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鬼死回生~酒呑童子の異世界転生冒険記~  作者: 今田勝手
章の五

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第百十八話/身を焦がす覚悟

上空から邪剣が迫る中、メイはシュテンに耳打ちをしていた。

「…これで行きましょう!」

「…今の通り動けばいィんだなァ?」

「はい!行きますよ…っ!」

メイがジャンプすると、シュテンがその下に手を入れ足場となる。

「せーのっ!」

タイミングを合わせてメイは真上へ射出され、正面に邪剣を捉える。

「はああああっ!」

間合いに入った瞬間を見逃さず刀を振る。

邪剣と噛み合い大きな金属音が辺りに響きわたる。

メイは上昇を終え自由落下していくも、邪剣と鍔迫り合い続ける。

「はははは!何をしている人間!止められるとでも思ったか!そのまま落ちて逝け!」

アラタが地面へと視点を移した時、シュテンと目が合った。

「鬼道・爆技『鬼炎万丈』」

地面が大きく爆ぜ、邪剣の行方はメイ諸共目視できなくなる。

「なに…!?」

火柱の強烈な光で、夜目に順応していた視界が眩む。

「く…どうなった!?」

「さァなァ」

「っ!?」

背後からの声に咄嗟に前へ出る。

振り返るとシュテンが腕を組んで仁王立ちしていた。

「貴様いつの間に…いや、あの小娘は見捨てたのか…やはり鬼は鬼よ」

「なんとでも言いやがれェ、どォせ死ぬ前だァ」

「馬鹿を言うな、邪剣はまだ生きている」

「なら試してみるかァ」

シュテンは左手に鬼の爪を形成する。

「ははは!馬鹿め、こっちに防御する時間を与えるなど…………っ!?」

「鬼道・装技」

「邪剣が…盾が形成されない!?何故!?」

「『意鬼衝天』」

「くっ………っ!?」

アラタは慌てて腕で防御したが、それがかえって悪手であった。

シュテンが使ったのは先程の『意鬼投合』ではなく、対象を殴られた方向へ吹き飛ばす『意鬼衝天』だ。

両腕の硬い場所にぶつかった妖力は反発力を高め、結果としてアラタが吹き飛ぶ速度を高めた。

そして両腕に衝撃を受けたアラタは、どうすることも出来ず吹き飛ばされた。

「これは…っ!?」

「地獄への直行便だァ」

伸ばした輪ゴムを離したかの如く射出されたアラタは、自身の意思とは関係なく身体が半回転する。

そんな風の中、進行方向に見えたものに目を見開く。

いつの間にか収まっていた爆発の中心で、メイがドウジギリを霞に構えていた。

「ま、まさか…」

よく見ると、構えられた刀から伸びる炎が、邪剣をしっかり掴んで燃やし続けていた。

火炎魔法で邪剣を拘束していたのだ。

「そんな馬鹿な…っ!」

「はああああっ!」

メイの気合いに合わせて、炎の勢いが増す。

「やめ、やめろ…っ!」

「はぁっ!」

メイが刀を振り抜く。

刀身は邪剣諸共アラタの土手腹を捉えた。

「ぐっ…ああぁぁぁあ!」

アラタとドウジギリに挟まれた邪剣は、両側からの圧力に耐えきれずに砕けて煩雑にアラタの腹を傷付ける。

地面と平行に飛来したアラタだったが軌道が変わり、回転が掛かって石畳を削りながら止まった。

「……っ」

振り抜いた刀を直ぐに回し、振り向いて残心するメイは感じていた。

「浅かった…っ!」

「ぐ…うおぉぉ……!」

メイの手応え通り、腹にメイの火炎を燻らせながらも、ゆっくりと膝を立てる。

「この力…なるほど、火炎魔法には…清めの効果もあるようだな…っ…だが、この程度の小火で私は倒せん……っ!」

アラタが腹に力を込めると、火の勢いが一段と衰える。

「くっ…もう一度……っ!?」

メイが構えを直していると、ふっと刀身から炎が消えた。

