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ささやかな夢

 角倉平太は十四歳になる。父親の筆岡鉢兵衛と一緒に農作業に精を出している。最初は慣れなかったが、鉢兵衛が懇切丁寧に教えるので、頑張れている。


 二十歳になった長姉の鋤は最近、叔母の桐と行動を共にすることが多くなった。名主として多忙の桐の手伝いをしている。代官に報告したり、年貢の確認をしてそれを記したり、村の者達の悩みを聴いたり、喧嘩の仲裁をしたりしている。二人はその他にも神通力で田畑に肥料を巻いたり害虫を駆除したりもしている。神通力を使える女達と連携もしている。


 十七歳になった次姉の富は母親の桂と一緒に家事をしたり神社で女達と田畑や家や水路について話し合ったりしている。互いに財産や権利について把握して、誰が何処を修繕するか、富の分配をどうするかを決めていく。力仕事は男達に任せ、老人や子どもの世話は女達が協力しながら行う。


 平太も姉二人も雨の日や三日に一日は仕事をしないで休んだり読書したりしている。読み書き算盤は一通り出来るが、歴史や地理や産業や色んな知識は身に付けた方が良い。亡くなった祖父母や大叔母の蔵書や、村の者達から借りたり、他の村や町から買った書物もある。紙で出来た本も有れば、竹簡で出来た物も有る。


 鉢兵衛からは農学書や植物図鑑や地理書を勧められる。けれども平太は神通力について書かれた書物に興味を持っている。男は神通力を使えない。だからこそ憧れる。


 神通力の使える女達は鍛錬によって様々な種類の神通力を扱えるようになるが、人によって得手不得手が激しく、一つの神通力に特化する傾向が有る。誰からも指摘されなくても何が得意なのかおのずと分かる。また、どうすればその神通力が発動するかも自ずと分かる。


 唯一、みかどは代々男系男子であるにもかかわらず、災害の予知が正確に出来る。帝の娘も息子もその力は受け継がれるが、娘の次の世代からは受け継がれない。息子も帝位を継承しなければ、次世代で一気に弱まる。帝位の継承には特別な儀式が行われるが、公開はされない。一人の帝に側室を十人ほど迎えているので帝国は千年ほど続いている。


 平太にとっては帝も京も遠い存在だ。それに従う四府も遠い存在だ。更に下の郡を統括する代官所も平太は行ったことがない。せいぜい隣の町や村に行くぐらいだ。


 しかし一度は遠い所へ旅に出たいと平太は漠然と思った。こちら深沢村は内陸部なので海に行きたい。京から流れる川からも遠い。船に乗りたい。婿に行くのは何処か他人事だった。

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