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 松本弓は叔母の波、兄の詩郎、父の菊地正道と共に川を遡ってまほろば帝国の中心部に位置するみやこに到着した。弓を含めた皆は見張りを残して緊張した面持ちで船から降りる。弓にとっては初めての上洛祭である。川岸には京に住む庶民や公家が見物に来ている。


 京は富嶽という巨大な霊山とその麓から出来ている。東府と同じ人口を抱えているが、広さは三分の一程度だ。人口密度が高い。下級の公家数人に誘導されながら弓を含めた一行は荷物を載せた車を押して登っていく。頂上付近には宮殿が鎮座している。


 登れば登るほど空気が薄くなって苦しくなる。一行は何度も休んで身体を慣らしながら登る。途中で霧や雨や風に襲われて近くの宿泊所に避難する。高い所であればあるほど、庶民は減って位の高い公家の割合が増える。道は広くて岩石でしっかりと舗装されている。滑らないように溝も彫られている。


 到着するまで五日ほどかかる。立ち寄った公家の屋敷に挨拶し献上品を贈る。公家の方からみかどの様子を聞かされる。帝は二年後に富嶽の西側が噴火すると予知しているので東側へ遷都の準備を始めている。


 富嶽は活火山なので噴火は十年から百年単位で起きる。それを前提として麓の東西南北四カ所に避難所を設置して庶民に住まわせている。噴火が起きる前に反対側にある避難所に遷都するのだ。治まれば復興して頂上に戻る。


 弓はそれを知って背筋が冷えるのを感じた。火山灰は京だけではなく帝国の半分以上に降り注ぐ場合がある。数日から数ヶ月は太陽を遮り、不作の原因にもなる。溶岩は全てを飲み込み火事を起こす。冷えるまで数年かかることもある。母親の桑や家来から教わっている。


 公家達もその世話をする使用人達も神妙な顔をしている。今回の上洛祭の後に本格的な引越しを始めるのだ。


 男系男子が基本の帝に仕える公家達も当主は男性が多い。女性当主も巫女として祭祀に携わっているが、男女比は三対ニだ。公家は千年近く続く帝室の分家だ。四府の家柄とその家来との通婚で血が薄まると再び帝の娘や息子と通婚をする。逆に帝は即位前に貧しい家の女達から十人ほど選んで正室や側室にする。地震や津波や噴火を正確に予知する帝室の血を絶やさない為だ。帝は男性で唯一、神通力を持った存在でもある。


 京は男性優位だ。特に公家は優雅で上品な物腰だが、言動の端々に女性をどことなく見下している。特に月経を忌み嫌っている。月経中の女性は町の隅の小屋でひっそりと過ごさなければならない。男性達は露骨に気味悪がる。時折、弓に対しても冷たい視線を送る。弓は腹を立てたが何も言わなかった。


 京の外では女性は月経中でも歩き回り家族と暮らす。経血で汚れた下着を洗って干す時に太陽の神に謝るぐらいだ。


 麓では田畑が広がり庶民が仕事をしていたが、男が労働よりも政治や自治や家について口出していた。川を行き来する商人達や水夫達も女に遠慮していなかった。府を治める者として弓の一行を丁重に扱うが、自分達の身近な女達には居丈高だ。度が過ぎると流石に女達も抵抗して捕まえて何処かへ連れ去る。女に恐縮しない男達を見て弓は驚き不快に感じた。東府とは全く異なっている。

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