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祝言の準備

 姉の鞠は三十人の中で最も頼りない角倉平太を選んだ。松本弓は不安を感じながらも鞠が心底楽しんでいるので安堵した。年明けの春に無事に祝言を挙げれば今回の役目は大成功だ。平太を一度は故郷に帰らせ家族や友人に報告させている。怪我せずに予定より遅れずにこちら針塩城に戻れれば問題はないだろう。弓は平太の健康と安全を祈った。役人や郡の代官が時折監視するから大丈夫だろう。


 家来達は鞠の選択に驚いてはいるが、結婚を覚悟しているので誰も鞠に反対しなかった。むしろ胸を撫で下ろしている。京から戻って来た父親の菊地正道と叔母の波と兄の詩郎も驚いたが喜んで鞠に祝福の言葉を浴びせた。


 母親の桑が最も喜んでいる。他の府や京からの縁談も鞠が覚悟を決められずに上手くいかなかったけれど、今回は成立している。


 家来達に荷解きさせて休んでいる詩郎と正道を労った後、弓は鞠に、

「姉上。何故、角倉平太を選んだのですか」

 鞠は宙を睨んで考える。鞠には譲れない何かが有ってそれを即答するのかと思ったら違っていた。いぶかる弓に鞠は、

「本当に子育てを頑張ってくれそうな気がした。他の男達もかなり良かったけどね」

 と、答えた。確かに鞠から質問されて平太がその様な事を言っていたのを思い出す。けれどもあの不器用で頼りない平太が東府の針塩城で子ども達を厳しく強く躾けられるのだろうか。弓は少し疑問に思ったが、姉の鞠が決めた事だ。平太から何かを見出したのだろう。仮に勘が外れても離婚して他の頼れる男と再婚すれば良い。母親の桑もそう考えている。


 弓は家族と家来達と話し合って祝言を不器用な平太が務まるような形式にしようと決めた。複雑で格式張った古風な祝言よりも簡素で財政に負担なく領民達に親しまれるような祝言にする。それでも平太に頑張ってもらわなければならない。


 針塩城から一度出てから約一ヶ月後。平太が無事に戻って来た。旅で平太は疲れているが、少し休ませると準備と練習をさせた。最初は言動がぎこちなかったが、祝言が近づくにつれて平太の顔つきが心持ち精悍になってきた。言動も落ち着いてきた。鞠と練習したり打ち合わせしたりする時も狼狽しなくなった。むしろ鞠の前で笑顔を見せるようになった。


 鞠だけではなく、平太も覚悟を決めたようだ。弓は平太を少し見直した。

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