第百二十一話/木漏れ日
「すー…ふー…」
大きく深呼吸し、目を閉じる。
吐息に邪念を込めて繰り返す。
「…よし」
目を開くと、傍に置いていた魔剣ドウジギリを掴み、立ち上がる。
「…………ふー」
大きく息を吐き、腹にぐっと力を込めて一気に引き抜く。
「…………」
刀身に反射した陽の光がチラチラと壁を照らしていると、入口の扉が開いた。
「姫様、今朝もお早いですね」
刀を納め、メイは笑顔を向ける。
「カティ殿、今日もよろしくお願いします!」
あれから一ヶ月が経ち、王京の賑わいは徐々に戻りつつある。
オニ党は騎士団と共に、事件の後処理や街の復興作業を行っていたが、最近はそれらも落ち着き、各々が訓練に励んでいた。
「気合いが入っていますね、姫様」
「当然です!いつまでもこうしている訳にもいきませんからね」
事件後、魔族カイドウが言っていた魔王復活について、王宮で対策が検討された。
その結果を伝えるとして、謁見の間へ呼ばれたオニ党一同に対し、国王はこう告げた。
「冒険者パーティオニ党、貴君らをこれより勇者パーティに任命し、魔王討伐の令を下す」
寝耳に水を食らったメイは、メンバーを引き連れて国王の執務室へ突撃し、説明を求めた。
国王は眉間に皺を寄せて腕を組んだ。
「…私とて、無事に帰ってきた愛娘を再び死地に送るような真似などしたくない。だがメイ、魔族…それも四天王を二体、倒したのはお前の火炎魔法だと言うじゃないか。それに聞いたぞ、シュテン君は勇者の再来なのだろう?」
後ろでアンナが頭を抱えた。
おそらくショージからの報告であろう。
「…陛下、このシュテンはオニという種族でありまして、東の地方から来た異人であります。曰く、この者が扱う術は魔法とは似て非なるものだとも申しておりました…我々を勇者パーティとするには、あまりにも早計かつ過ぎたお話かと…」
「しかしアンナ嬢、私の知る限り君らが最高戦力だ。魔族が既に復活している現状で、我々が手を拱いているわけにはいかないのだよ」
アンナには言い返せず、退くしかなかった。
「勿論、君らだけに負担はさせない。騎士団は全面協力するし、必要な物があれば揃えよう。訓練の時間も確保する」
カティの後ろから人影が出てくる。
「お?メイもう来てんのか」
「姐さんお疲れっスー!」
アンナとマンジュに続き、シュテンも姿を表した。
「皆さんお揃いで…どうされたんですか?」
「アタシはお嬢に稽古つけに来たっス」
「違う、私がマンジュに稽古をつけに来たんだ」
「アニキは暇そうだったんで引っ張って来たっス」
「…あァ」
「そうでしたか!ではシュテン殿、是非ご覧になっていってください!」
「ん…あァ」
「はぁぁあああっ!」
メイが気合いを込めると、ぼっと音を立ててフレイムティアラが出現する。
鯉口に手を掛け、前に飛ぶと足元を爆破して勢いを付ける。
その勢いのまま抜刀すると、斬撃が炎を纏って空を裂く。
「はああああっ!」
振り抜いた勢いで頭上に振り上げると、左手でしっかりと掴んで振り下ろした。
的に命中した一撃は大きな衝撃音と爆風を轟かせ、収束する。
「…ふーっ」
的が真っ二つに割れて燃えているのを確認し、刀身を横に振ると纏っていた炎は鎮まり、フレイムティアラも収まる。
「…火炎魔法のコントロールはばっちり出来るようになったようですね」
汗を拭うメイにカティがそう告げて微笑む。
「…まだまだですよ」
「しかしこのまま行けば、コウ殿下を超える日も近いですよ」
「兄様を…」
コウは王宮に戻ったが、未だに目を覚まさないでいた。
それだけ洗脳魔法が強力であったという事だ。
「……」
メイは柄を握り直す。
「…もう一度、お願いします!」
メイがティアラを再度発現させ、刀を構える。
「はああああっ!」
邪念を取り払うように、力を込める。
そのせいか、後ろから近づいてくる影に気づかなかった。
「姐さん、大丈夫っスかね…無理してなければいいっスけど」
「まぁな…ん?…え゛っおいマンジュ!マンジュ!」
「なんスかお嬢、今姐さんの様子を…」
「おい見ろ、見ろって!」
「なんスか…え…?」
アンナとマンジュだけでは無い。カティまでもが、その登場に度肝を抜かれ固まっていた。
その人物がメイの肩に手を置く。
メイは不意に置かれた手に体を跳ねさせるが、構わず喋り始めた。
「力入れすぎだよメイ、もっと楽にしなきゃ」
「…え?」
フレイムティアラが消える。
「その、声…」
恐る恐る、ゆっくりと振り返る。
見えてきたのは、懐かしく温かい、メイが最も待ち望んだ姿。
「兄…さ、ま…?」
「やあメイ、大きく…はなってないか」
「兄様ぁ!」
「おっと」
「ちょ!?」
メイの抱き着きにコウの身体が耐えきれず後ろに倒れ込む。
慌てて飛び出したアンナが無事キャッチした。
「あはは、すまないねアンナ嬢、うちの妹が」
「いやアンタですよ…」
カティが駆け寄り、コウへ手を差し出す。
「殿下、いつお目覚めに?」
「つい今朝さ。ぼんやりと記憶があるからね、大体の事は察しているよ」
「兄様、もう大丈夫なので?」
「見ての通り、メイの体当たりを受けても生きてるよ」
ふっ、とコウの表情が柔らかくなり、メイの頭に手を載せた。
「長く心配掛けたね。よく頑張ってくれた、ありがとう」
「兄様…」
メイはぐっと目を瞑ると、勢いよく立ち上がる。
「…シュテン殿!」
「んあァ?」
急に声が掛かり間抜けな声を出す。
「手合わせしましょう!すぐにです!すぐ!」
「あ…あァ?」
困惑するシュテンを引っ張り出し、メイは半ば強引に試合を始めてしまう。
「ちょ、シュテン!ちゃんと手加減しろよ!?」
「あァ…?」
「さぁシュテン殿!全力で参ります!受け止めてくださいっ!」




