*に*
昔、といっても前世なのだが、私は少女漫画が大好きだった。入院することが多く、 青春の約8割を病室のベッドの上で過ごしていた身からすれば、ヒロインは私の憧れだったのだ。
特にはまっていたのが『君とともに』。
ヒロインである姫宮美妃が、頭脳明晰運動神経抜群の黒崎零と恋に落ち、様々な苦難を乗り越えていく王道なストーリーだ。そしてテンプレ設定でライバル役はヒーローの幼馴染みの女の子。
ただ、他の身分差のある恋愛とは違って、現代版のロミジュリ、と呼ばれていた。つまりは、家が敵対
なぜこんなことを急に語りだしたのかというと…
――――――な!玲奈!
はっと目を覚ますと目の前には幼馴染みの顔のどアップ。きらきらしてて眩しいんだけど…
「玲奈?よかった、やっと目、覚ました。」
そう言ってふにゃんと微笑むのは私の幼馴染み様。
少しヨーロッパ系の血が混ざっているせいか、茶色がかった髪に中学生にしては高めな身長。筋肉はそこそこついてるけど、けしてごつくはない。どこからどうみてもイケメンの類いであろう。これでなおかつ家がお金もちだというのだから、不公平すぎる。
「いきなり倒れるから驚いたんだよ?大丈夫?ちゃんと寝てる?」
そう眉を垂れて聞いてくる姿はまるで忠犬のよう。
「うるさい、零。お母さんみたい。」
そう言い置いて、床に開いてある高校案内の冊子を見る。
大きく書かれた『清涼高校』という文字。そして、目の前にいる黒崎零という幼馴染み。
うん、やっぱり認めるしかないみたいだ。
ここは、あの『君とともに』の世界なのだと。
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こういうときはやっばり現状確認から。
黒崎零。漫画のヒーロー。黒崎家の長男で、基本何でもできるチートキャラ。
ヒロインは、姫宮美妃。
そしてテンプレな悪役は、ヒーローの幼馴染みである高倉玲奈。
そう、誰であろう、私である。
…なんで!?
混乱して頭を抱えていると、
「やっぱりさっき頭打ったりしたんじゃ…?どうすればいいんだろう…」
と零がおろおろしていた。
…あれ?
『黒崎零』って、クールでちょっと俺様(笑)が入ってる性格だったはずなのに…?
今のこれ、そんな面影が一切残ってないんですけど??
これは完全に私の責任かな。
そもそも、零がそんな性格になるのは、幼馴染である私がよく零に甘えていたせいだ。
だけど、たとえ見た目が幼女でも精神年齢18歳の私が見た目・精神年齢ともに幼い彼に甘えるはずもなく…というか、むしろ甘やかしていた。
そのせいで、零はかなりおっとりした、漫画内とは正反対の性格になってしまったのだ。
なんというか、ほんとにこれがあの黒崎零なの!?ってくらいの豹変ぶりなのだが…
漫画内の黒崎零というキャラが好きだった私からしてみれば、大分ショックな光景だ。
だって、今も目の前でおろおろしてるんだもん。
あぁ、イメージが崩れていく…
そんな零はほうっておいて、とりあえずこの先の展開について考えよう。
たしか、最終的に悪役である私は、ヒロインに色々な嫌がらせをしてて、それを糾弾されて、その後は…
―――どうなるんだろう?
そう、残念なことに、ここでは最悪なことに、だが。
前世の私は、この漫画を最後まで読むことが出来なかったのだ。




