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鬼死回生~酒呑童子の異世界転生冒険記~  作者: 今田勝手
章の五

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第百三話/ジンシン②・日常の歪み

ホエンは全身に筋力強化を掛ける。

「じゃあ行くよ、ニンナ!」

構えを取ると、対するニンナも両手を前へ出した。

「よし、いつでも来な!」

手先へ魔力を込めると、両掌から渦を巻いて水流が生成される。

それらは弧を描いて空中を自在に進み、やがてひとつの大きな壁となって前方を覆った。

ニンナの固有魔法は「水魔法」である。

自在に水を操り、生成する事が出来るものだ。

現れた水の壁は厚みを増していき、ホエンの行く手を遮る。

「今日こそ突破するよ!」

「やってみな!」

ホエンは走りながら拳を握ると、ぐっと力を込めつつ強化を重ねて掛けた。





「はぁー勝てないなぁ」

帰り道、ホエンが大きな溜息を吐く。

ニンナは笑いながらホエンの頭を撫で回した。

「そう簡単に勝たせやしないよ、まだまだ可愛い妹分で居てもらわなきゃ」

「うー…」

ホエンはぐらんぐらんに揺れる視界の中を、不自然なモジャモジャが通過していくのに気がつく。

「うん?」

建物と建物の間から、見慣れた癖毛がはみ出していた。

「レーワ?」

「ん?あれ、ほんとだ」

ニンナも気付くと、二人で互いの顔を見合う。

「レーワ、何やってんだい?」

ニンナが声を掛けるも、レーワからの返答は無い。

ただただ、地面で何かを黙々と弄っている。

ニンナは溜息とともに、ホエンの肩を叩いた。

替わってホエンが呼びかける。

「おーいレーワ!」

ホエンの声に、ピクッとレーワの動きが止まると、見上げるように後ろを振り返る。

「あれ、ホエンとニンナだー」

「何やってんのこんな所で?」

「んー?これー」

レーワは立ち上がって振り返ると、その姿に思わずホエンは「うげ」と声を漏らした。

沼地にでも飛び込んだかのように前面や髪の毛を泥だらけにしたレーワが、手に持ったそれを差し出してきた。

「…魔虫?」

「うん、ここにいるの珍しいから見てたー」

魔虫はその名の通り、魔力を持った虫の総称である。

分類上は魔物であるが、有害性は他の不快害虫とさほど変わらず、幼児でも駆除が簡単なため特に問題視はされない。

それも屋内ならまだしも、ぬかるみの中にいるようなものなら尚更である。

レーワの興味はその魔力や体内に宿した魔石の欠片であるが、年長者二人の意識はもはや魔虫の外であった。

「とりあえず、固まる前に洗い流そう」

ニンナは、水魔法で生成した清潔な水でレーワの髪や身体についた泥を落としていく。

「わぶぶ」

「まったく、またメイジが怒るぞー?」

「んー」

洗われているからか、生返事が帰ってくる。

「というか、チビひとりでの外出をメイジが許す訳ないよね?レーワ、なんで外に出てたの?」

「んー?」

タオルで顔を拭きながら、レーワは首を捻った。

「えっとねー、えーっと…あ、そうだった」

タオルをホエンが受け取ると、まだ水滴が滴っている髪の毛を拭いていく。

「メイジがねー、油が足りないから貰って来てってねー、四人で出てきたの、いま思い出した」

「レーワ…」

ホエンが溜息を吐く。

おそらくメイジは、年長者が一人率いる形の四人組で、油を貰いに行かせたのだろう。

だが孤児院を出てすぐにレーワは魔虫を見つけてしまい、聞く耳を持たなくなってしまった為、引率者は帰りに回収すればいいと思って置いて行ったのだ。

「レーワ、一緒に居たのが誰か覚えてる?」

「んとねー、エイニンと、ニンジュと、オーワ」

「じゃあエイニンが引率だね…」

エイニンは、ホエンとひとつ歳下の少年だ。固有魔法もまだ持たず、引率としては不安が残る。

「よしホエン、レーワを院に戻したら私らも加勢に行こう」

「ウチもそう言おうと思ってた」

ホエンは立ち上がると、レーワと手を繋いでニンナの横に並んだ。

「おい」

歩き出そうとしたその時、唐突に後ろから声が掛かった。

二人が振り返ると、そこには高級感のある格好をした男が機嫌悪そうに立っていた。

「邪魔だぞ貧民。この僕が通るんだ、控えろ」

思わず固まる。

孤児院周辺は貧民街に等しく、貴族が顔を出す事などホエンの人生で一度もない。

ニンナと顔を見合わせる。お互いに怪訝な表情をしていた。

その様子に、男は更に不機嫌そうな態度をとる。

「聞こえなかったか?元王族たる僕が通るんだ、道を開けろ」

ホエンとニンナは、おずおずと脇へと捌ける。

「ふんっ、貧民の分際で…」

男はブツブツと何かを呟きながら通り過ぎて行った。

「………………なにあれ?」

ホエンは男が角を曲がるのを見届けてから、指をさす。

ニンナは肩を竦めた。

「さあ?帰ったらメイジに聞いてみよう」

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