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5、国道で寝てたら人生終わったと思ったら始まった件 〜黒糖飴を奪い返したら大富豪に拾われた〜 第5章 原点回帰編  作者: Nao9999


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第134話 母と老人、あの日の写真

前書き


一枚の写真。


そこに写っていたのは、若き日の母と、あの老人だった。


母が最後に出会った老人だと思っていた。


しかし――。


二人は、もっとずっと前から知り合っていた。


そして写真の裏には、優斗が知らなかった「あの日」の日付が残されていた。


母が隠していた過去。


その扉が、今ゆっくりと開き始める。

本文


優斗は、写真から目を離せなかった。


写真の中の母は、今まで見たどの写真よりも若かった。


笑っている。


それも、作った笑顔ではない。


心から笑っているように見えた。


その隣に立っている老人も、今とはまるで違う。


背筋は伸びている。


髪も黒い。


そして何より――。


二人の距離が近かった。


「……知り合いだったんだ」


優斗の声が小さく響く。


教育係は写真を覗き込んだ。


「かなり親しいように見えるな」


「うん……」


優斗は写真を裏返した。


そこには日付が書かれていた。


――二〇〇〇年五月十二日。


そして、その下に短い文章。


『約束の日』


「約束の日……」


優斗は、その言葉を指でなぞった。


「この日が……二人目の約束?」


E-01が写真を解析する。


「写真の撮影日時と記載された日付は一致する可能性が高いです」


「じゃあ、この日に母さんとこの人が何かを約束した?」


「その可能性があります」


優斗は写真を見つめた。


しかし。


何かがおかしい。


写真の中には、母と老人しかいない。


子供はいない。


自分もいない。


なら――。


この約束は、いったい誰のためのものだったのか。


「……俺じゃない?」


優斗が呟いた。


その瞬間。


老人の言葉が蘇った。


『あなたのお母さんは、最後まで約束を忘れませんでした』


優斗は息を呑む。


「……最後まで?」


あの老人は確かにそう言った。


最後まで。


つまり。


母は、その約束を死ぬまで覚えていた。


優斗は再び写真を裏返した。


文章の下に、まだ何かある。


薄い。


ほとんど消えている。


E-01が光を当てる。


すると。


もう一つの文字が浮かび上がった。


『子供が大きくなったら――』


優斗の顔が固まった。


「……子供?」


続きは、かすれて読めない。


E-01が解析を続ける。


数秒。


十秒。


そして。


「一部だけ復元できます」


「読んでくれ」


「はい」


E-01は静かに読み上げた。


「『子供が大きくなったら、国道へ――』」


そこで途切れていた。


優斗は目を閉じた。


国道。


また国道だ。


自分が人生の終わりだと思って眠っていた場所。


そして。


人生が始まった場所。


そこへ。


母は、いつか自分を向かわせるつもりだった。


「……なんで?」


誰に聞くわけでもなく、優斗は呟いた。


「なんで母さんは、俺を国道へ行かせたかったんだ?」


答えはない。


ただ、静かな部屋に風が入り込んだ。


古い窓が、カタカタと揺れる。


その時。


白い少女が写真を指差した。


「……?」


少女が指していたのは、母でも老人でもなかった。


写真の背景。


二人の後ろにある建物だった。


優斗は写真を目の前まで近づける。


「これ……」


見覚えがある。


古い建物。


入口に、小さな看板。


――ひだまり。


「ここ……さっきの場所じゃない」


教育係が写真と室内を見比べた。


「確かに違う」


E-01が写真を解析する。


「現在地とは一致しません」


優斗は考え込んだ。


同じ名前。


別の場所。


「ひだまりって、一つじゃないのか?」


「可能性があります」


その瞬間。


建物の奥から、物音がした。


――コトン。


全員が振り返る。


「またか……」


優斗が立ち上がる。


奥には、閉ざされた扉があった。


さっきまでは気づかなかった。


古い木製の扉。


その中央に、小さな文字が刻まれている。


『関係者以外立入禁止』


優斗は扉に近づいた。


「ここにも何かある」


E-01が確認する。


「鍵はかかっていません」


「じゃあ……」


優斗はゆっくりとノブに手を掛けた。


その瞬間。


――ガチャ。


扉の向こうから、声がした。


「……来ると思っていた」


優斗の手が止まった。


教育係が一歩前に出る。


「誰だ?」


返事はない。


もう一度。


今度は、はっきり聞こえた。


「その黒糖飴を持ってきたんだね」


優斗の心臓が跳ねた。


「……黒糖飴?」


声の主は続けた。


「それなら、ようやく始められる」


優斗は扉を見つめる。


「誰なんだ、あんた」


しばらく沈黙が続いた。


そして。


扉の向こうから返ってきた言葉に。


優斗は凍りついた。


「私は――君のお母さんから、君を預かった人だ」


「……え?」


「正確には」


声が少しだけ震えた。


「君が、いつかここへ戻ってくるまで待つように頼まれた」


優斗は何も言えなかった。


母は。


自分がここへ来ることを知っていた。


いや。


知っていただけではない。


待っている人まで残していた。


優斗はゆっくりと扉を開ける。


ギィィ……。


薄暗い部屋。


そこに一人の女性が座っていた。


白髪。


穏やかな表情。


そして。


その女性が首から下げていたものを見た瞬間。


優斗は息を呑んだ。


黒糖飴を入れるための、小さな古い巾着袋。


母が使っていたものと、同じだった。


「……それ」


女性は静かに微笑んだ。


「知っているのね」


優斗は頷いた。


「母の……」


「そう」


女性は巾着袋を握った。


「これは、あなたのお母さんから預かったもの」


そして。


もう一つの言葉を付け加えた。


「あなたがここへ来たら、渡してほしいと言われていた」


優斗の視線が、その巾着袋に吸い寄せられる。


女性はそれを差し出した。


「中を見て」


優斗は震える手で受け取った。


巾着袋を開く。


中に入っていたのは――。


黒糖飴ではなかった。


小さな鍵だった。


そして。


鍵には一枚の紙が結びつけられていた。


そこに書かれていたのは。


たった一言。


――国道の下。


優斗は顔を上げた。


「……国道の下?」


女性は静かに頷いた。


「あなたのお母さんが、本当に守りたかったものは」


少しだけ間を置いて。


こう続けた。


「国道の上にはないの」


「……」


「その下にある」


優斗は、手の中の鍵を強く握りしめた。


あの日。


自分が眠っていた国道。


その下に――。


母が残した最後の秘密が眠っている。

後書き


第134話、ありがとうございました。


今回は、母と老人が昔から知り合っていたことが明らかになり、さらに「約束の日」という新しい謎が出てきました。


そして、母が優斗を国道へ向かわせようとしていた可能性。


最後には、母から優斗を預かったという女性まで登場しました。


そして渡されたのは――黒糖飴ではなく、一つの鍵。


その鍵が示す場所は、


「国道の下」


でした。


優斗が人生の終わりだと思って眠っていた、あの日の国道。


実はその場所には、優斗自身も知らなかった秘密が眠っていた。


ここから「原点回帰編」は、物語の始まりだった国道そのものへと深く入っていきます。

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