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姉の縁談

 松本弓は十七歳になった。最近、執権である叔母の波と行動を共にすることが多くなった。政務の補佐をしているが、具体的な指示を受けて雑用を少しずつこなしている。資料や陳情書を読み込んで整理したり、郡の代官達の話を聴いてまとめたり、家来達と共に船や徒歩で領民達の暮らしぶりを観察したりする。


 二十歳になった姉の鞠は御台所である母親の桑と、二十三歳になる兄の詩郎は大棟梁である父親の菊地正道と行動を共にしている。今年もまた冬に上洛祭が行われる。正道と詩郎と波はまほろば帝国中心部の京に行って一ヶ月も滞在するので、その間に桑と鞠が東府を直接、統治する。


 御台所は府の最高権威だが、普段は執権が内政を、大棟梁が軍事と外交を担当している。上洛祭の時には御台所が政務を行う。普段は後継ぎを育成しながら公務に励む。儀式や会議を主催して家来達や郡の代官達の士気を上げている。


 今回、桑は御台所として後継ぎの鞠の結婚相手を探している。正道の次はその新しい夫か詩郎が大棟梁になる。他府の有力者から婿を迎えるか、将来有望な領民達から選ぶか桑は迷っている。他府から縁談は来ているし桑も既に鞠に引き合わせている。正道は西府の大棟梁に仕えていた家臣だったので、政治的な釣り合いと血の濃さに配慮して西府との縁談は互いに避けている。


 鞠も迷っている。北府や南府の者達に欠点は無かったが、承諾するほどの覚悟が決まらない。彼等は待ちわびて他の所と縁談が決まっていく。彼等の中には京のみかどに仕える公家に婿養子になる者もいた。桑も帝室や公家から婿を迎えようと考えて何人か招いたが、鞠は決心がつかない。


 三十歳を過ぎての初産は危険な上に娘を二人以上は産まなければならない。早く縁談が成立しなければならない。鞠自身も分かっているが、妊娠や出産は命懸けだし、一生を賭けた決断である。相手に非はなくても尻込みをしてしまう。そんな鞠に桑は叱咤激励をする。万一、夫との関係が上手くいかなければ離婚して他の男と再婚すれば良い。そう説得された鞠は覚悟を決めた。


 鞠は桑と弓に提案した。東府の領民の中から鞠にふさわしい若い男を選ぶ。無論、独身で恋仲もいない男だ。桑は承諾した。前々から波と桑は家来達や代官達に戸籍を調べさせている。丈夫で温和で頭が冴えている若い独り身の男を探したり、逆に本人とその家族が名乗り出たりする。東府の人口は八百万人ほどいるが、めぼしい男は三千人ほどいた。


 その三千人ほどの若い男達から三十人にまで絞っていく。そこから鞠が自ら選ぶ。その三十人を弓が家臣達や代官達と一緒に選ぶのだ。この一年、弓は波と一緒に行動を共にしながらもその大事な任務を遂行している。


 鞠の妹として弓は鞠の好みを熟知している。男達を観察しながら選別して行った。家臣達や代官達からだけではなく、領民達からの評判も聴いたりしている。上洛祭の頃には既に三十人を選んでいた。

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