権威と選出
松本弓が十四歳の時に東府の郡を統括する二百五十人の代官が入れ替わる。村の名主や町の年寄が名乗りを上げて代官を希望したり、その希望者達の中から選んだりする。支持者が多い者が代官になる。一つの郡に十数の町村が有るので、協議で決まる所もある。また、村の者や町の者達に直接選ばせる所もある。郡によってやり方が違う。
しかし今年中に入れ替えを済まさなければならない。決まりそうにない所は執権である弓の叔母の波が決めていく。
四年前には帝の予測通りに地震と津波がまほろば帝国の南西部を襲ってきた。しかし十分な対応が出来たので、一次被害は免れた。土地は荒れ建物が倒れて復興に時間はかかったが、避難民達は周りから支援を受けながらも建て直していた。そこで活躍した者に波は注目する。
波は今年も忙しい。神通力が使える弓は将来、波の跡を継がなければならないのだ。十七歳になった姉の鞠もそろそろ結婚しなければならない。鞠は子どもを生んで育てて東府の御台所として役目を務めなければならない。鞠も弓も将来に不安を感じたが、文句は言えない。
二十歳になった兄の詩郎は前回も父親の菊地正道と共に無事に上洛祭に参加し、今年も参加する。詩郎もまた、正道の跡を継いで大棟梁になるはずだ。鞠が結婚した場合、その夫か詩郎かどちらを大棟梁にするかを鞠が決めなければならない。
家来達や母親の桑から勉強以外にも政治の話を聴くようになった。今年は何処が豊作で何処が凶作か。どの代官がどんな事を考えて何を何の為にしているのか。誰と誰が仲が良くて逆に犬猿の仲なのか。他の三府と京との交渉の結果。色々と聞かされる。鞠は涼しい顔で聴いているが、弓は自分が波の跡を継いで執権になれるのか疑問だった。
弓は時間の有る時に歯車と板と様々な道具を集めてはカラクリを試作していた。神通力の虹色の糸でそれを動かしてみる。領民から畑を借りてそれで耕したり、船に水車を取り付けて川で操舵したり、荷台に取り付けて荷物を運搬させたり、試行錯誤した。家来達は危険が及ばないように注意しながら観察する。時折成功するが失敗も多い。
執権になる者は神通力を駆使するよりも周りの利害調整をしたり資料を読み込んだり陳情書や嘆願書を吟味したりしなければならない。けれども弓は自分が波の様に器用には出来ないだろうと感じている。波もまた船に着いた水車で絶妙に操舵し、車輪の付いた駕籠に乗って遠くまで行ったりしているが、それ以上に政務をこなしている。
御台所と執権は女系女子なので代官の様に民衆が選べないのだ。それが権威である。




