってしまうんだ。」
「じゃあさっき顔が赤かったのって。」
「ああ、俺もよくわからないが体が勝手に何かとつながっていたのかもしれない。」
沈黙が走る。
「誰に相談すればいいの変わらなかった。誰に話しても信じてくれそうにないし。」
「それで、私に?」
「セイラなら、力になってくれるかなって。」
「嬉しいです。頼ってくれて。」
にっこり笑ってこっちを見ている。
汗だくで、この状況を飲み込めず、焦っていたけど、この笑顔で少し落ち着くことが出来た。
「とりあえず、今は少しだけ自分でコントロールできるようになった。」
といって、携帯を操作してみせる。
「あ、そうだ!」
何かを思い出したのだろうか。
「父の知り合いに、脳科学の先生がいます。その方に会ってみますか?」
脳科学の範囲内なのかはわからなかったが、何かがわかるかもしれないと思い、行くことにした。
「じゃあまた明日。先生には私から連絡しておきます。」
「ありがとう。」
そう言って俺はひとまず家に帰った。




