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備え

 まほろば帝国東端の東の岬にある針塩城。松本弓は十歳になった。姉の鞠は十三歳になっていたので、初潮を経験している。毎月、頭を抑える日が三日ほど続くと、太陽に向かって健康を祈りながら謝っている。経血で汚れた下着を女性家臣達に洗わせては日向ひなたに干してもらっているからだ。血は穢れとされている。しかし妊娠や出産の為に月経は必要だと母親の桑から教わっているので、弓には理不尽な話だと感じている。


 十六歳になる兄の詩郎は父親の菊地正道と一緒に行動するようになっていた。来年の上洛祭では大棟梁である正道と執権である叔母の波と一緒に詩郎もまほろば帝国中心部のみやこに同行する。その打ち合わせで詩郎は忙しく、弓と一緒にいることは少なくなっている。


 また、今年は南府から人々が避難して来ている。京に鎮座するみかどが西府に近い南西部に大地震と津波を予想したからである。退避も対策もしなければ一万人近く死亡すると考えられている。前回の上洛祭で帝が四府の執権達と大棟梁に伝えていた。


 三府は南府からの避難民を受け入れている。南府の人達も財産と特産品を運び出して特産品を礼として送っている。温暖な南府の主食は甘藷・芋だ。弓も最近、芋を食べるようになった。


 正道も詩郎も波も避難民との対応やそれを受け入れる領民達との利害調整で忙しい。弓は詳しい事は分からないが、これからの甚大な災害に大人達が必死に備えているのが分かる。


 府の最高権威である御台所として母親の桑は家臣達や親族を叱咤激励している。波も正道も逐一報告するし桑もそれを傾聴している。御簾みすを通して郡の代官からの直接、陳情を聴くこともある。


 郡の代官は府の下部区域を統括している。東府は二百五十郡有るので同じ数だけ代官もいる。男女比は二対三と女性が少し多い。十二年に一度ほど入れ替わるけれども毎回、比率は大きく変わらない。男達の中には筋力を自慢し過ぎるあまり攻撃的になって人望を失う場合があるからだ。一方、女達は神通力を駆使したり、神通力が使えない女達も子育てを終えた才媛が代官に選ばれることがある。


 読み書き算盤以外に弓と鞠は桑から色々と教わる。民草の為に尽くしつつも毅然とした態度を取る。年齢や立場や能力差や知力差を越えて女同士で協力をし合う。女に尽くす男を信頼し敬意を払い大事にする。一方で女に狼藉を働いたり蔑ろにする男には罰を与える。また、弓と鞠は家臣達からも歴史や地理や産業や技術を学ぶ。


 弓は神通力で虹色の糸を出してそれで木で出来た人形とぬいぐるみを操るのが趣味だ。これを活用して道具を動かし何か仕事や商売が出来るかもしれない。船に水車を取り付けて回転の向きを絶妙に変えれば複雑な操舵が出来そうだ。また、大きな木の人形を動かして犯罪者を捕まえたり罰したりも出来そうだ。弓は考える。

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