第百十五話/篭手
背後にメイの熱を感じながら、シュテンはその光に照らされた自身の敵を見据えていた。
「お主か…カイドウとの戦いは見ていた。ゲンジを倒した鬼というのは本当か?」
「…だったらなんだァ」
「そうか…そうか!ふはははは!」
アラタはひとしきり笑うと、大きな目でギロリとシュテンを睨んだ。
「久々に鬼退治が出来ると言う訳だ!俄然やる気が出たぞ」
「あァ…?」
鬼退治、という響きにシュテンの眉がピクリと動く。
「鬼よ、最初に言っておく。私はゲンジやカイドウのように甘くは無いぞ」
宙を漂う不定形の魔力塊だったものが、再び邪剣の形を取り、その鋒がシュテンへ向く。
「…ほゥ?」
その先で顎を上げたシュテンは、両手を胸の前で突き合わせて、笑った。
「そいつァ丁度良ィ、試してェことがあんだァ」
新品の篭手を手に馴染ませるように、手首をゆっくり回す。
十数分前。
王宮へ向かおうとしていたシュテン達へ声を掛けたのは鍛冶師エイカンであった。
修理に出していたアンナの大剣、マンジュのダガーは以前を上回る業物になっており、二人を大層驚かせた。
唖然と武器を眺める二人を尻目に、エイカンはシュテンへ小包を差し出した。
「我ながら最高の出来だ。これ以上の素材には二度と出会えないだろう。存分に振るってくれ」
そう言って渡された包みの中から出てきたのは、シュテンの腕ぴったりに加工された、イバラギの腕だった。
「イバラギ…」
装着する。
「…ん」
妖力の巡りがとても良くなった。
「…気に入ってくれたようだな」
「…あァ」
シュテンは篭手を装着した両手を空に掲げる。
「…………」
「ほう、似合うじゃないの」
突如背後から聞こえた、聞き馴染みのある声に、シュテンは溜息を吐いた。
「…何しに来たァ」
「そう邪険にするな、アタイはイイコト教えに来たんだよ?」
少女はそう言うとケタケタ笑う。
「…さっさと言ってさっさと消えろォ」
「なんだい釣れないねぇ…」
悪戯っぽく肩を竦めると、ひとつ咳払いをして喋り始めた。
「アタイの可愛い酒呑童子、その姿じゃ妖力を抑えざるを得なかったろうが、これからは茨木童子が助けてくれる…この意味が分かるかい?」
アラタが鼻で笑う。
「そう言っていられるのも今のうちよ…参る!」
邪剣がシュテン目掛けて飛び出した。
眉間を目掛けて飛んでくるそれをシュテンは裏拳で払う。
「まだだ!」
邪剣魔法がなぜ「邪」なのか。
それは騎士道に反するからである。
具体的には遠隔操作で、安全地帯から卑怯な攻撃が出来る点が挙げられるが、もう一点ある。
剣対剣の常識が通じない点だ。
例えば、通常剣を払われたら隙が産まれる。
だが邪剣魔法ならば別だ。
振り払われた傍から邪剣はその形を変え、直ぐに刃先が獲物側へと戻る。
そして再び飛び出すのだ。
シュテンの右側から首筋を狙った一撃は、再び裏拳で払われた。
そのまま払っては戻りを繰り返しながら邪剣はシュテンの周りを一周する。
「…ふむ」
邪剣を払いながら、何かを確かめるように手を握る。
「試してみるかァ」
右手で邪剣の相手をしながら、左手に妖力を溜める。
「鬼道・装技『意鬼揚々』」
溜まった妖力は鬼の爪となり、襲い来る邪剣を下から捉える。
邪剣は魔力塊となって分散し空中へ放出される。
「ふん、その程度か!」
アラタが声をあげると、散らばった魔力塊のひとつひとつが一斉に変化し、大量の邪剣となってシュテンの上空で留まった。
「ひとつならば払えても、この数なら捌けまい!」
シュテンは上を見上げ、頷く。
「…あァ、そうだなァ。こいつァ、払いきれねェ」
予想外の返しにアラタは呆気にとられるが、次第に笑いに変わる。
「ははは、はははは!諦めたか鬼め!ならば疾く逝けぃ!」
シュテン目掛けて、邪剣の雨を降り注ぐべく、アラタは手を振った。




