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将来の漠然とした不安

 角倉平太は十歳になる。東府柴埼郡深沢村。今年、まほろば帝国中心部にそびえ立つ富嶽の向こうで大きな地震と津波が来ると予想されていた。山に鎮座するみかどが予知しているのだ。平太もそれを知っているが、深沢村に大きな影響は無い。東府の御台所と郡の代官達と町の人達は避難民の対応で忙しくしているようだ。


 むしろ平太にとっては十九歳になった兄の信太が結婚して婿に行ってしまう事のほうが大事だ。時折、平太と二人の姉に威張ったり、母親の桂に反抗的になったりもしたが、何時もは真面目に農作業する頼もしい兄だ。信太自身もまんざらではない。


 信太は父親の筆岡鉢兵衛と別れて寂しがってはいるが、それ以上に新しい妻になる一歳年下の藤崎岩を気に入っている。岩は同じ柴埼郡だが深沢村から少し離れた遠霧村に住んでいる。桂と鉢兵衛に連れられて岩とその家族に会って色々と話し合った結果、縁談が成立。今年の冬に祝言を上げる。信太は岩の村に五日ほど滞在したが、遠霧村の人達の反応は悪くない上に岩は温和でよく笑う。信太だけではなく岩もまんざらではないようだ。


 これから災害が起きるので盛大な式にはならないが、真面目に行われる。平太は十三歳になった次姉の富と十六歳になる鋤と一緒にハレ着を用意したり踊りの練習をしたりした。平太は裁縫が得意ではなかったので、鉢兵衛と桂が服を買い与えた。二人の姉は自分達で服を縫製している。平太も手伝う。姉達は上手い上に速い。


 富は去年の終わりに初潮になった。鋤と一緒に月経について相談し合うようになった。二人共、月経前に腹痛や頭痛を感じて困っているので、村医者から薬草を煎じた薬湯を貰って飲んでいる。効き目は有る様だ。


 平太は傍らで月経の話を複雑な気持ちで聴いていた。詳しく問い詰めると姉二人が嫌がると何となく分かるし、完全に無視するわけにもいかない。姉二人は平太に何度も女をいたわる様にと念を押している。しかし、具体的に平太に何かをさせるわけではない。


 母親の桂も叔母の桐も相変わらず働いている。二人は閉経前だが、ケロリとしている。また、去年の冬に二人の両親が寿命と流行病で亡くなったが、二人共立ち直っている。孫の平太・富・鋤・信太が涙を流す中、葬式はしめやかに行われたが、桂も桐も冷静だった。筋力は無くても女は気丈なのだと平太は何となく感じた。


 富は神通力が使えず、鋤は神通力で害虫を駆除する。だから富が将来、婿を迎えて角倉家を継いで子どもを何人も産んでは育てるのだ。鋤は神通力を駆使しながら富を支えて村に貢献する。農作業や力仕事は婿がやる。富も鋤も不安を感じながらも家族や村からのそんな期待に責任を感じている。


 一方、平太は特に何も責任を感じていない。何処かの家が平太を必要とすれば婿入するだろうが、平太にはまだ他人事だ。富が婿を迎えるまでは兄の代わりに父の手伝いをするのだろうが、それ以降は想像出来ない。何処にも婿入せずに町に出て自活するかもしれない。平太自身、野望も目的もなく、将来の自分の予想が出来ない。


 とにかく、兄を見送ろう。平太は兄の幸せを願った。

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