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5、国道で寝てたら人生終わったと思ったら始まった件 〜黒糖飴を奪い返したら大富豪に拾われた〜 第5章 原点回帰編  作者: Nao9999


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第155話 父の知らない二十年

普通の朝を過ごした親子。


それだけの時間が、二十年以上ぶりだった。


けれど拓海には、優斗が知らない二十年があり、優斗にも父が知らない二十年があった。


その空白を埋めるように、二人はゆっくり歩き続ける。

国道沿いの歩道を、二人並んで歩く。


ロードバイクのタイヤがアスファルトを転がる音だけが、静かに響いていた。


「優斗。」


拓海が口を開く。


「一つ聞いていいか。」


「いいよ。」


少し照れくさそうに笑う。


「彼女はできたか?」


優斗は吹き出した。


「いきなりそれ?」


「父親だからな。」


「残念ながら。」


肩をすくめる。


「独身。」


拓海は大げさに肩を落とした。


「そうかぁ。」


「その反応やめろ。」


二人で笑う。


少し間が空いた。


今度は優斗が聞く。


「父さん。」


「ん?」


「俺のこと。」


少し迷う。


「見てたの?」


拓海は空を見上げた。


「全部じゃない。」


「でも。」


「大事な時だけ。」


優斗は足を止めた。


「じゃあ。」


「俺が工場で働いたことも?」


「知ってる。」


「辞めたことも?」


「知ってる。」


「生活保護になったことも?」


拓海は静かに頷いた。


「知ってる。」


優斗は苦笑した。


「情けなかったろ。」


「いや。」


拓海は即答した。


「生きてた。」


その一言だけだった。


「それだけで十分だった。」


優斗は目を伏せる。


「俺さ。」


「何回も終わろうと思った。」


「知ってる。」


「でも。」


拓海は優斗の肩へ手を置く。


「何回も立ち上がった。」


「それを俺は見てた。」


優斗は涙をこらえながら笑った。


「見られてたのか。」


「親だからな。」


風が吹く。


白い花びらが一枚だけ舞った。


灯はいない。


それでも、どこか近くにいる気がした。


その時。


前から、小学生くらいの女の子が歩いてきた。


ランドセルを背負っている。


足元ばかり見ていた。


優斗は自然と道を空ける。


女の子はすれ違う直前、小さく頭を下げた。


「おはようございます。」


「おはよう。」


優斗も返す。


女の子は少し笑って走っていった。


拓海が横で呟く。


「変わったな。」


「俺?」


「昔のお前なら。」


「俯いて歩いてた。」


優斗は少し考える。


確かにそうだった。


人と目を合わせるのが怖かった。


挨拶なんてできなかった。


今は違う。


「母さんのおかげかな。」


「俺は。」


「みんなのおかげだと思う。」


拓海が嬉しそうに笑う。


「そう言えるなら。」


「もう大丈夫だ。」


しばらく歩くと、小さな公園が見えてきた。


ブランコ。


滑り台。


古い鉄棒。


「あ。」


優斗が立ち止まる。


「ここ。」


「覚えてる。」


拓海も笑った。


「やっと思い出したか。」


優斗はブランコへ近づく。


錆びた鎖を握る。


「俺。」


「ここで泣いた。」


「転んだからな。」


「違う。」


優斗は首を横へ振る。


「飛べなかった。」


拓海は思い出したように笑う。


「ああ。」


「紙飛行機。」


優斗は頷く。


「飛ばせなくて。」


「悔しくて泣いた。」


拓海はブランコへ腰掛けた。


「その時。」


「何て言ったか覚えてるか。」


優斗は少し考えた。


首を横へ振る。


拓海は空を見ながら話す。


「飛ばなくてもいい。」


「拾って。」


「もう一回飛ばせばいい。」


優斗は笑った。


「父さんらしい。」


「だろ。」


その時だった。


公園のベンチに、一冊のノートが置いてあることに気づく。


「忘れ物?」


優斗が近づく。


表紙には、子どもの字。


『ゆめノート』


中を開こうとした時。


「それ。」


後ろから声がした。


さっきの女の子だった。


息を切らしながら走ってきた。


「わたしの。」


「あ、ごめん。」


優斗はすぐに返す。


女の子は大事そうに抱きしめた。


「ありがとう。」


帰ろうとした、その時。


ノートから一枚の絵が落ちた。


優斗が拾う。


「これ。」


そこには。


大きな羽のある飛行機。


その横に、小さく書かれていた。


『しょうらいは、パイロット』


優斗は絵を見つめた。


少しだけ笑う。


「飛ぶんだな。」


女の子は力強く頷いた。


「うん!」


その返事を聞いた瞬間。


優斗は幼い頃の自分を見た気がした。


飛ばなかった紙飛行機。


それでも。


もう一回飛ばせばいい。


女の子が走っていく。


拓海が立ち上がる。


「優斗。」


「ん?」


「夢は変わってもいい。」


「でも。」


「歩くのだけはやめるな。」


優斗はロードバイクを握る。


「分かった。」


親子はまた歩き始める。


その背中を。


公園のブランコだけが、小さく揺れて見送っていた。

第155話、ありがとうございました。


今回は、父と息子が「失われた二十年」を少しずつ埋めていく時間を描きました。


特に、拓海の「生きてた。それだけで十分だった。」という言葉は、この作品全体のテーマでもあります。


そして、公園で出会った少女の“夢ノート”。


飛ばなかった紙飛行機の思い出が、今度は誰かの夢を応援する優斗へと繋がりました。


次回、第156話では、第4章「原点回帰編」を締めるための最後の伏線が動き始めます。

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