第百十三話/ヴェイングロリアス兄妹
浮遊する片手剣が自身の何倍もある剣身を受け止める。
「ほう…人間でありながら、魔法も使わずにこれほどの力、そこに至るまでどれほどの鍛錬を積んだ」
「うるせぇ!悪かったな馬鹿力で!」
アンナは手首を回し敵の剣を払うと、流れのままに左脇から大剣を叩き付ける。
その一撃は戻ってきた邪剣によって振り払われるも、今度は身体ごと回転し右脇を攻める。
「うおおおおお!」
「…………ん」
少し後ろで状況を見ていたシュテンが腕を組む。
更にその後ろでは、鯉口に手を掛けたままのメイが圧倒されていた。
「すごい…アンナ殿、いつにも増して動きが良いです」
ずっと入り込む余地を窺っていたが、アンナの連撃に暇がない。
「これも、修理調整した武器のおかげなのでしょうか…?」
しかし戦況は決して良くない。
魔族アラタは、重い金属音を響かせ続けるアンナの猛攻を涼しい顔で受け続けている。
邪剣魔法で魔力が込められたその剣は、いくらアンナの一撃が重く剣身を削っても、魔力がカバーし修復する。
「…このままでは、そのうちアンナ殿の攻撃に隙が生まれ、そこを突かれる」
分かっていても、ショージを助けんと先陣を切ったアンナを止める手段は無い。
シュテンですら静観するしかないのだ、今のメイに出来るのは、アンナに生じた隙を一瞬でも早く埋める為に、状況を注視する事だけだ。
「…………っ」
アンナの攻撃はまだ途切れない。
まだだ、まだ。
「……………………!?」
ふと、メイの横を影が通り抜けた。
「え……ショージ殿!?」
後ろで回復に徹していたはずのショージが剣を抜いて走り出していた。
メイは視線をアンナに戻す。
まだ切れ目なく攻撃は続いていた。
ショージに入り込む隙はない。
だが当のショージはそんな事気にせんとばかりに剣を振り上げた。
「ショ……っ!?」
呼び止める寸前、メイは気づいた。
アンナに隙が出来た。
そしてアラタはそこを見逃さなかった。
アンナの脳天目掛けて振り下ろされた邪剣は、割り込んだショージの剣に受け止められたのだ。
「お待たせアンナ」
「ショージ兄!?回復は!?」
ショージが邪剣を柄で吹き飛ばす。
「最速で終わらせたよ、危なっかしくて見てられないからねぇ」
構えを直しつつ、妹へ手を差し出す。
「っ…よく言うぜ」
アンナは大きく息を吸うと、乱暴にショージの手を取り、そのまま横にぴったり並び立った。
愛用の大剣を挙げ、息を吐く。
「遅れんじゃねぇぞ!ショージ兄!」
「もちろん、妹に合わせるのも兄の務めだからね!」
メイは絶句した。
隙が生まれる前に、ショージは隙を把握していた。
「一体どうやって…」
「顔っスよ」
ヨーローの杖片手に状況を見ていたマンジュが引き攣った笑いとともに口を開いた。
「顔、ですか?」
「多分お嬢の疲れが出るタイミングを、お嬢の顔を見て判断したんスよ…反応速度でパーティメンバーすら上回るなんて芸当、そのくらいしか考え付かないっス…あの兄御ならよっぽどお嬢の顔は見てきてるはずっスから」
マンジュの複雑な視線を尻目に、アンナとショージは足を踏み出した。
「はああああっ!」
兄妹の息のあった連撃はアラタに反撃の暇を与えず、邪剣は左右それぞれから来る追撃を凌ぐ必要があった。
「ふむ…」
アラタの表情が少し変わる。
間隔の短い連撃が、邪剣の回復スピードを上回ったのだ。
「押してるよアンナ!」
「このまま押し切るぜ兄ぃ!」
ショージが邪剣を弾くと、遂にその剣身にヒビが走った。
「今だあっ!」
アンナが渾身の一撃を叩き込む。
亀裂部を、大剣の剣身がしっかりと捉えた。
アンナが腕を振り切ったとき、邪剣は破砕音を立てて砕け散っていく。
「やった…!」
メイが拳を握り締めた。
「…大したものだ、褒めてやろう」
諦めからか、不敵な笑みを浮かべたアラタが口を開く。
「初めてだ。人間にこの邪剣魔法…」
ふと、メイの心がザワついた。
緩めていた左手に再び力が入る。
最中、アラタが言葉を続けた。
「…一の太刀を破られたのは」
直後、砕けた邪剣が浮遊していた場所に、霧散しかけていた魔力が収斂していく。
「!?」
アンナとショージも気づいた。
だが遅かった。
空中に留まった魔力の塊が、その瞬間に形を変えながら飛んだ。
「な…」
言葉を発することも叶わない時間で、魔力塊は二本の剣へと形を変えた。
アンナとショージの腹部を貫いたまま。
「アンナ殿!ショージ殿!」
メイが飛び出す頃には邪剣はひとりでに抜け、二人は力無く膝を付きはじめていた。
だが倒れる前にその襟首を掴みあげられ、メイの眼前まで放り投げられた。
「メイ、そいつら連れて下がっとけェ」
「シュテン殿…!」
二人を投げたあと直ぐに、真正面から仁王立ちし邪剣の行く手を阻む。
「後はァ…俺に任せろォ」
シュテンは鋭く、アラタの顔を見据えた。




