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5、国道で寝てたら人生終わったと思ったら始まった件 〜黒糖飴を奪い返したら大富豪に拾われた〜 第5章 原点回帰編  作者: Nao9999


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第130話 ひだまりで交わされた約束

母が黒糖飴を配り始めた理由を知った主人公。


しかし、母が残したアルバムには、まだ続きがあった。


そこに記されていたのは、母と大富豪が「ひだまり」で交わした、ある約束。


その約束は、今の主人公へと繋がっていた。

写真館を出た主人公は、しばらく商店街を歩いていた。


手には、母が残したアルバム。


胸ポケットには、あの一粒の黒糖飴。


そして、もう一つ。


母が残した言葉。


『次は、あなたが渡す番。』


主人公は空を見上げた。


雲の隙間から、青空が見えている。


「……ひだまり、か。」


母と大富豪が出会った場所。


そして、黒糖飴を配り始めるきっかけになった場所。


まだ知らないことがある。


主人公はそう感じていた。


ロードバイクのところへ戻る。


ハンドルを握った。


けれど、すぐには走り出さなかった。


「もう一度、行ってみるか。」


目的地は決まった。


児童支援施設「ひだまり」。


主人公はペダルを踏み込んだ。


国道を進む。


しばらくすると、見覚えのある道へ入った。


以前、この道を走った時とは違う感覚があった。


あの頃は、母の過去を知りたいと思っていた。


今は違う。


母が何を残したかったのか。


その意味を知りたい。


ただ、それだけだった。


やがて、古い建物が見えてきた。


『ひだまり』


小さな看板。


以前訪れた時と変わらない。


主人公は自転車を止めた。


門を開ける。


「こんにちは。」


声を掛けると、施設の女性が出てきた。


「あら……。」


女性は主人公を見ると、少し驚いた顔をした。


「また来たのね。」


「はい。」


主人公はアルバムを見せた。


「これ、写真館の店主さんから見せてもらいました。」


女性はアルバムを見る。


そして、静かに微笑んだ。


「……そう。」


「何か知っているんですか?」


女性はすぐには答えなかった。


「あなたのお母さんはね。」


少し間を置いてから、話し始める。


「ここへ来るたびに、子どもたちへ黒糖飴を配っていたの。」


「それは聞きました。」


「でも、それだけじゃないのよ。」


女性は施設の中へ案内した。


廊下には、子どもたちが描いた絵が飾られている。


昔のものもあれば、最近のものもある。


「ここに来た子どもたちは、みんな何かを抱えているの。」


「……。」


「家族のこと。」


「学校のこと。」


「自分のこと。」


「大人には言えないことも、たくさんある。」


女性は一枚の絵の前で立ち止まった。


そこには、青い空と大きな木が描かれていた。


「だから、お母さんは無理に話を聞こうとはしなかった。」


主人公は母の姿を想像した。


ただ隣に座る。


黒糖飴を一粒渡す。


それだけ。


「母らしいですね。」


「ええ。」


女性は笑った。


「でもね。」


「ある日だけは、違った。」


主人公が顔を上げる。


「何があったんですか?」


女性は奥の部屋へ向かった。


そして、古い木箱を取り出した。


「これ。」


蓋を開ける。


中には、何冊かのノートと古い手紙。


主人公はその中の一冊に目を止めた。


『約束のノート』


以前見たものとは違う。


表紙が古い。


かなり年季が入っている。


「これは……?」


「最初の一冊よ。」


主人公は息を呑んだ。


「最初?」


女性は頷いた。


「今まで何冊も受け継がれてきたけれど、これは一番最初のもの。」


主人公はゆっくりと手に取った。


表紙を開く。


最初のページ。


そこには、母の字があった。


『約束。』


その下に、短い文章。


『誰かからもらった優しさを、自分のところで終わらせないこと。』


主人公は指で文字をなぞった。


「……母さん。」


ページをめくる。


その次のページには、別の筆跡があった。


『私も、誰かを助けられる人になりたい。』


子どもの字。


さらに次。


『大人になったら、困っている人に靴をあげたい。』


主人公は思わず笑った。


「靴……。」


以前の靴屋で聞いた話を思い出す。


優しさは、ずっと昔から繋がっていた。


そして次のページ。


そこには、見覚えのある名前が書かれていた。


大富豪の名前。


主人公は驚いた。


「これ……。」


女性が静かに頷く。


「彼も、このノートに書いたのよ。」


「大富豪さんが?」


「まだ若かった頃ね。」


