頑張る女達
東府柴埼郡深沢村。角倉平太は七歳になる。姉二人と共に雨の日もしくは二日に一回の頻度で大叔母と祖父母から勉強を教わり、他の日は母親の手伝いをする。自宅だけではなく祖父母や大叔母の家を掃除したり洗濯したり炊事もする。気晴らしに五日に一回ほど村の田畑を回って村の人達に挨拶したり年の近い子ども達と雑談したり遊んだりする。
十三歳になった長姉の鋤は線香に火を付けて害虫を駆除していく。その甲斐があって深沢村では凶作は起きていない。他にも神通力が使える女達がいるので、その女達も神通力で田畑の管理をしたり家事をしたり老人や子どもの世話をしたりする。よく泣く赤ん坊や認知症になった老人の心を読んだり、作物以外の雑草を枯らしたり、表面の土と下の土を入れ替える天地返ししたり、大きなたらいに水を入れてその水を回転させて洗濯したりしている。
神通力の使えない女達も家事をしたり子どもを育てたりしている。時々、女達が神社に集まって色々な事を話し合っている。平太の叔母である桐も名主としてそこによく参加しては村の問題を解決していく。おかげで交友関係や親戚関係は円滑だ。桐は更に資料を書いてまとめて郡の代官とも交渉している。
十歳になった次姉の富と一緒に行動する平太は女達の活躍を遠くで眺めている。どの女達も頑張っている。男達もそれが分かっているので、特に反発せずに村の女達で決められた通りに黙々と仕事している。誰が何処でどの作物をどの様に育てるのか。勤勉で才覚有る男達は信頼されて自分達で考えて仕事をするが、怠け者や陰険な者や攻撃的な者は叱責される。特に女に反抗的な男は神通力の有る女達に捕まって枝を切った竹の梢で背中を叩かれる。更に女に暴力的な男は郡の代官所に突き出されて牢屋に入れられる。反省が認められれば釈放はされる。
十六歳になる兄の信太は数ヶ月前に母親の桂と喧嘩して母親の頬を殴って痣を作らせた。成長して力のついてきた信太は家長である桂に反抗的になっていた。農作業を一生懸命しても桂はあまり誉めないし、それどころか家事をしない信太に小言を言っていた。目の前で喧嘩を目撃した富と平太は驚いたが、鋤は母親に急いで寄って助け起こし、父親の筆岡鉢兵衛は信太の襟首を黙って掴んで外に出した。
ドオン。と外から大きな音がした。平太が外に出ると鉢兵衛が信太の胸を思い切り蹴って信太が倒れていた。信太は驚いた顔をしたが、大泣きした。平太も背筋が冷えるのを感じて恐ろしくなった。普段、鉢兵衛は温厚で優しい。自分達家族がどんなにわがまま言っても甘えても笑顔で宥めていた。
女に反抗してはならない。改めて平太は思った。
また、平太は鋤が心配になった。鋤は数ヶ月前に初潮が来ていた。これから毎月、月経が来るのだと桂が真剣に説明した。女ならほぼ誰でも体験する上に、体調を崩す者も多い。それが毎月数日続くのだ。女は大変だ。平太は哀れみとも違う感情を持った。月経の時には鋤は念入りに下着を小さな桶で洗っては他の洗濯物から離れて干す。日向に干しているが、太陽に顔を向けて目をつぶりながら手を合わせている。血は穢れなので太陽の神に消毒を祈りながら謝っているのだ。
男も夢精が有る様だが、女の方が大変なのだろうと何となく平太は慮る。




