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くるみちゃんは逆ハーになりたいっ♡  作者: ぼぼぼぼ
序章
11/13

第11話:天使様の尋問

 ここは教会の大聖堂内にある一室。大聖堂にはお祈りをしに来た人々が普段は入れない部屋が沢山あるけど中でも此処はそれはもうお偉い人が来客した時にしか入れない面会室だ。フカフカで上質な椅子に座るのは緊張した趣のテアさんとボク、そんなボク達とは違って目を輝かせる胡桃が居てこれまた上質で立派な机を挟んで向こう側に居るのは優雅に紅茶を飲むクラース・イポメアニルだ。

 くっ、普段見慣れた窓から見える景色もクラース・イポメアニルの背景になることによってこんなにも美しい光景になるのか…!まるで有名な画家が手掛ける神話の絵画の一風景の様だ!

 コラコラ、うっとりするんじゃ無い胡桃!とか思いつつも内心ボクも少し期待の気持ちがあったのだ。何たってまさかマーレとの繋がりはあまり期待できなかったクラースの方がわざわざ直々に会いに来てくれるなんて思ってもみなかったからだ。これは胡桃のモチベにも繋がるしきっとマーレの一件で代わりに礼を言いに来たに違いない。これは進展あるぞ·····!


「この紅茶、ソフィアマンゴーアップルですね。」

「あら、珍しい紅茶なのに良く知ってるわね。」


 見事紅茶の茶葉の種類を言い当てたクラースにテアが感心した様に笑い、何だか少し緊張した空気が解された様な気がした。クラースは「叔父が好んでよく飲むもので。」と言って穏やかにニコリと笑う。それから眉をハの字に下げると申し訳なさそうに口を開いた。


「この度は連絡も無しに突然此方に押しかけてしまって申し訳ありません。お忙しいのに時間を割いていただきありがとうございます。」

「いいえ、気にして無いわ。それに忙しいのは貴方も同じ事でしょう?ね、国家魔法騎士団科学技術部さん。」


 『国家魔法騎士団』。この国には国の秩序を守るため、なまざまな危機から人々を守る使命を持つ者がいる。一つは胡桃達の属する『教会』。そしてもう一つが『国家魔法騎士団』だ。国家魔法騎士団には部署がいくつか存在して、『科学技術部』は新たな魔法、魔法化学や魔法道具の開発や研究。植物や生き物の分析を行っており、優れた頭脳や知識、才能や技術の持ち主が集まる部署だ。ボクの調べによれば彼は幼少の時からその部署に属し、様々な功績を生み出して今ではその若さにして沢山の団員を指揮する重要な存在だ。影の活躍のみならず、表でも日々人々の為に誠実に働くその姿、穏やかな笑みを浮かべるその姿は国民からかなりの指示を集めている。


「クルス様も、突然の訪問なのに応じていただき感謝申し上げます。改めまして、クラース・イポメアニルと申します。」

「クルミ・クルスで~す!クラース様の事は以前から存じてましたぁ!」


 体をくねらせる胡桃。あまりの嬉しさからか瞳にはハートが浮かんでおり瞬きするたびにフヨフヨとハートが浮かんでは消えていく、そんな幻覚すら見えてしまった。

 クラースは胡桃の言葉を聞くと胡桃が自身の存在の事を知っていたことが意外だったのか少し驚いた様子を見せてからふわりと再び笑った。


「おや、僕の事を?ふふ、それはとても光栄です。僕も以前からクルス様の事を存じておりましたよ。」 


 ん?クラース君が胡桃ちゃんの事を…?胡桃は聖女候補だから知っていても何の違和感も無いはずだが、生徒会に唯一勧誘されていない胡桃の存在を知っていると聞くと何だかちょっとだけ嫌な予感がした。

                                                                      

「でもそんな忙しい貴方が使いの人も出さずにわざわざ直々に会いにくるなんて…、ハッ!まさか…、この子が何かとんでもない粗相を?!」


 恐らくテアは素行の悪い胡桃の最悪の過ちを想像してしまっているな。クラースに何かとんでもない迷惑をかけてしまったのでは無いかと考えたテアはどうやって胡桃の無礼を許してもらえるか思考を巡らせているに違いない。胡桃とクラースを交互に見ては顔を真っ白にしていた。そんなテアの思考を即座に理解したのかクラースは慌てて「むしろその逆です。」とテアの誤解を訂正して落ち着かせる。そんなクラースの言葉に落ち着きを取り戻したと同時にテアは「逆?」と不思議そうに首を傾けた。


