第113話 あの日の靴屋によく似た店
旅をしていると、不思議なことがあります。
初めて来たはずの場所なのに、どこか懐かしく感じること。
今回の出会いも、主人公にとって忘れられない一日になりそうです。
悠たちと別れた主人公は、ロードバイクをゆっくりと走らせていた。
「元気に帰れたみたいで良かったな。」
自然と笑みがこぼれる。
困っている人を助けたからではない。
悠が最後に見せた笑顔が、とても嬉しかったのだ。
そのまま国道を進んでいると、一軒の古びた靴屋が目に入った。
主人公は思わずブレーキをかける。
「……ここは。」
店構えこそ違う。
しかし、どこかあの日の靴屋を思い出させる雰囲気があった。
ロードバイクを降り、店の前に立つ。
年季の入った木製の看板。
少し色あせた暖簾。
ガラス越しには、丁寧に磨かれた革靴が並んでいる。
「入ってみるか。」
カラン。
ドアベルが静かに鳴った。
「いらっしゃい。」
店の奥から白髪の店主が顔を出す。
優しそうな笑顔だった。
主人公は店内を見渡しながら言った。
「いいお店ですね。」
「ありがとう。」
店主は照れくさそうに笑う。
「もう四十年以上、この場所で靴を売ってるんだ。」
主人公は一足の革靴を手に取った。
丁寧な縫製。
大切に作られていることが伝わってくる。
「全部、店主さんが?」
「ああ。一足ずつ心を込めてね。」
その言葉を聞いた瞬間、主人公の頭にあの日の出来事がよみがえった。
裸足だった、あの男性。
靴を探して歩いたこと。
そして、一足の靴が人の心を温かくしたこと。
「どうした?」
店主が不思議そうに尋ねる。
主人公は小さく首を振った。
「昔、大切な思い出があって。」
「靴には、人の人生を変える力があるんだなって思い出したんです。」
店主は静かに頷いた。
「その通りだよ。」
「靴はな、歩くためだけの物じゃない。」
「その人の人生を支える相棒なんだ。」
主人公は思わず笑った。
「ロードバイクも同じですね。」
「おっ、それは面白い。」
二人は顔を見合わせて笑った。
その時だった。
カラン、と再びドアベルが鳴る。
振り返ると、小学生くらいの女の子が一人立っていた。
少し汚れた運動靴。
俯いたまま、小さな声で言う。
「あの……。」
店主は優しく微笑んだ。
「どうした?」
女の子は履いていた靴を見つめる。
「底が……取れちゃって。」
見ると、靴底が大きく剥がれていた。
主人公は思わず女の子の足元を見る。
このままでは、まともに歩くことも難しい。
店主はしゃがみ込み、靴を手に取る。
「これは修理できそうだ。」
その言葉を聞いた女の子の表情が少し明るくなった。
しかし、次の瞬間。
「……でも。」
女の子はポケットを握りしめた。
「お金、あんまりなくて……。」
主人公は静かに息をのんだ。
あの日とは違う。
けれど、どこか似ている。
目の前には、困っている人がいる。
主人公は店主の方を見た。
店主もまた、何かを考えているようだった。
店内に流れる静かな空気。
その中で、主人公はゆっくりと一歩前へ踏み出した。
第4章では、派手な出来事よりも、一つひとつの出会いを大切に描いていきます。
今回は「あの日の靴屋」を思い出させる新たな靴屋が登場しました。
主人公がどんな選択をするのか、次回もぜひ見届けてください。