同時にティアラも消失し、思わず膝が折れる。

「な……っ!?」

困惑するメイにアラタが高らかに笑う。

「はは、はははは!魔力切れか!無様だな!」

「ぐ…っ」

歯を噛み締めるも、立ち上がる事が出来ない。

「待っていろ、生き恥を晒さぬうちに楽にしてやる」

アラタが鎮火に専念しようとした時、メイに向けられた視界に割って入る者がいた。

「む…?」

「…ホエン、殿…?」

ホエンは正面に仁王立ちし、まっすぐアラタを見つめていた。

「…丁度いい。ホエン、私に強化魔法を掛けろ。それでこの火も収まるはずだ」

アラタが手を伸ばした。

「奴らを倒したら、私と共に再びカガセオを立ち上げよう。この国が憎いのだろう?」

「ホエン殿…」

ホエンは差し伸べられた魔族の手をじっと眺めると、ゆっくりと視線を上げた。

その顔は、普段のホエンと同じく、小馬鹿にするように微笑んでいた。

「分かった、いいよアラタ。強化してあげる」

「なっ…ホエン殿!?」

勝利を確信し口角を上げるアラタの前で、ホエンは手を上げた。

「ホエン殿いけません!」

メイの叫びも虚しく、ホエンの手はアラタの手にゆっくりと近付き、アラタは握りしめた。

「っ…!」

「なにっ!?」

アラタが手を握る刹那、ホエンは一歩前に出た。

「だああああっ!」

「なっ…これはっ!?」

ホエンの手は腹の刀傷を抉り、メイの炎を直に掴みこんでいた。

「貴様、何を…」

「燃えろっ!」

ホエンの声に合わせ、腹の炎がぼうと音を立てて燃え上がる。

「なっ…ぐぁああああああ!?」

「嘘はついていないよ?ちゃんと強化したのさ……アンタが食らった火炎魔法をねぇ!」

「ぐ…バカな、そんなことをすれば貴様も焼けるぞ!」

傷口から噴き出す炎はホエンの腕を包み込み、その揺らぎからは爛れであろう赤い皮膚が見え隠れしている。

「構わないんだよ…」

ホエンは横目で、未だ治療中のレーワを見遣る。

「あの子に比べたら腕一本くらい、構わない!」

火炎魔法の魔力が飛躍的に高まり、火が一気にアラタの全身を包む。

「がぁぁぁぁぁあああああぁぁぁあ!?」

火達磨と化したアラタだが、その手を執念で伸ばしホエンの首を掴む。

「ぐあっ…」

アラタの手先まで包み込んだ炎は容赦なくホエンの肌を焼く。

「熱いだろう!さぁ離せ!強化を解くんだ…っ!」

離そうとしないホエンに、メイも叫ぶ。

「ホエン殿!もうやめてください!危険です!」

「どうってことないっ!」

ホエンは力強く目を開き、炎越しにアラタを睨み付ける。

その間に火はシャツの肩口に引火していた。

メイが貸した綿素材の上下一式は火をよく通し、みるみるうちにホエンは炎に包まれていく。

「ホエン殿!」

「どうってことないんだよ……っ!」

ホエンの脳裏に、あの日の記憶が蘇る。

「こんなの…ニンナが受けた屈辱に比べたら…あの時の悔しさに比べたら!ちっとも熱くないんだよッ!」

「ぐ…人間風情が傲りおって!ならばそのまま逝くが良い!」

「やれるならやってみなよ!」

ホエンが叫ぶと更に火の勢いが増す。

「ぐああああっ!?おのれ小娘えぇぇぇぇ!」

「だぁああぁぁぁあっ!」

やがて火柱は二人を包み込み、外から視認出来なくなる。

「ぐ…っ、こんな…この私が…ぁ…魔、王…様………ぐ、ああぁぁぁあっ!」

やがてアラタの悲鳴が聞こえなくなると火の勢いは弱まっていく。

メイはアラタの魔力が消えていくのを感じた。

中が見える程になると、そこにアラタの姿はなく、全身を赤黒く焦がしたホエンが倒れ込む。

その足元では、アラタだったと思しき黒炭が元の形を保たず崩れていた。

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