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5、国道で寝てたら人生終わったと思ったら始まった件 〜黒糖飴を奪い返したら大富豪に拾われた〜 第5章 原点回帰編  作者: Nao9999


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第145話 帰還者の資格

「それが、お前の資格だ。」


父・拓海の声とともに、眩い光が優斗を包み込んだ。


影帰りへ手を伸ばした、その選択。


それは力を得るためではなく、“誰かを帰したい”という願いだった。


道標が、優斗を試す最後の扉が開かれる。

光の中で、音が消えた。


身体の感覚も曖昧になる。


優斗は、自分が立っているのか浮いているのかも分からなかった。


「ここは……。」


目を開ける。


そこには、一面の夕焼けが広がっていた。


国道だった。


どこまでも続く一本道。


車は一台も走っていない。


風だけが吹いている。


「また国道……。」


懐かしい景色だった。


優斗は、この場所を知っていた。


夢で何度も見た景色だ。


「優斗。」


振り向く。


そこに立っていたのは、父・拓海だった。


今度は若い姿ではない。


アルバムより少し年を重ねた、本来の父の姿だった。


「父さん……。」


拓海は笑う。


「やっと会えたな。」


優斗は走り出した。


目の前まで行き、足を止める。


触れたい。


でも、消えてしまいそうで怖かった。


拓海が先に手を伸ばく。


優斗の肩へ置かれた手は、確かな温もりがあった。


「本物……。」


「少しだけな。」


拓海は苦笑する。


「時間は長くない。」


優斗は聞きたいことが山ほどあった。


「どうしていなくなった。」


「どうして俺を置いていった。」


「母さんは。」


「灯は。」


言葉が溢れる。


拓海は最後まで聞いていた。


そして静かに答える。


「全部、大事な質問だ。」


「でも。」


夕焼けの国道を見つめる。


「一番先に教えることがある。」


拓海は道路の中央へ歩いた。


そこには、一つの白線が伸びている。


「この線は。」


足元を指差す。


「人生だ。」


優斗も隣へ立つ。


「右へ逸れれば。」


拓海が続ける。


「後悔。」


「左へ逸れれば。」


「諦め。」


「じゃあ真ん中は?」


拓海は笑った。


「帰る道だ。」


その言葉を聞いた瞬間。


幼い頃の記憶が重なる。


『転んでもいい。』


『帰る道だけは忘れるな。』


父の声。


同じ言葉だった。


「父さん。」


優斗は拳を握る。


「俺は。」


喉が震える。


「本当に帰れたのか。」


拓海は優斗を見る。


少しだけ寂しそうな顔をした。


「まだ半分だ。」


「半分?」


「お前は生き返った。」


優斗の目が見開く。


「え?」


拓海は続ける。


「あの日。」


夕焼けが少し暗くなる。


「国道で眠っていた時。」


「お前は一度。」


静かに。


はっきりと言った。


「死んだ。」


優斗の呼吸が止まる。


世界が揺れる。


「……嘘だ。」


「嘘じゃない。」


拓海の目は真っ直ぐだった。


「心が死んだんじゃない。」


「本当に、一度止まった。」


優斗の足元が震える。


「じゃあ。」


「あの日。」


「俺は。」


拓海が頷く。


「道標が、お前を帰した。」


「父さんが。」


「俺も。」


「灯も。」


「お母さんも。」


少し笑う。


「みんなで、お前を押し戻した。」


優斗の涙が溢れた。


「そんな。」


「知らなかった。」


拓海は頭を撫でる。


「知らなくていいと思ってた。」


「でも。」


「ここまで来た。」


優斗は夕焼けを見上げた。


今までの出会い。


教育係。


E-01。


老人。


真琴。


蓮司。


灯。


全部が偶然じゃなかった。


「父さん。」


「うん。」


「帰還者って何なんだ。」


拓海は少し考える。


そして答えた。


「一度帰ってきた人間だ。」


「だから。」


「帰れなくなった人を。」


優斗が言葉を繋ぐ。


「帰せる。」


拓海は嬉しそうに笑った。


「正解だ。」


その瞬間。


夕焼けの空へ、一枚の白い花びらが舞った。


灯だった。


少し離れた場所で笑っている。


「時間だ。」


拓海が呟く。


「もう?」


「現実へ戻れ。」


優斗は首を振る。


「嫌だ。」


「やっと会えたのに。」


拓海は抱き寄せた。


初めて抱かれる父の腕。


温かかった。


「ありがとう。」


優斗が泣きながら言う。


「生きててくれて。」


拓海は目を閉じる。


「まだ。」


少しだけ笑う。


「終わってない。」


優斗は顔を上げた。


「え?」


拓海は夕焼けの向こうを指差した。


そこには、一人の影が立っていた。


黒い影。


人の形。


しかし。


さっきの影帰りとは違う。


禍々しいほど濃い黒。


拓海の表情が初めて険しくなる。


「あいつが。」


低い声だった。


「約束を壊した。」


優斗が振り返る。


「誰だ。」


黒い影が一歩踏み出す。


その瞬間。


夕焼けの国道へ、ヒビが入った。


パリン。


世界が割れる。


拓海が優斗の背中を押す。


「帰れ!」


「父さん!」


「次は。」


拓海が最後に笑った。


「一緒に歩こう。」


その言葉と共に。


優斗の身体は白い光へ飲み込まれた。


目を開ける。


地下だった。


教育係が肩を揺する。


「優斗!」


E-01が安堵する。


「意識回復。」


蓮司が息を吐いた。


「戻ったか。」


優斗は胸へ手を当てた。


父の温もりが残っている。


夢じゃない。


その時だった。


カプセルの中で眠る拓海の瞼が、ゆっくりと震えた。

第145話、ありがとうございました。


今回は、優斗が初めて父・拓海と真正面から向き合う回になりました。


「あの日、一度死んでいた。」


その真実によって、帰還者という言葉の意味が明らかになります。


帰還者とは、一度帰ってきた人間。


だからこそ、帰れなくなった人を帰せる存在でした。


そして最後に現れた、“約束を壊した”黒い影。


物語は家族の再会だけではなく、道標そのものを脅かす存在との戦いへと動き始めます。


さらに現実では、拓海の瞼が動き始めました。


次回、第146話では、父の目覚めと黒い影の正体へ迫っていきます。

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