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世代交代

 松本弓と角倉平太は二十五歳になる。ここ数年で二人の立場は変化した。


 三年前に帝の予測通りに霊山・富嶽の西側で噴火が起きた。しかしまほろば帝国全土で対策を十分に建てていたので人的被害は殆どなく、凶作は避けられ、火災も最小限で済んだ。何度か雨が振り火は収まり溶岩が冷える。帝国の者達は帰還した避難民を支援しながら復興させていく。


 弓は精力的に働いた。叔母の波と共に郡の代官達の意見をまとめ指示を出し領民達を叱咤激励した。老人や子どもの生活に配慮しながら産業が滞らないようにもした。篤農家や巨匠や豪商を活躍させつつも、相応に課税する。役人達が不正していないかも監視させ合う。民生を安定させたり正確な資料を作成したり逐一報告したりする者を昇級させたり多めに塩の俸給を与えたりした。


 それが評価されて弓は今年の春には執権になった。波は半ば隠居して弓を支えることにした。内政の決断の多くを弓に任せる。弓の父親で大棟梁を長年務めてきた菊地正道も隠居して弓の兄の詩郎に引き継がせた。


 弓の母親で御台所の桑は六十歳になるが頭はまだ冴えており体力も残っているので公務を続けている。弓の姉の鞠が後継者だが、平太との間に去年に息子を生んだばかりだ。四年前に娘を生んでいるので二人目だ。


 娘の桜と息子の清助。授乳は鞠がするが、その他の面倒は平太が担っている。農村で末子の平太は困惑気味だが松本氏の家来達と一緒に子ども達を育てている。村にいた時は農作業ばかりをしていて村の子達の子守をしなかったが、幼子の相手は時々していた。首や腰が据わるまでヒヤヒヤしたが、桜は無事に育っているし清助は二人目なので慣れた。


 時折、新しい大棟梁や執権の手伝いをするが平太は政治の表舞台には立たない。一日の大半は子ども達と過ごす。泣いたらあやして糞尿が出たらおしめを取り替えて毎日一回は身体を洗う。風邪を引けば看病する。鞠は授乳するが公務もこなす。鞠よりも平太の方が子ども達と共に過ごす時間が長い。子ども達は見事に平太になついている。


 大事な世継ぎなので家来達は平太を手伝うが、平太が愛情深く熱心に育てるので時折、敢えて離れて親子水入らずの時を設けている。


 桜は何時も珍しそうに清助を見つめている。最近は読み聞かせをしてもらっている。


 平太は二人の子達が無事に育つのを願うばかりで不満は無い。政務も公務も責任重大で激務なので手伝うぐらいが丁度良い。弓も詩郎も優秀な為政者だと素直に認めている。領民達からも郡の代官達からも人望も有る。平太は子ども達と一緒にいる方が気楽だし性に合っている。


 たまに女に指図されるのが嫌で家や自治や政治に口出しし、周りを混乱させる迷惑な男が出てくるが、平太は愚かだと思っている。下らない自己顕示欲と承認欲求を満たす為だけに女達の仕事を無駄にするのは害悪でしかない。また、そういう男はすぐに淘汰される。男は真面目に働くべきだ。才覚や知性が有るならば仕事内容を改善したり稼いだりすれば良い。女に尽くし女に敬意を払う男は身分も生活も保障される。


 平太は鞠と結婚して良かったと思う。突然の縁談に選ばれて驚きと恐怖を感じたが、鞠は気さくで優しい。公務に励む時は威厳が有るが、仕事を終えた鞠と一緒にいるとむしろ気が休まる。平太は鞠を事あるごとに労っている。鞠に敬語で話して敬意を払っているが、親しみも感じている。

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