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5、国道で寝てたら人生終わったと思ったら始まった件 〜黒糖飴を奪い返したら大富豪に拾われた〜 第5章 原点回帰編  作者: Nao9999


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第154話 普通の朝が、一番難しかった

「家へ帰ろう。」


父・拓海が何気なく口にした、その一言。


二十年以上ぶりに並んで歩く親子にとって、“普通”は一番遠いものだった。


だからこそ、この朝の一歩一歩が、何より大切だった。

国道を吹き抜ける風は、少しだけ秋の匂いがした。


優斗はロードバイクを押しながら歩く。


その隣を、拓海がゆっくり歩いていた。


会話は少ない。


でも、不思議と気まずくはなかった。


「父さん。」


「ん?」


「腹減った。」


拓海が吹き出した。


「最初にそれか。」


「しょうがないだろ。」


優斗も笑う。


「昨日から何も食ってない。」


「俺もだ。」


親子で顔を見合わせる。


「じゃあ。」


拓海が国道の向こうを指差した。


「朝飯にしよう。」


そこには、小さな食堂があった。


色褪せた暖簾。


手書きの『朝定食』。


昔ながらの店だった。


「こんな店あったんだ。」


優斗が呟く。


拓海は懐かしそうに笑う。


「あった。」


「お前が小さい頃、一回来たぞ。」


「覚えてない。」


「だろうな。」


カラン。


引き戸を開ける。


店内には、味噌汁の匂いが広がっていた。


「いらっしゃい。」


白髪のおばあちゃんが顔を上げる。


一瞬。


箸を持つ手が止まった。


「……拓海ちゃん?」


拓海も目を丸くする。


「久美さん。」


おばあちゃんは目を潤ませた。


「生きとったんね。」


その一言で、店内が静かになった。


「ずっと。」


「帰ってこんけん。」


拓海は頭をかいた。


「長い昼寝してました。」


「馬鹿。」


久美さんは笑いながら涙を拭く。


「そんな昼寝あるもんか。」


優斗は、そのやり取りを見つめていた。


父にも。


帰る場所があった。


「この子。」


久美さんが優斗を見る。


「優斗か。」


「はい。」


「大きくなったねぇ。」


優斗は照れくさそうに笑う。


「初めまして。」


「違う違う。」


久美さんは首を振った。


「あんた、小さい頃。」


「ここで味噌汁ひっくり返した。」


店内に笑いが広がる。


「えぇ!?」


優斗が拓海を見る。


「本当?」


拓海は笑いを堪えながら頷く。


「熱くて泣いた。」


「それ先に言えよ!」


久美さんが厨房へ戻る。


「今日はサービス。」


「腹いっぱい食べな。」


しばらくして運ばれてきた。


焼き魚。


玉子焼き。


漬物。


湯気の立つ味噌汁。


白いご飯。


特別じゃない。


でも、優斗は箸を止めた。


「うまそう。」


拓海が笑う。


「冷めるぞ。」


「いただきます。」


親子で声が重なる。


その瞬間。


優斗は少しだけ驚いた。


こんな普通のことを。


父と一緒に言える日が来るなんて思っていなかった。


味噌汁を飲む。


「あっ。」


懐かしい味だった。


「これ。」


「母さんに似てる。」


久美さんが笑う。


「味噌を教えたんは私だからね。」


優斗は目を丸くした。


「そうだったのか。」


拓海が頷く。


「お母さん。」


「料理、最初は苦手だった。」


「嘘だ。」


「焦がしまくってた。」


「言うなって怒られてた。」


三人で笑う。


その笑い声を聞きながら。


教育係は店の外で空を見上げていた。


E-01が隣へ立つ。


「入らないんですか。」


教育係は肩をすくめる。


「親子の時間だ。」


E-01は店内を見つめる。


「優斗さん。」


少しだけ微笑む。


「いい顔してます。」


食事を終えた頃。


久美さんが小さな包みを持ってきた。


「これ。」


優斗へ差し出す。


「お母さんが預けてた。」


「え?」


開ける。


中には、小さな弁当箱だった。


木でできた、古い弁当箱。


蓋の裏に文字がある。


『困った時は、お腹いっぱい食べること。』


優斗は吹き出した。


「母さんらしい。」


拓海も笑う。


「本当に。」


久美さんが優しく言う。


「あの子ね。」


「最後まで。」


少し空を見る。


「優斗がお腹空かせてないか、そればっかり心配しとった。」


優斗は弁当箱を胸へ抱いた。


「ありがとう。」


店を出る。


暖簾が揺れる。


久美さんが手を振る。


「また来な。」


優斗も手を振り返した。


「今度は。」


少し笑う。


「味噌汁こぼさない。」


久美さんは大笑いした。


国道へ戻る。


朝日は、もう高くなっている。


拓海が歩きながら呟く。


「こういう朝が。」


「一番難しかった。」


優斗は頷く。


「でも。」


ロードバイクを軽く押す。


「今日からは。」


父を見る。


「何回でもやろう。」


拓海は嬉しそうに笑った。


「ああ。」


その時。


ロードバイクの前輪が、小さな石に乗り上げた。


カタン。


優斗は何気なく拾う。


ただの石だと思った。


でも。


裏返した瞬間。


そこには、小さく刻まれていた。


『第1話』


優斗は息を呑む。


「……え?」


拓海も石を見る。


そして静かに笑った。


「お母さん。」


「最後まで仕込んでたな。」


優斗は石を握り締める。


物語の始まりは。


まだ、本当に終わっていなかった。

第154話、ありがとうございました。


今回は、あえて大きな事件を起こさず、「父と息子が普通の朝を過ごす」という時間を丁寧に描きました。


味噌汁。


焼き魚。


昔の食堂。


母が預けていた弁当箱。


こうした何気ない日常こそ、この作品のテーマである「帰る場所」を形にしています。


そして最後に現れた『第1話』と刻まれた石。


ここから、第4章「原点回帰編」は、本当の締めへ向かっていきます。

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