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鬼死回生~酒呑童子の異世界転生冒険記~  作者: 今田勝手
章の五

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第百九話/ジンシン⑧・結末


「こんな場所が…」

周囲を警戒しつつ、ホエンは草むらから顔を出した。

周りを林に囲まれた二階建ての廃屋が、月明かりに照らされてそびえ立っている。

あの少年によれば、この中にニンナが居るらしい。

「…よし」

ゆっくりと、建物へと近づいていく。

「誰も見張ってる気配は…無いかな」

腰を上げようとしたその時、建物の中から赤い光が漏れて来た。

鍛冶場と見紛うような明かりと熱に足が止まる。

しかし、すぐに聞こえてきたジュゥという音に、ホエンは草むらから飛び出した。

扉まで回っている時間は無い。

ホエンは目の前にあった窓ガラスを破って飛び込んだ。

ガラスの破片とともに床を転がり、顔を上げたホエンの目に飛び込んできたのは、今にも水壁を突破されそうなニンナの姿だった。

「ニンナ!」

一目散に飛び込む。

ホエンの強化魔法は、対象に触れなければ発動しない。

掛けられる限りの強化を足に掛け、ニンナへ手を伸ばす。

ニンナもこちらに気付き、手を出した。

魔法強化の術式を掌に込め、ニンナの手を握った。


はずだった。


ホエンの手が触れる刹那、火柱が水壁を突き破り、ニンナを抱き込んで吹き飛ばした。

今の今までニンナの顔を捉えていた視界が、紅蓮の炎で埋め尽くされる。

ホエンはそのまま、バランスを崩して前に倒れた。

炎は壁へと到達し、木造の外壁へと火が移り始める。

「…ニン、ナ?」

火柱が収まり、壁に打ち付けられたであろうニンナの姿が月に照らされる。

「ニンナ…っ!」

ホエンは、犬掻きのような体勢でニンナへ駆け寄る。

周りの壁がパチパチと爆ぜる中、ニンナの身体からは既に火は消え、辺りには焦げ臭さが広がり始める。

「ニンナ!ニンナってば!」

ホエンがいくら揺さぶっても、ニンナからの返事は無い。

「くくくく…ははははは!実に無様。しかし王族たる僕の炎に焼かれて死ぬなど、貧民として最高の栄誉であろう!」

カンセイが笑い声をあげる中、ホエンは床を殴った。

「ふざけるな!」

「…ほう?」

笑い声が止まる。

ホエンは立ち上がり、獣のような眼光でカンセイを睨み付けた。

「お前たち王族はどうしてウチたちを踏み躙る…!勇者タイカが等しく魔法を分け与えたウチたちを!」

「ふん、笑わせるな貧民。僕と貴様で価値が等しくあるはずがないだろう。見ろ、この輝きを!」

カンセイは自身の額で揺らめくフレイムティアラを指差す。

「これこそが高貴の証!火炎魔法が他の魔法と一線を画す証明だ!庶民はこの煌めきに恐れ戦き、ひれ伏さねばならないのだ!」

「…それが王族の考え、って事ね…ああそう、もういい」

ホエンは全身に強化魔法を掛ける。

「ウチらを虐げるだけの王なんて、もう要らない」

「貧民、口が過ぎるぞ。貴様もここで粛清だ」

カンセイが手を翳すと、再び火柱が縦に伸びる。

だが次の瞬間、その上から落ちてきた大きな水の塊に相殺された。

大量の水蒸気が場に立ち込め、鎮火した火事場の臭いが充満する。

「…………は?」

カンセイは突然の出来事に、水浸しのままただ立ち尽くしていた。

家財に引火した火も全て鎮火し、再び月明かりのみが現場を照らす。

「うんうん、良い目だ」

「……なっ」

突如として眼前に現れたその姿に、ホエンは絶句する。

笑顔でホエンを見つめる瞳は、その背中に羽根を携えてカンセイとホエンを隔てる。

「き、貴様、その姿はまさか…」

「うん」

それはカンセイへと振り返ると、不敵に笑みを浮かべた。

