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上洛祭

 宮殿に到着した。これから十数日滞在し、毎日早朝から昼前まで四つの府と京の主立った者達が協議する。みかどの予想した災害を聴いて対策を練ったり、親睦を深めたり、帝国全土の方針を決めたり、勅令を出して決める。


 四府からは特産品や作物を既に霊山の中腹で公家に献上している。公家はそれを更に帝に捧げている。上洛祭では協議の前半に帝室側が山菜料理を提供する。鹿や猪の肉も調理されて出される。皆、朝食を摂りながら親睦を深めて話し合う。血は穢れとされているので、獣肉を食べて協議を終えた昼には太陽に向かって跪いて神に謝罪する。


 昼過ぎには宮殿近くの屋敷に移って昼食を摂ったり休んだりする。


 東西南北の岬からはるばる来た四府が御簾みすの奥に鎮座する帝の前で侃々諤々とした議論を展開する。特に四人の執権が舌戦を繰り広げる。論理の矛盾を互いに批判し合うが、相手の尊厳や文化は尊重する。白熱すると帝が宥める。帝は災害の予想や議題を提示した後、時々質問して会議を進行させていく。執権は次々に発言していく。四人の大棟梁も助言する。


 壁際では京の公家達が黙って見守っている。京の現状を語る以外は静かだ。帝や四府から訊かれなければなかなか喋らない。特に男性達は沈黙している。帝や四府の者達の顔色や言動を観察しながら使用人達に命じて給仕させたり朝食後は後片付けをさせたりしている。


 東府から来た松本弓は他の府の人々が懸命に発言しており、驚嘆した。時折難しくて分からない所も有ったが、皆がこれから来る噴火の対策や現実的な税制度や民生や外交について真面目であることは伝わる。帝以外、発言を控えている公家の男達が少し不気味だったが、毎朝朝食を出して絶妙に接待している。宮殿に辿り着く前に立ち寄った公家達と違って女達をどことなく見下す態度をとることもない。


 出された料理は独特の風味が有って美味い。ワラビやゼンマイやキノコやアケビが程良く調理されている。珍しい獣肉も噛めば噛むほど味わいが口の中に広がる。薬草を煎じた茶も不思議で心地良い香りがする。


 使用人達は単に料理や飲物を運ぶだけではなく、公家の命令を受けて食器を慇懃に片付ける。朝議の流れに合わせて御膳も撤去する。


 昼になると皆は庭に整列して太陽に向かって跪く。曇りや霧の時でも礼拝する。


 午後は昼食を摂りながら休む。弓は最初は疲れていた。直接的な活躍は無かったが、朝議の為に資料を用意してまとめてそれを読み上げた。しかし七日ほど経つと慣れて他の府の者達と宮殿の周りを散策したり霊山から京を眺めた。


 他の府とは育てる作物も気候も暮らしも考え方も違う。領土の広さはほぼ同じだが人口に差が有る。互いに興味を持つことはあっても、罵り合うことはない。それは禁忌とされているし、無闇に対立する理由もない。また、全ての府は京と違って府を治める御台所は女系女子だし、政務や公務を担っているのは女性ばかりだ。筋力の有る男性は治安や外交を担う。家督や財産を相続して判断するのは女性で、男性は労働する。女に尽くし女に敬意を払う男性の身分や生活は保障されるし、逆に女性を蔑ろにする悪漢は罰せられる。


 他の府の者達と宮殿近くの公家の屋敷を尋ねて作詩することもある。公家の方から舞や劇を観せることもある。公家は政務よりも公務と文化に力を入れている。文学も芸能も一流だ。帝に披露をしている。弓は公家の文化水準が非常に高いと認めざるを得なかった。


 しかし、麓に暮らす庶民の生活は意外に貧しい。しかも男達が自治や政治に口出しして煩わしい。


 上洛祭は無事に終わり、一行は霊山を下って行く。弓は頭がくらくらしながらも帰還する。

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