三十人の男達
京に向かう叔母の波と父親の正道を見送った数日後に東府の領内から三十人の男達が集まって来た。城の隣りにある宿泊所に案内してそこに半月から一ヶ月ほど滞在させる。彼等が揃うと大広間へ家来達が案内する。松本弓は全員が無事に来れたことに安堵した。この三十人の中から姉の鞠が選んで夫にするのだ。
ここ一年ほど家来達や郡の代官達と一緒に弓は年頃で問題の無い若い独り身の男達三千人から三十人に絞った。その三十人に手紙を書いて来てもらい、滞在の手配と選別方法の準備もした。それだけで半分は成功しているし疲れているが、ここからが本番だ。
男達は家来達の案内に従って広間の中に入ると並んで正座して頭を下げる。優雅な立ち居振る舞いな者もいれば、ぎこちない動きをする者もいる。弓は男達の家格を気にしなかった。むしろ府内で家格の高い家来達の子息を敢えて除外している。今まで鞠は家来達を信頼してはいるが、誰にも恋慕していない。
弓は御簾の前で大声で説明した。この挨拶の後、一人一人が鞠と直接会って鞠の質問に答えるのだ。午前と午後の一人ずつ、鞠に直接会って鞠の質問に答えていく。近くで弓が黙って見張っているが、部屋は敢えて閉ざして出入口に護衛を待機させている。
説明の後、弓の合図で男達は床につくぐらい頭を更に下げる。弓と鞠の母親で御台所である桑が静かに奥の出入口に入り、ゆっくりと座る。御簾越しに桑は笑顔で男達にここまで来た事を労った。それが終わると桑はすぐに立ち上がり、静かに去って行った。
弓の合図で男達は顔を上げる。弓は男達の容姿を確かめた。戸籍を調べたり男達の評判を精査したりしていたが、男達の容姿を気にかけてはいなかった。ほぼ全員、初めて見る顔だ。皆、緊張した面持ちだ。美形もいれば不細工もいる。しかし鞠は容姿よりも品性を重視するだろう。
弓が解散させると男達はよろよろと立ち上がる。足が痺れているのだろう。中には優雅に立ち上がる者もいる。男達は弓に深々と頭を下げると、家来達に誘導されながら広間を出て行った。
農村の百姓もいれば、商人や職人もいるし、代官所で働く役人もいる。年齢は二十歳から三十歳。皆、温和で勤勉で評判だ。恋愛や結婚よりも仕事一筋な者が多い。特別に女嫌いではないけれど、女に期待していないような男達だ。三十歳近い者達の中には実務能力のある役人や豪商巨匠豪農もいる。
弓は誰が鞠に選ばれるのか全く想像出来なかった。鞠が無事に決めてこの縁談が上手くいけば良いのだ。
あと一ヶ月頑張れば大役を終える。叔母と父と兄もその頃には京から帰って来るだろう。疲労が蓄積しているが、それ以上に家来達や代官達の信頼が深まったし、領民達の事が理解出来た気がする。




