第6話:破滅回避
※流血、虫表現がございます。苦手な方はご注意下さい。
ズル…ズル…。ズル…ズル…。
何かを引きずる音。ソレは暗闇に近付けば近付くほどどんどん大きくなった。そうして更に奥に進めばその音はピタッと鳴り止む。当たりはもう建物は無くて、木々が茂った森だ。ずいぶん歩いて来てしまった。そして遂にボクと胡桃はその正体を目にする。ドス黒い瘴気を纏った化け物だ。グロテスクな触手の様なモノが本来顔があるところから生えていてそこから垂れる液体のような瘴気は地面に落ちると蛆虫のように形を変えて蠢いた。あんなアンデットは見たことがない。ボクは恐怖で声が出なかった。
逃げなくちゃ…、逃げなくちゃ…!
幸いアンデット達は何かを取り囲むようにして一定位置に群がっており此方には気が付いていない。逃げるなら今しかない。やがてアンデットはゆっくりとした動作で鋭く尖った指を出現させ、そして振り下ろそうとした。
その時だった。
「あ〜っ!イケメンだぁ!」
はぁ?
ピタリ。アンデットが動きを止めてグチョリと音を立てて一斉に其方へ向く。
ボクも震える頭をやっとの事で其方に向けるとソコには目をハートに輝かせてクネクネと動いている胡桃の姿があった。
嘘だ嘘だ、冗談であってくれ!この子はこんな絶命の危機でさえ能天気なのか?!いや、恐らく理解していないのだろう。今がどれほど危険な状態なのかを。ボクだけ逃げる?聖女候補が死ねばボクはどうなる?でも、だって、ボクは彼女に振り回されてばかりだ。
次の瞬間、アンデットは一斉に胡桃の方へと爪を立てようと襲いかかった!
「は!胡桃ちゃん!」
もう手遅れだ!そう思ってボクは泣きそうになりながら彼女の名前を呼んだ。もう死ぬかと思ったのだ。
━━━━━━━━しかし、奴らの爪は彼女を切り裂かなかった。
いや、正しくは切り裂けなかったのだ。
胡桃は複数いたアンデットを最も簡単に、まるで舞を舞うかの様に優雅にかわして見せたのだ。そんな瞬発力、只の子供であればありえないものだ。胡桃はそのまま優雅に着地するとある一点に向かってかけて行った。ボクはアンデット達の間から其方を見る。其処には一人の青年がグッタリと横たわっていた。胡桃はその青年に駆け寄り丁寧に抱き起した。少し癖のある濡羽色の髪の毛と日光をあまり浴びていない事が分かる陶器の様な白い肌、胡桃が騒ぐのも納得の行く美青年だ。
アンデットが人間には不可能な角度で首を回し、胡桃達の方へと注目する。
「こんにちは〜!あ、もうこんばんはか。もっし〜!生きてる〜?」
アンデットが動き出す。しかし胡桃は依然として逃げる気配は無く、眠る青年の白い頬をペチペチと叩いていた。
「胡桃ちゃん!危ない!」
ボクは咄嗟に胡桃の前に飛んでいき、保護魔法で障壁を作った。障壁とアンデットの爪がぶつかり合い、凄まじい轟音と衝撃が森の中に伝わり、木々が大きく揺れた。ボク、何で彼女のこと助けてるんだ?こんなバカほっといて自分だけ逃げればいいのに。
騒がしさと胡桃の呼びかけに応じる様に、青年が固く閉じられた瞼をスッとゆっくり持ち上る。ルビーの様な美しい瞳が胡桃と切磋琢磨するボクを捉えた。
「あ、起きた。良かったぁ。死んじゃったかと思ったぁ。」
「オレ…生きて、」
バキバキィ!
障壁にヒビが入り始める。やっぱりボクの障壁じゃあ少ししか攻撃を防ぐことができないか…!
「二人とも逃げて!」
どうやって?
青年は全身傷だらけで頭から血を流してる。恐らく一人で立つことも出来ないだろう。もう少し持ち堪えることが出来れば、胡桃ちゃんに回復魔法を咄嗟に教えて彼を回復させれば…。いや!胡桃がそんなことできる筈ない!!
「やっぱり来るんじゃなかったーーーーー!!」
ボクは無くながらそう叫ぶ。障壁は遂に限界を迎えて粉々に砕け散り消えていった。
ひ、切り裂かれる。
しかし襲ってきたのは痛みではなく手で鷲掴みにされる衝撃だ。
「ぼふぇっ!!」
ボクはその手の主の方を見ると何気ない顔で青年を抱き上げていたのだ。し、しかも、横抱きで。
「え、へ?!お、オレ、お姫様抱っこされ、」
「さ、逃げるよぉ〜!!」
胡桃の可憐な身体の何処にそんな力が眠っていたのか。軽々と青年を抱き上げて颯爽と走り出した。
「お、女の子に、お、お姫様、抱っこ。」
そう小さな声で呟く真っ青の顔の青年。も、もうやめたげて!青年のプライドのライフはもうゼロだよ!!
で、でもコレで逃げられる!そう思いチラリと背後を見ると物凄い速さでアンデットは追いかけて来ていてボクは悲鳴を上げた。
「あ、アンデットがあんな高速で動いてるなんて…!!」
胡桃ちゃんの逃げ足は普通の女の子よりもかなり早い。僕の知っているアンデッドも追いつけないほどの速さで走っているはずなのにアンデッドは少しづつ距離を縮めて行った。
「アイツらは密売人が手に入れた魔道具で動いてるんだ!普通のアンデットじゃない!」
ボクの疑問に青年が答えた。
「はぁ?!密売人?!何で君がそんな事知ってるんだい?!そもそも君は一体、」
「喋ってると舌噛むよ〜!!」
胡桃がそう言うと走る速度を早めた。早く、早く街に着いてくれ!




