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鬼死回生~酒呑童子の異世界転生冒険記~  作者: 今田勝手
章の五

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第百二十話/暁光

「あはははは、見なよアンナ、国王の威厳が台無しだよ」

国王がメイを揉みくちゃにしている後方で、ショージがアンナの肩を叩いて笑っていた。

「あー見てるよ、どっかの誰かさんにそっくりだ」

「えー?うちの親父、あんなに情熱的だったっけ?」

「アンタだよアンタ、ほら回復終わったなら早くクロ離してやれ私も待ってんだよ」

「もー照れ屋なんだから、アンナも甘えたいならそう言いな?ほーらおいでー」

「だああああ!鬱陶しい!傷に響くからくっつくな!」

ショージがアンナと攻防戦を繰り広げていると、視界の隅で動くものが見えた。

「…ん?」

アンナ越しに目を凝らすと、急にレーワがむくりと起き上がった。

「え?」

思わずアンナも振り返ると、レーワは状況を確認するように辺りを見回していた。

少しずつ記憶がハッキリしてきたのか、自身の身体を確認しはじめる。

「…なおってる」

「やぁ少年、起きたかい?」

ショージが手を振るのに気付くと、レーワはまっすぐ見つめ返した。

「ねぇ、ホエンは?」

「ん、キミの愛しいハニーはあっちにいるよ」

ショージが指さす方を見る。

真っ先に目に入ったのは、ヨーローの杖が放つ光だった。

「ほら、何やってんだレーワ、傍に行ってやれ」

「……うん」

アンナに諭されるがまま、レーワは立ち上がるとゆっくり歩き出した。

近付いてくる子供に気がついた数人の騎士団員が、止めようと動き出すのを、カティが無言で制した。

レーワは横たわるホエンの状態を目の当たりにして、思わず息を飲んだ。

「ホエン…?」

震え声のレーワに、マンジュは思わず肩を叩く。

「レーワ…大丈夫っスよ、今治してる所っスから」

「ほんとに?…ほんとに治る?」

「…レー、ワ」

その声が聞こえた全員がすぐに視線を下げた。

「ホエン!」

レーワの声に、国王すらも動きを止め注目する。

「レーワ…ごめんよ、ウチのせいで、大怪我させちゃって…ウチが…弱いせいで…」

「ホエン…!」

レーワが言葉を返す前に、ホエンはマンジュの手を掴んだ。

「…?何スか?」

「回復を、止めてくれ…ウチは、もういい…魔力が勿体ない」

「なっ…!」

「ホエン!?」

「カガセオも無くなった…もうウチには、帰る場所も、やるべき事も、ない…」

「バカ言うんじゃねぇっスよ!アンタの為に体張ったコイツの事考えるっス!」

「考えたから、だよ…もうこんな危険な事、レーワにして欲しくない…ウチなんかの為に、これ以上頑張る必要ない…」

「それは、違うんじゃないか?」

口を挟んだのは、いつの間にか参上していた騎士団長ゲントク=クロスフィールドであった。

「ホエン、レーワが君を守ろうとしたように、君も守ろうとした物があっただろう」

「ウチが、守ろうとしたもの…?ウチは…ニンナの仇を…」

「いいや、仇討ちだけじゃない。…僕はもっと早く君に気付くべきだった」

「?…何を…」

「きっと君にも分かるはずだ。彼女の顔を見ればね」

ゲントクが横に捌けると、後ろから一人の女性が歩いて来た。

「…え?」

じきにその顔が照らされると、慈愛に満ちたその微笑みがはっきりとホエンの目に映る。

「メイジ…?なんでここに…」

「彼女は君の失踪以降、時間を見つけては全国を回って、君の足取りを調べていたんだ。まあ、このタイミングで王京に居たのはただの偶然だが」

「いいえ、偶然ではありませんよ…今回こそは、会える気がしたんです。ホエンさん、レーワさん」

「メイジ…なんで…」

「ホエンさん、貴女には早速お説教が必要なようです」

「え…?」

「貴女は先程『ウチなんか』と言いましたね。本当にそう思いますか?」

「それは…そうだよ、ウチは、弱すぎて、周りを傷付けてばかりだから…」

「だからいっそ居なくなった方が良いと?」

「そう…そうだよメイジ、ニンナだって、ウチがもっと強ければ生きてたんだ」

「では、貴女が居なければニンナさんは生きていたのですか?」

「それは…」

「ホエンさん…見てご覧なさい、レーワさんの顔を」

ホエンがレーワの方へ顔を向ける。

「っ…」

そのレーワの表情には、見覚えしかなかった。

「ホエン…まだまだボク強くなるよ?研究だってずっと続けるよ…?」

消え入りそうな声で訴えるレーワの姿は、四歳の幼子であったあの時と全く変わらず、ホエンの記憶を呼び覚ました。

四年前、最後に差し伸べられたレーワの手を掴まなかったのはホエン自身だ。

また、同じ事を繰り返すのか。

「ホエンさん、貴女は帰る場所がないとも言いましたね」

メイジはホエンの真横、レーワとは反対側にしゃがみ込むと、二人を纏めて抱き込んだ。

「二人とも、部屋はそのままにしてありますよ。いつでも院へ帰って来てください」

「メイジ…」

ホエンは自身の声が震えているのに気付くと、レーワの手をしっかり掴んだ。

「ホエン…?」

「レーワごめん、心配させて…探してくれて、ありがとう」

ホエンの目から一雫、こぼれ落ちるのを皮切りに、レーワが大きな声をあげて泣き出した。

メイジはしばらくの間、黙って二人を抱きしめていた。

その様子を眺め、静かに息を吐くゲントクの横にカティが陣取った。

「途中から何処へ消えたかと思えば…彼女を探しに行ったんですか?」

「まぁね…京内に居るのは知ってたから」

「…なにか、訳アリのようですね」

「わかる?…四年前、僕が団長になって初めて扱った、アクローズ領ジンシンで起きた一連の事件。彼女たちはその当事者さ」

カティは目を見開く。

「あの有名な…なるほど、貴方にとっても、因縁だった訳ですね」

「…まあ、そうかもね」

ゲントクは顔を上げ、星空を仰ぐ。

遠く聳える外壁沿いに、薄ら白みがかった空が、じんわりと歪んで見えた。


もうじき夜が明ける。

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