「本日はクルス様にお礼を申し上げたくて此方に伺わせていただいたのです。先日は弟のマーレがクルス様に危うい状況を救っていただいたと言う事で、マーレの代わりにお礼をと、ンム。」


 クラースがそこまで話したところで突然会話は強制的に遮られてしまった。クラースの口は目の前の身を乗り出した少女の手によって塞がれてしまったからだ。見ればそこには先程までのテンションがブチ上がったキラキラな雰囲気の胡桃が笑みを引き攣らせながら焦った様子で冷や汗をかく姿があった。そしてその隣には「ちょっと待って、『危うい状況を』…?」と額に手を当てて項垂れるテア。あぁ、バレてしまった。まさかこんな形で胡桃ちゃんがテアさんに隠したがっていたマーレ君との出来事がバレてしまうなんて…!あまりにも呆気なくてボクは哀れみの視線を胡桃へと向けた。


「やっば、予想外なことが多すぎて気ぃ抜いてたわ…。」


 そうつぶやいた声はボクにしか聞こえていないようだ。胡桃はジトリと天井を睨んだ。

 暫くすると項垂れていたテアがクラースの口を塞いでいる胡桃の手を掴んで「迷惑だから」と引き剥がす。それからテアは大きなため息をついて眉間を抑えると胡桃の先程の無礼を謝った。クラースは特に気にした様子もなく穏やかに笑ってから首を振って、それから真剣な趣で口を開いた。


「……やはりテアさんはご存知では無かったのですね。」

「えぇ、もしも大きな出来事に巻き込まれた時はそれが解決済みでもそうで無くても必ず話す様にとそれはもうしっかりと、もうしっっっっかりと教えたはずなのにだけれど…。」


 テアは再び大きなため息をついて机に突っ伏し項垂れる。それから何かを悟ってしまったのか突然ハッとして顔を上げると鬼の形相で胡桃を見つめて「もしや、一週間前のあの夜…?」と低くした声を震わせて訊ねる。そんなテアの様子を見て胡桃はもう誤魔化せるはずもないのに視線を逸らして口笛を吹き、わざとらしく聞こえていないフリをキメ出した。もう流石に無理あるよ…。


「はぁ~~~~~~~…、やっぱり無理にでも聞いておくべきだったわね。私にも責任があるわ。あぁごめんなさいクラース君、申し訳ないのだけれど詳しい話を聞かせてもらえないかしら?———————マーレ君に一体何があったの?」


 場の空気に緊張が走る。

 クラースはやがて一週間前にあったボク達にあった出来事を事細かにテアに説明した。



♢♢♢♢♢



「話は理解できたわ。でも本当にこの子だったの?何というか…あんまりにも現実味が無い話すぎて…。」


 全ての話を聞き終わったテアの怒りと焦りはいつの間にか疑念へと変わっていて悩ましげに顎元に手を添えていた。テアが信じられないのも無理もない。だってボクも現場にいたのに今だに現実なのか疑ってしまう程信じられない話なのだから。だって普段のんびりしててマイペースなただの華奢な女の子がまさか一体でも浄化が難しいレベルのあの凶悪なアンデットを一体どころか全て浄化してしまい挙げ句の果てに無傷で帰還してくるなんて。普通に聞けばそれはまるで川を呑気に泳ぐカバがある日突然、二足歩行で人語を話すレベルでまったく意味が分からないしあり得ないぶっ飛んだ話だからだ。


「えぇ。実は僕も俄に信じ難いと思っていたのですが…。まぁ、それはご本人に聞けば分かることです。ね、クルス様。」

 「いいえ。分かりません。」


 ニコリと此方に問いかけるクラースにキッパリとドヤ顔で即答をかます胡桃。

 この期に及んでまだホラを吹くつもりかい胡桃ちゃん?!


「ん?」


 ニッコ~リ!!素敵なスマイル!!

