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5、国道で寝てたら人生終わったと思ったら始まった件 〜黒糖飴を奪い返したら大富豪に拾われた〜 第5章 原点回帰編  作者: Nao9999


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第153話 約束を返しに来た人

「約束を返しに来たよ。」


国道で出会った老人が差し出した封筒。


そこに書かれていたのは、母の文字。


『優斗と拓海へ』


二十年以上、誰にも語られなかった約束。


それが今、親子の前で開かれようとしていた。

老人は封筒を持ったまま、優斗と拓海の前に立っていた。


風が吹く。


国道を走る車の音が、三人の間を通り過ぎていく。


拓海が老人を見る。


「……やっぱり、あなたか。」


老人は静かに頷いた。


「遅くなった。」


「遅すぎるよ。」


拓海の声は穏やかだった。


責めるような響きはない。


ただ、長い年月を思い出しているようだった。


優斗は二人を見る。


「知ってたんだな。」


老人は優斗へ視線を向けた。


「もちろん。」


「母さんとも。」


「長い付き合いだった。」


優斗は封筒を見つめる。


「これ……なんで今まで渡さなかった?」


老人は少しだけ黙った。


「渡せなかったんだ。」


「なぜ。」


「お母さんに言われていた。」


老人は封筒を胸元へ戻すことなく、そのまま優斗へ差し出した。


「あなたが、自分でここへ戻ってきた時に渡してほしいと。」


優斗は息を呑む。


まただ。


母はずっと先のことまで考えていた。


自分がいつかここへ戻ってくることを。


「開けていいのか?」


老人は笑った。


「それは、君たちのものだ。」


優斗は拓海を見る。


拓海も頷く。


「一緒に開けよう。」


封を切る。


中には、三枚の紙が入っていた。


一枚目には、母の字。


『優斗へ』


二枚目。


『拓海へ』


そして三枚目には。


『二人へ』


優斗は一枚目を手に取る。


『優斗へ』


『あなたがこの手紙を読んでいるということは、きっとお父さんと一緒にいるのでしょう。』


優斗の目が潤む。


『まず、謝ります。』


『私はあなたに、たくさんのことを隠しました。』


『でも、あなたを騙したかったわけではありません。』


『あなたに、普通に生きてほしかった。』


優斗は紙を握る。


『道標のことも。』


『お父さんのことも。』


『灯のことも。』


そこで、優斗の手が止まった。


灯。


母は、最初から灯の存在を知っていた。


『全部を知れば、あなたはきっと自分より誰かを優先してしまう。』


『だから私は、あなたを知らないまま生きてほしかった。』


『それでも、いつかあなたが自分で知りたいと思ったなら。』


『その時は、止めないであげて。』


優斗は小さく息を吐いた。


母は、自分が知ることそのものを恐れていたのではない。


自分が何を選ぶのかを心配していた。


そして。


紙の最後に、短い一文があった。


『あなたが誰かに黒糖飴を渡せる人になっていたら、私はもう十分です。』


優斗の目から涙がこぼれた。


「……なってたよ。」


小さく呟く。


「母さん。」


拓海が二枚目を開く。


『拓海へ』


そこには、短い文章が並んでいた。


『あなたには、ずっと苦労をさせました。』


拓海は苦笑する。


「相変わらずだな。」


『でも、後悔はしていません。』


『あなたが優斗を守ろうとしてくれたことを、私は知っています。』


拓海の表情が静かに変わる。


『あの日、あなたにお願いしたことを覚えていますか。』


『優斗を、生きて帰して。』


拓海の指が止まる。


その一文だけで、すべてが蘇ったようだった。


国道。


雨。


幼い優斗。


白い花。


別れ。


『あなたは約束を守ってくれました。』


『だから今度は、私の最後のお願いです。』


拓海は続きを読む。


『優斗と一緒に、普通の朝を見てください。』


「……普通の朝。」


