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平太の縁談

 家来に誘導されて角倉平太が来た。平太は出入口の前でひざまずく。松本弓は平太に入るように命じると、平太はゆっくり立ち上がり、言う通りにした。家来が静かにふすまを閉める。弓は食卓に有る椅子に平太を座らせる。平太は一度、弓と鞠に頭を下げる。


 鞠は姿勢正しく座っている。弓はその後ろに立っている。平太は露骨に緊張しながら鞠の正面に座って俯いている。鞠は無表情で落ち着いた声で、

「顔を上げなさい」

 平太は背筋を伸ばしながらその通りにした。両膝に両手を置いている。平太は弓と同じ歳の十七歳。三十人の男達の中では最年少であり、百姓の息子だ。勤勉で温和だと評判だ。美形でも不細工でもなく容姿は凡庸だ。弓は確認した資料を思い出しながら平太を観察した。


 「お前には誰か懸想をしている人はいないのだね」

 鞠はしっかりした口調で三歳歳下の平太に確かめる。平太は少し上擦った声で、

「いません。いたとしても女は振り向きません」

 平太も似た答えをしている。弓は今までの質疑応答を思い出した。他の男達も本当に恋愛をしていないか諦めている。恋に狂う男よりマシだが、少し枯れている。鞠は、

「お前の自慢は何だ」

 平太は視線を落として考え込む。鞠は、

「力持ちだとか得意な仕事とか詳しい事とか人助けの話とか何か有るだろう」

 平太は暗い声で、

「俺は特に誰かより秀でた所は有りません」

 男達の様子をうかがっていた家来達からは男達が仕事や家族や知識を自慢し合っていた事を弓は聞かされている。平太も家族思いでそれなりに教養も有り、稲刈りとその乾燥が得意だと他の男達に自慢していた。


 鞠は微笑みながら明るい声で、

「この縁談は迷惑か?」

「め、滅相もございません」

 平太が露骨に狼狽している。鞠を拒んでいるというよりも、鞠とどの様に接するべきなのかまだ分からないのだ。鞠は微笑んだまま、

「お前はどんな女と祝言を挙げたいのか。美人か?育ちの良い淑女か?仕事が出来る女か?明るい女か?それとも丈夫な女か?」

 平太の目が泳いでいる。平太は黙っている。弓が催促しようとすると平太は、

「俺は女を選ぶほどの男ではありません」

 鞠はニコリと笑みを浮かべ、

「私の夫になれたら何をしたい?」

「そんな……考えた事もありません」

 平太が動揺しながら言い淀む。鞠はじっと見つめながら答えを促す。平太は食卓を眺めながら、

「俺は野良仕事しか出来ませんが、子ども達を健やかにお育てしたいですね」

「それは嬉しい」

 鞠は楽しそうに相槌を打った。


 暫く鞠は平太に色々と質問を重ねていく。平太は不器用に答えていく。無礼をはたらくつもりはないようだが、緊張が解けずに言動がぎこちない。傍から見守っていた弓は平太が頼りない男だと感じた。御台所になる姉の夫になれないだろうと予測する。


 しかし姉の顔色を観察すると、今までの男達よりも反応が良く楽しそうだ。弓は自分と同じ歳だからと三十人の一人に平太を入れたが、悪くなかったようだ。平太の後にはまだ何人かいるので、誰に決まるのかは弓は予想がつかない。鞠自身もそうだろう。


 鞠が強く勧めるのでその度に平太は礼を言いながら茶を飲む。喉が渇いているのかよく飲む。弓が新たに注ぐ。平太は弓にも礼を言う。


 男は筋力が有るのに強くないのだろうか。弓は疑問に思った。

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