第115話 黒糖飴が結んだ記憶
人との出会いは、その場で終わるものではありません。
何年もの時を経て、一つの出来事が別の誰かの人生へ繋がっていることもあります。
今回は、主人公の過去と現在を結ぶ、小さな証言が語られます。
美咲が元気よく帰っていく姿を見届けたあと、店内には穏やかな静けさが戻っていた。
店主はカウンターに置かれた湯飲みを二つ並べる。
「コーヒーでも飲んでいくかい?」
「ありがとうございます。」
主人公は勧められるまま椅子に腰掛けた。
店主は湯気の立つコーヒーを差し出し、ゆっくりと口を開く。
「さっき君が話していた『昔助けてもらった人』のことが、少し気になってね。」
主人公は黒糖飴の入った小袋を取り出した。
「この飴をくれた人なんです。」
店主はその黒糖飴を見ると、一瞬だけ目を見開いた。
「……その飴か。」
主人公は驚いた。
「知っているんですか?」
店主は懐かしそうに目を細める。
「もう何年も前になるかな。」
「裸足の男性が、この店へ来たことがあった。」
主人公の鼓動が少し速くなる。
「裸足……。」
「ああ。」
「お金はほとんど持っていなかった。」
「でも、不思議と暗い顔はしていなかったよ。」
主人公は黙って耳を傾ける。
「あの人は言ったんだ。」
『いつか、大切な人とまた会える気がする。だから歩き続ける。』
店主は静かに笑った。
「私は、その言葉が忘れられなくてね。」
「結局、その日は古い靴を一足だけ渡した。」
主人公は目を見開く。
「もしかして……。」
「その靴を履いて、何度も頭を下げて帰っていったよ。」
主人公の胸に、あの日の景色が鮮明によみがえった。
裸足だった男性。
靴屋。
優しさ。
すべてが一本の線で繋がっていく。
「人生って、本当に不思議ですね。」
主人公がそう言うと、店主は大きく頷いた。
「人との縁は、目には見えない糸みたいなものだ。」
「切れたと思っても、どこかでまた繋がる。」
その言葉に、主人公は黒糖飴を見つめた。
母との思い出。
あの男性との出会い。
そして今、新しい出会い。
一粒の飴は、たくさんの人の優しさを運んできた。
店を出ようとした時だった。
主人公の視界の端に、白いワンピースが揺れた。
振り返る。
道路の向こう側に、一人の白い少女が立っていた。
風に髪をなびかせながら、静かに主人公を見つめている。
主人公は思わず声を上げた。
「君は……。」
しかし大型トラックが通り過ぎた次の瞬間、少女の姿は消えていた。
夢だったのか。
幻だったのか。
それでも主人公は確信していた。
「また会える。」
そう呟くと、主人公はロードバイクへまたがる。
夕日に染まる国道をゆっくりと走り出した。
その背中を、どこか懐かしい風が優しく押していた。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
今回は、主人公が出会った靴屋と、かつての大富豪との小さな繋がりを描きました。
人との縁は、時間が経っても消えるものではありません。
そして物語は再び、白い少女の存在へと近づいていきます。
次回もよろしくお願いいたします。