拓海が呟く。


『特別な場所ではなくていい。』


『何かを守るために命を懸けなくてもいい。』


『ただ、朝になったら一緒に歩いてください。』


拓海は手紙を胸に当てた。


「そういうことだったのか。」


優斗が三枚目を見る。


『二人へ』


そこには、たった数行だけだった。


『この国道が、あなたたちの始まりなら。』


『ここを終わりにしないで。』


『ここから先を、生きてください。』


そして最後に。


『いつか二人で帰ってきた時、もう約束は必要ありません。』


優斗は顔を上げた。


「……約束は必要ない?」


拓海も同じ疑問を抱いていた。


老人が静かに言う。


「それが、私が今日ここへ来た理由だよ。」


「どういうこと?」


老人は国道の先を見る。


「私は、約束を守るために二十年以上待った。」


「でも。」


「約束を守ったからこそ、約束を返すことができる。」


優斗には、その意味がまだ分からなかった。


老人は手にしていた黒糖飴を一粒、優斗へ差し出す。


「最後の一つだ。」


優斗は受け取る。


「黒糖飴……。」


老人は笑う。


「それは、もう道標の鍵じゃない。」


「じゃあ、何?」


「ただのお菓子だよ。」


優斗は思わず笑った。


老人も笑った。


拓海も笑った。


灯が、その様子を見て笑っている。


ずっと張り詰めていたものが、少しずつほどけていく。


その時だった。


E-01が静かに声を上げた。


「優斗さん。」


「何?」


「道標の反応が変化しています。」


「まだ何かあるのか?」


「いいえ。」


一度だけ間を置く。


「反応が……消えていきます。」


優斗は国道を見る。


白い花びらが一枚。


また一枚。


風に乗って遠くへ流れていく。


灯の姿が少しずつ薄くなっていた。


「灯?」


優斗が駆け寄る。


灯は微笑んでいる。


「終わるの。」


「何が?」


「私の役目。」


優斗の胸が締め付けられる。


「じゃあ、灯は……。」


「大丈夫。」


灯は優斗の手を握る。


以前よりも、少しだけ温かい。


「もう道を案内しなくていい。」


「これからは。」


「自分で歩く。」


優斗は何も言えなかった。


灯は最後に、優斗の手へ黒糖飴を一粒返した。


「これは、あなたの。」


「……俺の?」


「うん。」


「どうして?」


灯は笑った。


「帰る道を忘れないように。」


白い光が灯の身体を包む。


優斗は手を伸ばす。


「灯!」


灯は最後まで笑っていた。


「またね。」


光が消える。


そこに残ったのは。


一枚の白い花びらだけだった。


優斗はそれを手のひらで受け止める。


泣かなかった。


寂しくないわけじゃない。


でも。


灯が最後に笑っていたから。


拓海が隣へ立つ。


「行こう。」


優斗は頷く。


「どこへ?」


拓海は国道の先を見る。


「決まってるだろ。」


そして。


「家へ帰ろう。」


その言葉を聞いた瞬間。


優斗は初めて気づいた。


ずっと探していた「帰る場所」は。


どこか一つの場所ではなかった。


一緒に歩いてくれる人がいる場所。


自分が誰かを思える場所。


そして。


自分自身が帰りたいと思える場所。


それが。


自分にとっての家だった。


優斗はロードバイクのハンドルを握る。


そして、父の隣を歩き始める。


国道の朝は、静かだった。


でも。


もう、何も怖くなかった。

第153話、ありがとうございました。


今回は、母が最後に残した「約束を返す」という意味が明らかになりました。


母が願っていたのは、優斗が特別な力を持つことではなく、父と一緒に「普通の朝」を歩くことでした。


そして、灯も長い役目を終え、自分自身の道を歩くために優斗の前から姿を消しました。


黒糖飴も、もう特別な鍵ではありません。


これからは、ただ誰かと分け合う優しさとして残っていきます。


物語は、いよいよ最後の帰還へ向かいます。

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