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くるみちゃんは逆ハーになりたいっ♡  作者: ぼぼぼぼ
序章
7/13

第7話:抗えない運命



暗い森を突き進んでいくと街の裏側にまで来たのか地下水路の入り口に辿り着き胡桃は其処に入り込んだ。地下水路はいくつか別れ道があり、上手い事アンデットから身を隠すことに成功したが、地下水路には恐らくアンデットがウジャウジャいて見つかるのも時間の問題だろう。


「胡桃ちゃん、教会へ行こう!教会だったらアンデットを倒してくれる戦力が豊富のはずだよ!」


ボクは青年の傷を治癒魔法で癒しながらそう胡桃に提案するが胡桃はじっと青年のことを見つめていた。すると青年は眉を顰めながら苦い顔で口を開いた。


「教会は駄目だよ。此処何年も平和な日々が続いているせいでずっと怠慢気味なんだ。主な戦力のシスター様も今日は聖女候補様の魔法訓練で忙しいみたいだから。それに…。」


青年はグッと何かに堪えるように一度溜めると僕達に目を合わせた。


「オレは、『忌子』と呼ばれているんだ。この目のせいでね。だからさっきも教会の人から追い出されちゃったんだ。」

「忌子?確か何処かで聞いたことあるな。君のソレは魔眼だね。けれど忌子だなんてまたこの世界の人間は随分と古い伝承を信じ込んでいるんだね。」


紅い魔眼を持つものはその高い魔力から魂や魔力を喰らう魔物に狙われやすい。自然と引き寄せてしまう。小さな村であれば魔眼持ちがいれば運が悪ければ一瞬で壊滅する。しかしそういった魔眼持ちの人間は決まってその能力値の高さから大抵は自らその身や周りを守ることが出来る。だけどこの青年は普通の魔眼持ちとは訳が違う様だ。


「君、魔力回路がクシャクシャだね。常にどっかに引っ張られてる。」


人間にはそれぞれ魔法回路という血管のような心臓から魔力を生成して全身に送り届ける役割をしている回路がある。この人間はおかしな事にその回路がまるでどっかに引っ張られる様にして縮こまっている。ストローの包み紙みたいに。こんだけクシャクシャなら魔力もしっかり巡らないから上手く魔法を使うことも出来ないだろう。魔力を酷使すれば体内が傷つき身体中に激痛が走るはずだ。


「引っ張られてる…?オレは昔から身体が弱くて、入退院を繰り返してるいんだ。その関係からか、あまり強い魔法に身体が耐え切れないみたいなんだ。すぐに魔力が枯渇状態になる。」


本人は自覚がない様だ。まぁ、魔力回路を透視できるなんて力が使えるのはエリート妖精のきっとボクぐらいだけどね。

それにしても、魔法が開花し始めるのは人間なら10歳程の頃だろう。その頃から化け物に襲われ続けているなんて、自衛ができないのに今までよく生きて来られたな。いや、この青年の場合はもっとずっと前から狙われ続けているのか?ボクは更に青年を凝視した。色々とこの人間は可笑しい。一体何なんだ?


「君はどうやら本当に運が悪いみたいだね。君は魂も魔力もとても綺麗で澄んでいるね。人間かどうか疑うくらいにね。ソレにプラス魔眼持ちだなんて……本当、魔物達の格好の餌だね。」

「あ、はは。」


乾いた笑いを漏らす青年は苦笑しながら頬を掻いた。


「巻き込んでごめん、全部オレのせいだ。傷の治療、本当にありがとう。こんなに話が出来る妖精ははじめて出会ったよ。」

「ボクは特別の妖精だからね。」


ボクはフフンと笑ってみせる。


「みたいだね。でも、これはオレの問題だから、二人は教会まで一直線に逃げて。アンデットはオレを見たら真っ先に追ってくる筈だから、その隙に。」

「な、何言ってるんだい?!君は死ぬ気なのか?!見たところ、君が使える魔力はもう、」

「それでも、オレのせいで誰かが死ぬ位なら…、大丈夫。今更死ぬのは怖くないよ。」


ぐしゃりと苦しそうに笑う青年は痛々しくて見ていられなかった。死ぬのが怖くないだなんて、彼を其処まで言わせてしまうほど、この青年は何度も自身の命を脅かされてきたのだろう。でも、此処で躊躇してる暇はない。このままではボクや胡桃が死ぬ。彼を見捨てて逃げるしかないかもしれない。それしなければ行けないくらい奴らは危険なんだ。きっとこれが彼の哀れな運命なんだろう。ボクらなんかでは覆すことの出来ない、強く残酷な運命だ。


それに、ボクは彼と違って死ぬのがすごく怖いんだ。


「胡桃ちゃん、彼は君が教えてくれた『攻略対象』の特徴にはどれも当てはまらないみたいだよ。すなわち、君の言う恐らく『モブ』だろう。…こんな状況で彼を諦めたって誰も君を責めないよ。」


ボクは胡桃にだけ聴こえるようにそう小さな声で彼女を諭す。もうボクは諦めていたんだ。頭の中では恐怖がいっぱいで、自分が助かりたくて仕方がなかった。怖くて、怖くてたまらない。たとえそれが誰かを見捨てる事になっても助かりたかった。だってそうでしょう?みんな誰もが自分が一番なんだから。

胡桃は珍しく静かで俯いているからか表情が読み取れない。もしかしたら、彼女もボク同様恐怖で頭が一杯なのかもしれない。


「オレが奴らの前に出て注意を惹きつける。オレはこのまま地下水路の奥へ走るから、その間に君たちは来た道へ逃げて。闇雲に走るよりそっちの方が確実に出れると思うから。オレが絶対に君達を傷付けさせない。命に代えても。だから怖いかもしれないけど信じて走って。」

「君…、」

「大丈夫!オレも精一杯逃げるよ!」


彼は何て優しいんだろうと思った。自分らは彼を囮にして逃げようとしているんだ。見捨てようとしているんだよ。何だよ、もっと泣き叫んで縋れよ。見捨てないでって、行かないでって。


「そうだ。それと最後に、オレの事助けてくれてありがとう。街の人は誰も助けてくれなかったから。久々に誰かに優しくされて凄く嬉しかったよ。本当に嬉しかったんだ。オレ、人を見る目はあるから君たちが優しい人だって言うのはすぐ分かったよ。」


青年は笑った。こんな状況ににつかわないまるで太陽の様な眩しい笑顔で。心から嬉しそうに。でもその姿があまりにも儚く見えて、あぁもうこのままお別れなんだな、居なくなるんだなって悟ってしまった。大丈夫なんて明るく言っていたが、もう逃げきれないだろう。多分きっと、彼はもう自分の生を諦めてしまっていたから。


近くにアンデットの気配を感じた。

もう奴らは此処まで来てしまったのか。もうタイムリミットの様だ。


「…もう行くよ。本当にみんな死んじゃう。じゃあ、元気で。……さようなら。」


あ。

彼が立ち上り、明るい笑顔でそう別れを告げる。

踵を返して飛び出そうとする。

その動きがまるでスローモーションの様に見えた。

立ち去る背中。

その背中はまるで勇者のように、英雄のように、たった一人で敵に立ち向かう勇しさの中に切なさが混じったように見えた。


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