第114話 受け継がれていく優しさ
誰かに受けた優しさは、そこで終わりではありません。
その優しさは、また別の誰かへ渡され、少しずつ広がっていきます。
今回は、そんな「優しさの連鎖」を描く一話です。
どうぞ最後までお楽しみください。
主人公は女の子の前まで歩み寄ると、優しく目線を合わせた。
「名前、聞いてもいいかな?」
「……美咲。」
小さな声だった。
「美咲ちゃんか。いい名前だね。」
美咲は少しだけ照れくさそうに笑う。
店主は壊れた運動靴を丁寧に調べていた。
「修理はできる。ただ少し時間が掛かるな。」
「……いくらですか?」
美咲は不安そうに尋ねた。
店主は少し考え込み、困ったような表情を浮かべる。
主人公はその様子を見て察した。
店主も商売だ。
無料で修理を続けていては店を守れない。
しかし、美咲には十分なお金がない。
静かな時間が流れる。
主人公はロードバイクに積んでいた小さなバッグを開き、一枚の封筒を取り出した。
「店主さん。」
「この修理代、俺が払います。」
店主は驚いた。
「いや、それはいけない。」
主人公は首を横に振る。
「昔、俺も誰かに助けてもらいました。」
「あの時の優しさがあったから、今の俺がいます。」
「だから今度は、俺が誰かを助けたいんです。」
店主は主人公をじっと見つめる。
やがて、静かに笑った。
「……なら半分だけもらおう。」
「え?」
「残りは、この店からのプレゼントだ。」
主人公も笑顔になった。
「ありがとうございます。」
美咲は状況が飲み込めず、二人を交互に見ていた。
「どうして……。」
主人公は優しく答える。
「困った時は、お互いさまだから。」
その言葉に、美咲の目から涙がこぼれた。
「ありがとう……ございます。」
店主は作業場へ向かい、新しい靴底を取り出す。
手際よく接着し、縫い直し、磨き上げる。
古びた店内に、革の香りが広がった。
三十分ほど経つ頃には、壊れていた靴は見違えるほど綺麗になっていた。
「ほら、履いてごらん。」
美咲は恐る恐る足を入れる。
「……すごい。」
何度も足踏みをする。
「歩きやすい!」
その笑顔を見た店主も主人公も、自然と笑顔になった。
「ありがとう!」
美咲は何度も頭を下げる。
帰り際、美咲は主人公へ振り返った。
「私、大きくなったら……。」
少し照れながら続ける。
「困ってる人を助ける人になります!」
主人公は思わず目を細めた。
「ああ、その約束、忘れないでね。」
美咲は力強く頷くと、修理された靴で元気よく走り出した。
その姿を見送りながら、店主がぽつりと呟く。
「君は不思議な青年だ。」
主人公は笑った。
「ただ、おせっかいなだけですよ。」
「いや。」
店主は静かに首を横に振る。
「人は優しさを受けても、それを返せるとは限らない。」
「でも君は、その優しさを次の誰かへ渡している。」
主人公は空を見上げる。
あの日、自分が受け取った黒糖飴。
あれもまた、一つの優しさだった。
その優しさは、今も自分の中で生き続けている。
そして今日、新しい優しさが、また一つ未来へと繋がったのだった。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
今回は、大きな事件ではなく、小さな優しさが誰かの未来を変える物語を描きました。
この作品のテーマである「人との出会いが人生を変える」を、これからも丁寧に描いていきます。
次回もよろしくお願いいたします。




