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5、国道で寝てたら人生終わったと思ったら始まった件 〜黒糖飴を奪い返したら大富豪に拾われた〜 第5章 原点回帰編  作者: Nao9999


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第127話 雨宿りの少年

旅を続ける主人公の前に、突然の雨が降り始める。


雨宿りをするために立ち寄った小さなバス停。


そこには、ずぶ濡れになりながら一人で座っている少年がいた。


主人公は、その少年が握りしめている一枚の紙に目を止める。

空が暗くなってきた。


さっきまで夕焼けが見えていたはずなのに、いつの間にか厚い雲が空を覆っている。


主人公はペダルを踏む速度を少し上げた。


「これは……降るな。」


遠くで雷が鳴った。


その直後だった。


ぽつ。


頬に雨粒が落ちる。


「やっぱりか。」


ぽつ、ぽつ。


雨粒は次第に増えていく。


主人公は周囲を見回した。


すると少し先に、小さなバス停が見えた。


屋根付きの古いバス停だ。


「助かった。」


主人公はロードバイクを押して、バス停へ駆け込んだ。


雨は一気に強くなった。


屋根を叩く雨音が、周囲の音を全部かき消していく。


主人公は濡れた髪を手で払った。


「すごい雨だな……。」


その時だった。


バス停の奥に誰かがいることに気付いた。


少年だった。


中学生くらいだろうか。


濡れた制服。


泥のついた靴。


そして、両手で一枚の紙を握りしめている。


主人公は少し離れた場所に座った。


いきなり話しかけるのもどうかと思ったからだ。


しばらく雨音だけが続く。


少年は紙を見つめている。


時々、紙を握る手に力が入る。


主人公は横目で見る。


どうやら紙には何かが書かれているらしい。


「……大丈夫?」


少年の肩が少し動いた。


「はい。」


小さな声だった。


「雨、すごいね。」


「……はい。」


それ以上、少年は話さなかった。


主人公も無理には聞かなかった。


ただ隣に座っている。


それだけにした。


しばらくすると、少年がぽつりと言った。


「……これ。」


主人公が見る。


少年は握っていた紙を少しだけ開いた。


そこには、学校の作文用紙があった。


題名は、


『将来の夢』


と書かれている。


「作文?」


「はい。」


「書き終わったんだ?」


少年は首を横に振った。


「……書けません。」


主人公は紙を見る。


最初の一行だけが書かれていた。


『僕の将来の夢は――』


そこから先は、何もない。


「夢、ないの?」


「……あります。」


少年は答えた。


「じゃあ、書けばいいんじゃない?」


「書いたら……笑われます。」


主人公は黙った。


「誰に?」


「クラスの人とか……先生とか。」


「先生も?」


「先生は笑わないと思います。」


少年は俯いた。


「でも……現実的じゃないって言われると思う。」


主人公は少年の手元を見る。


作文用紙には、まだ何も書かれていない。


「どんな夢なの?」


少年はしばらく黙っていた。


やがて、小さな声で言った。


「……漫画家。」


主人公は思わず笑顔になった。


「いいじゃん。」


少年が顔を上げる。


「……笑わないんですか?」


「なんで笑うの?」


「だって……。」


「漫画家になりたいって、いい夢だと思うけど。」


少年は困ったような顔をした。


「でも、なれるか分からない。」


「そりゃ、分からないよ。」


「……。」


「俺だって、ロードバイクで旅をしてるけど、この先どうなるかなんて分からない。」


少年が主人公の自転車を見る。


「ずっと旅するんですか?」


「分からない。」


「じゃあ、何でやってるんですか?」


主人公は少し考えた。


「やりたかったから。」


少年は黙って聞いている。


「できるかどうかを考えてたら、たぶん俺は一度も旅に出てないと思う。」


「……。」


「やってみて、駄目だったら、その時考えればいい。」


少年は作文用紙を見る。


「でも……夢を諦めた方がいいって言われたら?」


主人公は少し笑った。


「それを決めるのは、君じゃないの?」


