第116話 風が運んできた一冊のノート
夕暮れの国道。
主人公の前に再び現れた白い少女は、何も語ることなく姿を消しました。
それでも、残された"何か"が、新たな物語の扉を開こうとしていました。
主人公はロードバイクを止め、少女が立っていた場所へ歩いていった。
辺りを見回しても、人影はない。
「……やっぱり、いないか。」
そう呟いた時だった。
風が足元を吹き抜け、一冊の古びたノートがカサリと音を立てた。
「ノート?」
道路脇の草むらに半分埋もれている。
主人公はしゃがみ込み、土を軽く払った。
茶色く色褪せた表紙。
角は擦り切れ、長い年月が経っていることが分かる。
持ち上げると、思ったより軽かった。
表紙を開こうとした、その瞬間。
「それを拾ったのかい?」
後ろから穏やかな声が聞こえた。
振り向くと、一人の老人が立っていた。
麦わら帽子を被り、ゆっくりと主人公へ近付いてくる。
「こんにちは。」
主人公は軽く頭を下げた。
老人はノートを見つめ、懐かしそうに目を細める。
「そのノートは、ずいぶん昔からこの辺りで探している人がいたんだ。」
「探している人?」
「ああ。でも結局、見つからなかった。」
主人公はノートを見つめた。
「誰の物なんですか?」
老人は首を横に振る。
「名前までは知らない。」
「ただ、その人はこう言っていた。」
『このノートには、人を幸せにする約束が書いてある。』
主人公は思わず息をのむ。
「人を……幸せにする約束。」
老人は静かに頷いた。
「だから私は、誰かが見つける日を待っていたのかもしれない。」
そう言うと、老人は穏やかに笑った。
「それは、君が持っていた方がいい気がする。」
主人公はゆっくりとノートを開く。
最初のページには、美しい文字が並んでいた。
『受け取った優しさは、いつか誰かへ渡してください。』
その一文を読んだ瞬間、主人公の胸が熱くなる。
「あの日の人も……。」
自然と黒糖飴へ手が伸びる。
優しさは、人から人へ渡される。
その言葉は、自分が歩んできた人生そのものだった。
さらにページをめくろうとした時、一枚の紙がはらりと落ちた。
拾い上げると、小さな押し花が挟まれている。
そして、その横には短い言葉。
『ありがとう。その一粒が、私を前へ進ませてくれました。』
主人公は言葉を失った。
誰が書いたのかは分からない。
それでも、このノートには多くの人の想いが詰まっている。
夕日が国道を赤く染めていく。
主人公はノートを大切にバッグへしまうと、ロードバイクへまたがった。
「この答え、きっと見つけてみせる。」
ペダルを踏み込む。
国道を吹き抜ける風は、まるで新しい旅の始まりを祝福しているようだった。
読んでいただき、ありがとうございました。
今回は、白い少女が残した新たな手掛かりとして「古いノート」が登場しました。
優しさは受け取るだけでなく、誰かへ渡していくもの。
この作品のテーマを、ノートという形で主人公へ届ける一話となりました。
次回もよろしくお願いいたします。




