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鬼死回生~酒呑童子の異世界転生冒険記~  作者: 今田勝手
章の五

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第百十話/やるべきこと

「…………嫌なもの思い出しちゃった」

王宮の庭をゆっくりと進みながら、ホエンは記憶の海から現実に戻る。

「走馬灯…?冗談じゃない」

振り返る。

閃光玉が上手く仕事をしたのか、もうレーワは追ってきていない。

「きっとレーワなんか見たからだ…そう、まだウチは帰る訳にはいかない…」

ジンシンを出てからしばらくは、全身を焦がされたニンナの姿が頭から離れなかった。

ようやく蓋を出来たと思っていた嫌な記憶が、堰を切ったように流れ込む。

「もうあんな思いはしたくない…ウチの大切なものを、二度と王族なんかに奪わせない…っ!」

宮殿を見上げる。

コウが起こした黒煙が窓から立ち上り続けている。

「…嘘だ、王族が民に施すなんて…きっと今頃は京を見捨てて逃げる準備してるに違いない」

ブツブツと呟きながら歩を進めると、影が横切った。

顔を上げると、見知った顔がホエンの前に着地した。

「…アラタ!」

それは背中の羽根を静かに閉じ、静かにホエンを見下ろす。

「どうした?アンタがこんな所まで出て来るなんて…」

アラタは手を組んだまま、ゆっくりと口を開いた。

「…作戦は終了だ」

「え?」

そう返した直後、ホエンの視界が赤く染まる。

「が…っ!?」

自然と目線が下がる。

どうやら、胸元を剣が通ったらしい。

二、三歩後退り、膝を着く。

こんな芸当が出来るのは一人しか思い付かない。

ホエンが顔を上げると、腕組みをしたままのアラタに追随するように、血の着いた剣が浮かんでいた。

邪剣魔法。

魔族が扱う魔法で、アラタの得意とする魔法だ。手を使わずに剣を操り、魔力を乗せた技を放つことが出来る。

「な…んで…」

胸の痛みを手で抑えつつ、ホエンは問う。

「作戦は進行中でしょ!?」

アラタは首を横に振る。

「いいや、終わった。ワドゥは敗北し、コウ王子は王国の手に落ちた」

「な…」

ホエンは目を丸くしたが、すぐに言葉を紡ぐ。

「で、でも!その場合はカイドウが取り返す手筈で…」

アラタは言葉を被せる。

「カイドウは討たれた」

「っ…!?」

ホエンは雷に打たれたような気分だった。

あのカイドウが討たれたなどと、聞く日が来るとは夢にも思わなかった。

そんな様子には目もくれず、アラタは話を続ける。

「もはや、カガセオは存続不可能だ。お前とワドゥの首で茶を濁し、私は潜伏する他ない」

ホエンはハッとして声を上げる。

「ウチたちを裏切るの!?」

「裏切る…?」

アラタは眉を顰めた。

「元よりお前たち人間を仲間だと思ったことはない」

「な…」

頭が真っ白になる。

孤児院を出てからの、カガセオとして過ごした日々が脳内を駆け巡る。

「そんな…」

「大人しいうちに介錯してやる」

剣が動き、振り下ろせば袈裟に真っ二つという位置に留まる。

剣を光が乱反射し、ホエンの視界をチカチカと照らす。

出血のせいか鼓動は高鳴り、足はまともに言うことを聞かない。

「こんな、ことで…」

「とく逝け」

アラタが剣を振り下ろした。

直後、肉を切り裂く音とともに大量の血が噴き出した。

「…え?」

しかしそれはホエンのものでは無い。

ホエンは、何者かに横から突き飛ばされたのだ。

その正体を見ようと首を傾げた瞬間、心臓が止まるほど跳ね上がった。

「…な…っ…!?」

ホエンが受けるはずであった一太刀は、レーワの腹が受け止めていたのだ。

「レ…っ!?」

名前を呼ぶ間もなく、尻餅の鈍い痛みと上から覆い被さる脱力した子供の重みに挟まれる。

「っ…レーワ!」

肩を掴みあげる。

身体が重なっている自身の腹部から足に、温かいものが流れていく感覚が伝わってくる。

心音が更に加速する。

「レーワ!」

肩を揺さぶると、微かに目を開けた。

「ホ、エン…大丈夫…?」

レーワは手を伸ばし、ホエンの頬を撫でる。

「レーワ…!」

「ホエン、は…ボク、が...まも…」

徐々に力が抜けていき、そのままホエンの頬を離れる。

勝手に涙が溢れ出る。

動悸がうるさい。

「ウチは...ウチは…っ!」

また守れずに終わるのか。

そんな言葉が頭をよぎった。

「ふむ…邪魔が入ったが、安心しろ。二人とも楽にしてやる」

アラタは再び剣を振り上げる。

過呼吸寸前まで息の上がったホエンにはもはや為す術も無い。

ただ振り下ろされるのを見ていた。

だがその剣はホエンにもレーワにも当たらず、金属音を響かせた。

「む?」

「くっ…出遅れた…っ!」

勢いよくアラタの剣を弾いたのは、騎士団の紋章を背負った好青年、ショージ=ヴェイングロリアスであった。

ショージは構えを直すまでの瞬間でレーワの息があるのを確認すると、大きく息を吸う。

「ホエン!レーワを死なせたくないか!?」

「えっ…」

いきなり名前を叫ばれ、ホエンはハッとする。

「答えろッ!」

「し、死なせたく…無いッ!」

ホエンの叫びに、ショージはニッと歯を見せると、懐から出した物を後ろに投げる。

ホエンの傍に転がったそれは、回復薬のようだ。

「それを飲んで!レーワのは無理だけど、君の傷くらいは塞がる!」

「どうして…」

「街に妹たちが居るはずだ。ヨーローの杖を持ってる!君が連れてくるんだ!」

「っ!で、でもアンタは…」

「舐めてもらっちゃ困るよ。ヴェイングロリアスの事件で、一番君らの兵を倒したのは誰だったか忘れたのかい!?」

「…………っ」

ホエンは魔法薬を拾い上げると、乱暴に飲み干した。

効果を確認する前に立ち上がると、ショージの肩を掴んだ。

「?…なにを」

直後、ショージの身体に魔力が流れ込んでくる。

「…これは」

「いま掛けられる限りの強化魔法を掛けた…絶対死なないで、この子を守って。お願い」

「……ああ、僕は美人の願いは断らない」

ホエンはその間に、レーワにも生命力強化の術式を掛ける。

「…必ず戻る」

「なるはやで頼むよ」

背中越しにショージが親指を立てるのを見ると、ホエンはその辺に落ちていた剣を拾い、自身に強化魔法を掛けて走り出した。

「…人間、退け。一撃弾いたのは褒めてやるが、お前では私には敵わん」

アラタが、鋒をショージへと向ける。

ショージは対峙するように剣を合わせ、同時に口角もあげた。

「やってみなきゃわかんないだろ?それに、絶対にここは通さないよ」

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