少年が顔を上げる。


「……僕?」


「うん。」


「でも、大人は……。」


「大人だって、全部正しいわけじゃないよ。」


主人公は雨の向こうを見る。


「俺も昔、いろんな人に心配された。」


「旅なんてやめた方がいい。」


「危ない。」


「将来どうするんだ。」


「何度も言われた。」


少年が少しだけ笑った。


「それでも旅したんですか?」


「した。」


「後悔してます?」


主人公は少し考えた。


そして、首を横に振った。


「してない。」


「だって、この旅をしたから、たくさんの人に出会えたから。」


主人公の胸ポケットに触れる。


そこには黒糖飴が入っている。


「人生って、やってみないと分からないことが多いんだよ。」


少年はしばらく黙っていた。


やがて、作文用紙を机の上に置く。


鉛筆を取り出す。


そして、最初の一行の続きを書き始めた。


主人公は何も言わずに見守った。


カリカリ。


鉛筆の音が、雨音の中に小さく響く。


やがて少年が顔を上げた。


「……書けました。」


「見せて。」


少年は恥ずかしそうに紙を差し出した。


そこには――。


『僕の将来の夢は、漫画家になることです。』


と書かれていた。


主人公は笑った。


「いいじゃん。」


少年も笑った。


その瞬間。


雨が少し弱くなった。


主人公は空を見る。


「そろそろ行くかな。」


ロードバイクを立てる。


少年が言った。


「お兄さん。」


「ん?」


「ありがとうございました。」


「何もしてないよ。」


「話を聞いてくれました。」


主人公は少し照れた。


「それくらいなら、いつでも。」


少年は作文用紙を大切そうにしまった。


主人公もロードバイクにまたがる。


「じゃあな。」


「はい!」


主人公はバス停を出た。


雨上がりの国道を走る。


しばらくして、ふと後ろを見る。


少年はまだバス停に立っていた。


そして、何度も頭を下げている。


主人公は小さく手を振った。


再び前を向く。


その時だった。


ハンドルの前に、白い花びらが一枚落ちてきた。


主人公は驚いた。


雨が降っていたのに、その花びらには水滴がほとんど付いていない。


「……またか。」


主人公は花びらを拾う。


そして、その先を見る。


国道の歩道。


そこに白い少女が立っていた。


少女は主人公を見る。


そして、少年がいるバス停の方へ振り返った。


主人公も後ろを見る。


もう一度、少女を見る。


少女は静かに微笑んだ。


「……そういうことか。」


主人公は気付いた。


白い少女は、自分を答えへ連れていく存在ではない。


誰かの人生を変えるのは、いつだって自分自身だ。


少女はただ――


その出会いを見つけるために、少しだけ道を示している。


「ありがとう。」


主人公がそう言うと、少女は風に溶けるように消えた。


主人公はロードバイクを走らせる。


雨上がりの国道には、水たまりがいくつも残っている。


その一つ一つが、夕暮れの空を映していた。


そして主人公は思う。


自分が受け取った優しさも。


今日、少年へ渡した言葉も。


きっといつか、別の誰かへ繋がっていく。


だから旅は終わらない。


誰かと出会うたびに、また次の誰かへ繋がっていく。


主人公はペダルを踏み込んだ。


国道の先には、まだ見たことのない景色が待っている。


その先へ向かって――


主人公は走り続けた。

今回も読んでいただき、ありがとうございました。


今回は、雨宿りをしていた少年との出会いでした。


夢を叶えられるかどうかは、誰にも分かりません。


それでも「やってみたい」と思った気持ちまで、誰かに否定される必要はない。


主人公が少年へ渡したのは、大きな何かではありません。


ただ、話を聞いて、背中を少し押しただけ。


でも、その小さな優しさが、少年の未来を変えるかもしれません。


そして今回、白い少女の役割についても、少しだけ見え方が変わってきました。


彼女は主人公を救う存在なのか。


それとも――出会うべき人へ導く存在なのか。


まだ答えは出しません。


主人公の旅は、まだ続きます。

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