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角倉平太

 うぶすな大陸中心部に聳える霊山・富嶽から北東部に位置する柴埼郡深沢村で今年の冬に男の子が生まれた。母親の角倉桂は自分も息子も無事なので安堵した。産婆は桂の血を丁寧に拭うと掃除や片付けをする。その後に労いの言葉をかけると産婦用の薬を置いて行った。桂は礼を言うと隣でバタバタ動く男の子を見やる。


 長男の信太と長女の鋤が次女の富を連れて来た。三歳になった富はポカンと生まれたばかりの弟を見つめている。六歳になった鋤は安堵の溜息を吐く。九歳になった信太は不安そうな顔をする。首が据わり腰が据わるまで半年はかかる。桂がこれから授乳させながらつきっきりで弟の面倒を観るのだ。信太もまだ幼い妹二人の相手をしなければならない。


 日が沈む頃には夫の筆岡鉢兵衛が神社から帰ってきた。妹の桐も来ている。桐は隣で両親と暮らしている。今は農閑期だが出来た作物の管理と分配について話し合い、村の中で古くなった家や水路を修繕し、老人や子どもの様子をうかがっている。この日、怒鳴り合っていた男二人を鉢兵衛と桐は村の者達と一緒に仲裁していた。カネの貸し借りで借りた者が元本を払ったが利子を払わなかったからだ。カネといっても実際は硬貨ではなく塩だ。ここは内陸部なので塩は貴重だ。喧嘩していた二人は今では反省して大人しくなっている。


 鉢兵衛は疲れて休んでいる桂にそれを説明した。授乳したばかりの赤ん坊は眠っている。桐は姉が四人も子どもを生んだ事に驚嘆している。そのうち三人は無事に育っている。


 桐と鉢兵衛と桂は話し合って赤ん坊に平太と名付けた。三人の子ども達は部屋の隅で聴いている。桐は桂を労い、甥や姪に風邪を引かないようにと注意すると両親の所へ帰って行った。


 桂と鉢兵衛は桐が明日の一日中、竹を伐採しては燃やして灰にして肥料にするのだろうと予想した。桐が物を燃やした灰は良質な肥料になるのだ。桐の自慢の神通力だ。その神通力と弁舌の上手さが評価されてまだ二十五歳だが今年から桐は村の代表者である名主に選ばれた。村の者達は異論が無かったし、神社の神主が土地の神に報告している。


 鉢兵衛も桂も桐が生涯独身で子どもも生まないだろうと予測している。名主になったら子どもを生み育てる余裕はないし、既に桂は四人も子どもを生んでいる。身体が丈夫な桂は名主になった妹に嫉妬していないし、桐もまた妊娠も出産も子育ても面倒に感じているに違いない。


 鉢兵衛は堅実な妻と小姑をなるべく支えようと思った。しかし自作農なので農作業で精一杯だ。更に思い出した様に掃除・炊事・洗濯のどれかをするぐらいだ。 時折、妻の両親が子ども達の様子を観に来て相手をするだろう。子どもが四人いても何とかなる。


 この角倉一家だけではなく深沢村の者達もまほろば帝国の者達もこうして男は婿入して家に尽くす。それは筋力の有る男の矜持でもある。

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