第百十四話/決意の炎
「アンナ殿しっかり!」
「悪いメイ…まずった…」
「大丈夫ですから、喋らないでください!」
辛うじて意識を保っているアンナとともにショージを抱え、メイはマンジュの元へ戻る。
「マンジュ殿!」
「姐さん!とりあえず二人ともそこに置いてくださいっス!」
「レーワ殿はどうですか!?」
「まだ終わらないっス…」
ヨーローの杖が掛ける回復魔法は、現代の魔法学で解明された範囲を超えている為、中断した場合どうなるか想像がつかない。
まして、相手は幼い子供だ。
マンジュには、杖が回復終了と判断するまで魔法を止める訳にはいかなかった。
焦るマンジュの肩をアンナが叩く。
「こっちは後でいい、今はレーワに集中しろ」
「アンナ殿しかし!」
メイが肩を掴んで叫ぶ。
「舐めんな、このくらいどうって事はないんだよ」
アンナは眉間に皺を寄せ、ぽっかり穴の空いた腹を押さえながらも笑う。
そんなアンナとショージを何度も見比べていたクロは、断腸の思いを顔に滲ませながらショージに飛び乗り、回復を始めた。
「アンナ殿…」
ひとりオロオロとするメイの背中を、アンナがぽんと叩いた。
「お前がそんな顔してどうする、しっかりしろメイ」
「で、ですが…」
「ちょっと、通るよ」
メイの肩を押しのけ、後ろからホエンが割り込んで来る。
「ウチに出来るのはこのくらいだけど、応急手当くらいにはなるから」
アンナの腹部に触れると、魔力を流す。
「っ…これは」
「身体強化で耐久力を上げた。傷が塞がる訳じゃない気休め程度だけど」
「いや…少し楽になった」
「そう…」
その様子を見て、メイの肩が少し下がる。
「…では、私はシュテン殿の加勢に」
「姐さん!」
マンジュの切迫した声と共に、ボウガンの射出音がメイを惹きつける。
「マンジュ殿!」
メイは間髪入れずに飛び出した。
マンジュはレーワの回復を行う傍ら、正面に現れたゴブリンの群れを相手取っていた。
マンジュのゴブリンアーチャーが数体を捉える中、メイが間に割って入る。
「すまねえっス姐さん!片手じゃどうしても相手しきれなくて」
「いいえ…ここは私が、皆さんを守ります!」
メイは刀を抜いた。
「はああああっ!」
耳元でボボボッと燻る音が聞こえる。
どうやらフレイムティアラは出ていないらしい。
成功したとはいえまだ一度のみ。
メイの火炎魔法は、安定して発動出来る領域には程遠かった。
「くぅっ…はああああっ!!」
決意を反芻する。
「私がぁっ、守ってみせる…っ!」
火が燻る音が次第に大きくなる。
「守るんだぁあああっ!」
ダメ押しの気合いでようやく火が灯りティアラの形と成る。
メイは刀を一度振り抜くと、再度構え直す。
「はああああっ!」
前へ飛び出し、正面の一匹へ斬り掛かる。
ゴブリンを袈裟に斬り捨て、刀に乗った血を振り払った時、ぼうと音を立てて刀身が眩く燃え盛った。
「…すごい」
後ろで呆然と、ホエンはその炎に見蕩れていた。
「王女って、本当だったんだ…」
メイは刀を前に掲げ、大きく息を吸った。
「この火に懸けて、ここから先には一歩も進ませませんっ!」