主人公は文章を読む。


『いつか、自分が誰かを助けられるくらい強くなったら、この場所を守りたい。』


その下に日付があった。


かなり昔の日付だった。


「だから……。」


主人公は呟く。


「今も、ひだまりを支援してるんですね。」


「そう。」


女性は微笑んだ。


「でも、本人はずっと名前を出すなと言っていたわ。」


主人公は少し笑った。


「あの人らしい。」


すると女性が、別のページを開いた。


「そして、これ。」


そこには母の字。


『あの人と約束しました。』


主人公は読む。


『お互いに、できることを続けよう。』


『私たちが直接すべての人を助けることはできない。』


『だから、目の前にいる一人を大切にする。』


『それを繰り返していけばいい。』


主人公は黙っていた。


それは、今の自分が生きている考え方と同じだった。


母が始めた。


大富豪も続けた。


施設の子どもたちも受け取った。


そして――


自分へ繋がった。


「……俺も、同じことをしてる。」


女性は優しく笑った。


「そうね。」


「でも、俺は母さんみたいに何かできるわけじゃない。」


「そんなことないわ。」


主人公は顔を上げる。


「あなたは、もうたくさんの人に何かを渡しているでしょう?」


主人公は答えられなかった。


悠。


美咲。


雨宿りをしていた少年。


これまで旅の途中で出会った人たち。


自分では大したことをしたつもりはない。


話を聞いただけ。


少し手を貸しただけ。


それでも、相手の人生の中に何かが残っているのかもしれない。


女性はノートを閉じた。


「あなたのお母さんはね、最後に一つだけ言っていた。」


「何て?」


女性は主人公を見る。


「いつか、この子がここへ来るかもしれない。」


「その時は、何も教えなくていい。」


主人公の目が大きくなる。


「……何も?」


「ええ。」


「本人が、自分で見つけるからって。」


主人公はしばらく黙っていた。


母は、答えを残していた。


でも、答えそのものを押しつけなかった。


それは主人公の生き方そのものだった。


自分で出会い。


自分で感じ。


自分で答えを見つける。


主人公はノートを見つめた。


その時だった。


廊下の向こうから、小さな声が聞こえた。


「こんにちは。」


振り返る。


そこには、小さな女の子が立っていた。


主人公を見つめている。


そして、その手には――


黒糖飴。


主人公は驚いた。


「それ……。」


女の子は笑った。


「もらったの。」


「誰から?」


女の子は首を傾げる。


「知らないおばちゃん。」


主人公の胸がざわついた。


施設の女性も不思議そうな顔をする。


「今、この施設には私とあなたしかいないはずだけど……。」


女の子は廊下の先を見る。


「さっき、白い服のお姉ちゃんがいたよ。」


主人公は振り返った。


誰もいない。


けれど――


床には白い花びらが一枚落ちていた。


主人公はゆっくり拾い上げる。


そして、女の子を見る。


「その飴……大切にしてね。」


「うん。」


女の子は笑った。


主人公も笑う。


その瞬間、胸の奥に何かが温かく広がった。


母が始めたこと。


大富豪が続けたこと。


そして、今、自分が受け継いでいること。


優しさは、誰か一人のものではない。


人から人へ。


世代から世代へ。


そうやって続いていく。


主人公はロードバイクのところへ戻った。


そして、ポケットから黒糖飴を一粒取り出す。


「……次は、誰に渡そうかな。」


そう呟いた。


国道の先には、まだ見知らぬ人たちがいる。


その誰かが、今、困っているかもしれない。


寂しがっているかもしれない。


何かを諦めようとしているかもしれない。


主人公はペダルに足を掛けた。


「行くか。」


ロードバイクが走り出す。


背中を押すように、風が吹いた。


そして主人公は知らなかった。


この先で出会う一人の老人が――


母が最後に黒糖飴を渡した人物だということを。

今回も読んでいただき、ありがとうございました。


今回は「約束のノート」の最初の一冊を登場させました。


母と大富豪が、昔から同じ想いを持っていたこと。


そして、


「目の前にいる一人を大切にする」


という考え方が、主人公へ受け継がれていたことが分かりました。


優しさは、特別な人だけが持っているものではありません。


小さな行動でも、それを受け取った人が次の誰かへ渡せば、どんどん広がっていく。


それこそが、この物語の大切な部分です。


そして最後に、次の出会いを少しだけ。


母が最後に黒糖飴を渡した人物とは、一体誰なのか。


次回、その人物との出会いが始まります。

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