「僕はカイドウ。魔族だよ」

「魔…族…」

カイドウの陰で立ち尽くすホエンとは対照的に、カンセイは笑い始める。

「はは、ははは!僕にも運が回って来たな!魔族の首さえあれば、僕の王位は確固たるものになる…っ!」

カイドウは首を傾げる。

「君に僕が倒せるの?」

「容易い事だ!この指輪さえあれば…」

「これの事?」

カイドウは右手に握った指輪を見せつける。

見覚えのあるその煌めきに、カンセイは自身の左手に目をやる。

人差し指にあった禁術具の硬質な感触は失われていた。

「貴様…いつそれを!」

「さっきね、うーんと、こうかな?」

指輪を左手の人差し指へ填める。

「よっ」

カイドウが力を込めると、大きな火柱が上がった。

それは先程カンセイが出したものとは、少なく見積もっても三倍ほど差がある大きさに見えた。

「なるほどねー」

「ば、馬鹿な…魔族が、僕より威力を出すなど…」

「僕ねぇ、一度見た術式ならコピー出来るんだよね」

「そんな、馬鹿な…う、うわあああ!」

カンセイは叫びながら、フレイムティアラを再発させる。

指輪を失ったからか、元の大きさに戻っていた。

「僕は…次期国王なんだああああああ!」

手の先から火球を繰り出す。

「よっと」

しかし、カイドウの火柱に包まれて呆気なく無と帰した。

「な…」

そのまま火柱は成長していき、瞬く間にカンセイを包み込んだ。

「ァ…っ」

一瞬の断末魔を残して、カンセイは炎の渦に飲まれて消えた。

「ふぅ…ん?」

火柱を解除したカイドウは、指輪を見て頭を掻いた。

「あちゃー、壊れちゃったか」

指輪はパリンと弾け、粉々になって床に落ちていく。

「やっぱ強化魔法の重ね掛けには耐えられなかったのかなぁ…ま、しょうがない…それよりも」

ぐるり、と振り向きホエンと目が合う。

「あ…」

「君、王族が憎いか?」

「…え?」

突然の問いに戸惑っていると、カイドウは消し炭となったカンセイを指差す。

「あれ、倒すつもりだったんだろう?」

ホエンが黙っていると、カイドウは続ける。

「王家は倒されるべきだ。僕にはそれをし得る力がある。でもまだ準備が足りない…その準備の為に仲間が欲しいんだ」

「仲間…?」

「そ。王を倒して、新しい世界を作る為の仲間!組織名はそうだな…カガセオ、なんてどうだろう」

「カガセオ…」

「勇者を終わらせる者って意味さ」

「……」

ホエンは、ニンナの亡骸を見遣る。

「…仲間になれば、もうこんな思いしなくて済む?」

「ああ、王家を倒せれば、待っているのは自由さ」

「……」

ホエンが頷こうとしたその時、ガラスの破片を踏む音が聞こえて横を見た。

「ホエン…どこか行っちゃうの…?」

「レーワ…」

四歳の幼子は、心細そうに袖口を握り、長い髪の向こうからこちらを見つめていた。

「ボク、魔法の研究頑張るよ?ホエンが働かなくてもいいくらい、いっぱいお金稼ぐから…」

「レーワ」

びくり、とレーワの体が跳ねる。

「レーワ、メイジを呼んできて。ニンナを治療しなきゃ」

「でもホエン…」

「早く!」

「……待っててね」

レーワは窓を飛び越え、孤児院へと走って行った。

「…心は決まったみたいだね?」

ホエンはただ、頷いた。





十数分後、レーワがメイジと見回りのギルド職員を連れて廃屋に戻ったが、そこには羽根の生えた男も、ホエンの姿さえも無かった。

あるのは炭の塊と、ニンナの焼死体のみであった。

「メイジ、ほんとだよ?ほんとにホエンも居たんだよ!?」

「ええ、レーワさん。私は信じますよ…」

メイジはそっと、レーワを抱き締めた。

「ホエンさんは…大丈夫です…」

きっと無事で帰ってきてくれる。

月を見上げ、祈った。

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