上洛祭の報告
大棟梁と執権が上洛祭から戻って来た。領民達が見守る中、松本鞠の父親の菊地正道と叔母の波と兄の詩郎と妹の弓が船に降りてくる。鞠は身重なのでその夫の角倉平太は松本氏の家来達と共に迎えた。皆、疲労しているが無事に帰還して安堵もしている。平太は皆を慇懃に労った。家来達は荷物を受け取る。
一行は針塩城に入って休んだ。特に大棟梁である正道は六十歳だ。御台所で正道の妻でもある桑は留守を預かっていた家来に茶を出させて正道に飲ませた。正道は桑に霊山の噴火と上洛祭の内容を語る。桑は正道を気遣いながらも聴く。
平太は鞠の所に行って体調を気遣う。公務を減らし悪阻の治療を受けではいるが、油断はできない。鞠は家族と再会出来て喜んでいるせいか、調子が良いようだ。平太は安心して顔を綻ばせる。
二人が談笑していると弓が来た。弓は上洛祭について報告する。何時も冷静沈着な弓がやや興奮気味に語っている。鞠も平太も驚いた。
公家を含めた京の男達はどことなく女を見下している。文学も芸能も音楽も工芸もどれも一級ではある。しかし男達はそれを創り上げても女達に対して優越感を持っている。また、山に住む公家の文化水準は高く暮らしぶりは贅沢だが、麓の庶民は貧しい者が多かった。勤勉な篤農家や見事な工芸品を制作する巨匠や才覚有る豪商がいたが、税が高いのか、服装は質素で食事の質と量が不十分なのか華奢で家もこちら東府の領民より小さくて粗末だ。
二年後に霊山・富嶽の西側で噴火が起きるので今回はその対策を話し合った。太陽が遮られる可能性が有るので曇りでも育つ品種を用意する。宮殿を避難所に引越しして遷都するのでその手伝いも四つの府が行う。京の西側から避難民が来るのでそれを受け入れる準備もする。
弓はまだ疲れが取れていなかったが、執権である叔母の波を補佐する為、報告を終えると頭を軽く下げて部屋を出て行った。将来の執権としての責任を十分に備えている。元々弓は真面目だが上洛祭の参加で更に刺激を受けたのだろう。平太は圧倒されながらも弓の息災を祈った。
平太は弓の話を聴いて京に幻滅した。文化水準が高くても庶民の暮らしは貧しい。男達が威張っても女達の反感を買うだけで男達が幸せになれるわけではない。むしろ平太に厳しいけれども、ひたむきに叱咤激励しながら教育する松本一族とその家臣の方が人徳が有る気がした。災害を正確に予知する帝は神に近いが、慕う気にはならない。血統を絶やさない為に正妻と九人の側室と関係を持つが平太は帝を羨ましいとは思わない。
これから鞠は子どもを生む。平太の子どもでもある。平太は安産を祈りつつも子どもを健やかに育てようと改めて誓う。




