私はお姫様になんて、なれっこない。それでいい。
ついに完結です!
ちょろちょろと番外編も書くと思うのでこれからもよろしくお願いします!!
ドスンッ
お姉ちゃんの部屋のドアに背中を打ち付けるように倒れる。右には逞しい筋肉質のレオの右腕。つまり、この体制は今流行りの壁ドンというやつだ。
「ねぇ、レオ。私とお姉ちゃんどっちが好き?」
あの時、お姉ちゃんが言った言葉と同じものを問う。
砂糖を吐きそうなくらい、甘い声を出す。
「くくく。そんなの決まっているじゃないか
、勿論鈴香だよ。あんな奴と比べる必要なんて無いよ。あんな奴なんて鈴香の足元にも及ばないからね。」
レオも甘い声で言い、幾ら復讐の為の演技だと分かっても思わず恥ずかしくて赤面してしまう。
お姉ちゃんの復讐の為に、お姉ちゃんの部屋の前でお姉ちゃんが好きな人といちゃつくという方法。レオとこの間、一緒に居たのは実は私ということに気付くであろう。そろそろ戸をあけるはずだ。“レオ”とは自分の想像しているレオなのか否か、確認するために。自分の想像しているレオではないことを願ながら。
がちゃっ。
ぷちゅー。
戸が開いたと同時にレオの唇は私の唇に触れていた。
唇をぺろりと舐め、ニヤリと口端を歪めた。
ほう。確かにこうした方がイチャイチャ感があるな。流石レオ。
お姉ちゃんの顔が戸の隙間から見えた。その目尻には涙が溜まり、悔しげに歯は唇を咬み、少し血がにじんでいる。
「貴女、誰よ。不法侵入よ!!」
「お姉ちゃん、私が分からないの? あ、そっか。今前髪をあげているし、化粧もしているからね! こうしてみるとやっぱり双子なんだね。顔がやっぱり似ている」
ほら。とレオの顔を見るとレオは確かに。と頷いた。そして、でも鈴香の方が綺麗だよと付け加えた。
「似ているはずないわ!! 嘘をつかないでよ
! 貴女があのブスな妹なはずがない!!」
ほら、これでどう? あげた前髪を元に戻す。幾らけ化粧をしたからと言っても顔の下半分はファンデーションとグロスしかつけていない。
それを見ると鈴香だとわかったらしい。憎らしく私を睨んだ。
「鈴香を睨むな! ………………鈴香が望めば殺してやることもできるんだぞ?」
「何言って……!! 殺したら捕まるのよ!! ほら……本当に私を殺せる? 殺してみなさいよ!!!」
殺せないと思っているのだろう。レオには法律は効かない。なにせ、妖怪であるから例え牢屋に入れられてもぶち壊して出ることも出来るし、銃で撃ち殺そうとしても、そんなスピードではレオの動きにはついていけない。まぁ、無敵なのだ。人間に対してなら。妖怪同士で戦わせたらどうなるかは分からないけど。
「くくくく。苦しいか? ほぉう。苦しい。離してほしいと……。でも殺せるものなら殺してみろっていったのはテメェだよな?」
レオの指は姫花の首に絡みつき、姫花の肺に入り、体を循環する空気を遮断している。そろそろ限界なのだろう、肌の色は蚕のように青白く、空気を求めていた大きく開けていた口は力尽きたように徐々に閉まって行く。
「そろそろ死んじゃう。後片付けが大変だから離して」
レオの指から逃れられた姫花はまた空気を求め、小刻みに呼吸を繰り返す。はっはっはっはっ。とまるで犬のように這い蹲り息をする。その口端からは涎が垂れていて、それが床に小さな池を作る。その横で私達はイチャイチャする。
「ふふふふっ。くすぐったいよレオ」
私のこめかみにキスするレオに言う。その姿はさぞかし屈辱的に映ったであろう。普段なら私の立ち位置にいるはずなのにそうはいかず、しかもその立ち位置にいるのは嫌われている妹である私だ。
「愛してる」
レオの言葉に優しく答える。
「私もよ」
ちゅっ。
ふふふふ。
ちゅうっ。
ぷちゅっ。
くくくっ。愛してる
ちゅっ
んっ
ちゅう
姉の前でイチャイチャする。好きな人が大嫌いな人、しかも長年見下していた妹となるとかなり悔しいだろう。キスは愛する人の為だけだと思っていたけれど復讐の為のキスもあるだなんて。愛する人とより復讐のキスの方が快感だわ。悔しさに歪む口元。涙で潤む目。どれも素敵だわ。
「ねぇ、お姉ちゃん悔しい?それとも悲しい?それとも両方??…………………ふふふ。私はお姉ちゃんの双子の妹よ。私だって貴女と同じ。性格がすごく悪いのよ」
皆から好かれているお姉ちゃんがお姫様なのはしょうがない。そうあきらめたのはいつだろうか?
かなり昔。幼稚園児の頃悟った。私は悪役になろうと。大嫌いなお姉ちゃんと対になるもの。
私はお姫様になんて、なれっこない。
そんなの分かってる。それでもいいの。私は誰かを虐めている方が性にあっているからね。ほら。こんな嫌われ者の私には悪役がちょうどいいでしょう?
鈴香は復讐のためならなんでもします。この間は姫花との距離があったので、本当に口付けをする必要は無かったのだけれど、今回は近距離なので本当に口付けをしました。