第112話 悠が抱える小さな秘密
国道で出会った一人の少年。
主人公は、かつて自分が誰かに救われたように、今度は誰かに寄り添うことを選びました。
その小さな出会いが、新たな物語の始まりとなります。
「甘い……。」
悠は黒糖飴を口に入れると、小さく呟いた。
その表情から、少しだけ緊張が消えていく。
主人公は安心したように微笑んだ。
「少し落ち着いた?」
悠は小さく頷く。
しばらく二人は何も話さず、国道を走る車を眺めていた。
沈黙は不思議と苦ではなかった。
主人公は昔、自分に声を掛けてくれたあの男性のことを思い出していた。
無理に聞き出そうとはしなかった。
だからこそ、自分も同じようにしたかった。
数分後、悠がぽつりと口を開く。
「……お父さんとケンカした。」
主人公は何も言わず耳を傾ける。
「勉強しろって言われて……僕は絵を描くのが好きなのに……。」
悠は拳をぎゅっと握った。
「絵なんかじゃ将来食べていけないって……。」
主人公は静かに空を見上げた。
「俺もさ。」
悠が顔を上げる。
「昔、好きなことばかりして生きてた。」
「ロードバイクで旅をして、毎日知らない景色を見て。」
「周りからは、そんな生活で大丈夫なのかって言われたよ。」
悠は驚いたように主人公を見る。
「でもね。」
主人公は笑った。
「その旅があったから、大切な人たちと出会えた。」
「人生って、不思議なんだ。」
「遠回りだと思っていた道が、一番大事な道だったりする。」
悠は黙って話を聞いていた。
「だから、お父さんの言葉も間違いじゃない。」
「きっと悠のことが心配なんだ。」
「でも、悠の夢も間違いじゃない。」
「大事なのは、どっちかを捨てることじゃなくて、どっちも大切にする方法を探すことだと思う。」
悠の目に涙が浮かんだ。
「……そんなこと、考えたことなかった。」
主人公は優しく笑う。
「一人で悩むと、答えが見えなくなるからね。」
その時だった。
遠くから一人の男性が走ってくる姿が見えた。
「悠ーーっ!!」
息を切らしながら駆け寄ってきた男性は、悠の姿を見るなり力が抜けたようにその場へ座り込んだ。
「よかった……本当に、よかった……。」
その震える声を聞いた悠は、俯いた。
「……お父さん。」
男性は悠を強く抱きしめた。
「心配したんだぞ……。」
主人公は少し離れた場所で、その光景を静かに見守る。
怒ることより、まず無事を喜ぶ父親。
その姿を見て、主人公はどこか胸が温かくなった。
父親は主人公へ深く頭を下げる。
「ありがとうございました。本当に助かりました。」
主人公は首を横に振る。
「俺は何もしてません。」
「少しだけ、一緒にいただけです。」
その言葉に父親はもう一度頭を下げた。
悠は主人公の方へ振り返る。
「……ありがとう、お兄ちゃん。」
主人公は笑顔で手を振った。
「今度は笑顔で会おうな。」
悠も少し照れくさそうに笑った。
ロードバイクへまたがった主人公は、ゆっくりとペダルを踏み出す。
国道を吹き抜ける風は、どこか昨日よりも優しく感じられた。
読んでいただき、ありがとうございます。
第4章では、世界を揺るがす出来事ではなく、一人ひとりとの出会いを丁寧に描いていきます。
主人公が受け取ってきた優しさが、今度は誰かへ受け継がれていく物語です。
次回もよろしくお願いいたします。