 笑顔の圧だ!!!

 ボクは圧倒されて身を震わせた。お願いボクを見ないでぇ!!!


「胡桃ちゃん、もう怒らないから本当の事なら本当って言って。」


 テアが胡桃の手を握る。まるで子供を諭す母親の様に胡桃に言うテアに胡桃は肩を丸める。それでも胡桃は固い意志を曲げない。胡桃は握られた手を震わせて少し顔を俯かせてからテアを見つめる。それからまるで何か得体の知れないモノに怯えるかの様に小さな声でテアとクラースに訴えかけたのだ。


「…ウチ、本当に分かんないです。だ、だってだって、胡桃がどうやってその人を助けるって言うんですか?!他の皆と違って魔法だってまだ上手く使え無いし…。何が目的か分かんないけどきっと誰かが胡桃を陥れようとしてるんです!胡桃のフリをしてるんです!」


 おぉ、渾身な演技。胡桃ちゃんなかなかやるなぁ。これは事情を知らなかったらボクも騙される所だよ。

 胡桃がテアに縋り付く様に寄り添うのでテアはそんな胡桃にまんまと騙されて心配そうに胡桃を優しく抱きしめて頭を撫でた。胡桃は嬉しそうにテアに抱きついて顔をテアの胸元に顔を埋めた。これは完全にテアはこちら側になったな。


「確かに今の胡桃ちゃんに凶悪なアンデットの浄化を行うなんて不可能だわ。いいえ、並大抵の大人でもアンデット一体を浄化するだけでも相当の訓練を積んでいないと無理よ。それを複数だなんて…。クラース君、マーレ君が嘘をついているとは思っていないけれどかなり憔悴しきっていたみたいだしやっぱり何かの間違えじゃ無いかしら?」


 

 確かにどっちの話が現実的と言われたら確実に胡桃の話だろう。それにアンデットの浄化がどれほど至難の技なのか本業のテアが一番理解しているはずだ。

 そんなこちら側の様子を見てクラースは「そうですか…。」困った様子で微笑んだ。何だか申し訳ないなぁ。でも胡桃ちゃんが自身の膨大な力を隠したがっている以上、クラース君には悪いけれど今は引き下がって貰うしか無い様だ。ボクが絶対に胡桃ちゃんを説得して見せるからその時は是非とも生徒会の推薦状を持って再び訪問してほしいよ。


 ボクはそんな感じのことを呑気に考えていたしテアは胡桃を慰めながらクラースの次の言葉を待っていた。胡桃は依然としてテアの腕の中で僅かに体を震わせていて演技に夢中。

 でもボクは忘れていたんだ。だってさっきまでクラースは穏やかで優しい好青年だったから。ボクは先にマーレ君の印象もあって常に穏やかに優しげに笑っていた彼の双子の兄もきっと常にそうなんだろうなと話していて思っていたのだ。だから最初に大聖堂で見たクラースとマーレが全く違う印象だった事も、マーレが「全然似てない。」とわざわざ言っていた事も頭からずっぽ抜けていた。———————クラース君の穏やかな笑みがスゥっと消えていき、そんな様子を見てテアが「ア゛っ。」と声を漏らし、顔を引き攣らせて冷や汗をかくまで。


 テアはクラースのその様子に恐らく見覚えがある様だ。クラースは表情の抜けた顔で冷徹な目を此方に向けていた。先程までのまるで人々を優しさで包みこむような、天使の様な表情が嘘の様な冷たく突き刺す様な視線にボクは戸惑った。本当にさっきまでの人物と同一人物か?!

 それからクラースは少し目を閉じてふぅ、と小さく息を吐く。再び開く瞳は獲物を捕らえて逃がさんとばかりに鋭く尖っていてその鋭い眼で相手を捉えて離さな様に見据えていた。


そして━━━━━━━━━━━


「……まさか、嘘をつかれるとは思わなかった。生徒会推薦から君を外しておいて正解だったみたいだね。」


次に飛び出した言葉にボク達は肉食動物に牙を突き立てられた様な衝撃襲われたのだった。

【国家魔法騎士団】

優れた能力を持った者のみが入団できる日々国の平和を守り抜く人達。能力ごとにそれぞれの部署に割り当てられる。

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