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5、国道で寝てたら人生終わったと思ったら始まった件 〜黒糖飴を奪い返したら大富豪に拾われた〜 第5章 原点回帰編  作者: Nao9999


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第126話 母が残したもう一通の手紙

母が残した、もう一通の封筒。


そこに書かれていたのは、主人公がこれまで知らなかった母の想いだった。


そして、その手紙は「優しく生きること」だけではなく、「自分自身の人生を生きること」を主人公へ伝えようとしていた。

夕暮れの国道を走りながら、主人公は何度も胸ポケットへ手を伸ばしていた。


指先に触れるのは、母が残した一通の封筒。


『あなたが、本当に自分の旅を始めた時に。』


そう書かれていた。


母は、いつから自分が旅に出ることを知っていたのだろう。


そんな疑問が、頭から離れなかった。


ロードバイクを止める。


国道沿いに、小さな休憩所があった。


木製のベンチに腰を下ろす。


周囲には誰もいない。


聞こえるのは、遠くを走る車の音と風の音だけだった。


主人公は封筒を取り出した。


「……開けるか。」


少しだけ迷ってから、封を切る。


中には、一枚の便箋。


そして、もう一つ。


小さな写真が入っていた。


主人公はまず写真を手に取る。


そこには、幼い頃の自分が写っていた。


母と二人で、国道沿いのベンチに座っている。


主人公の手には黒糖飴。


母は笑っていた。


「こんな写真……あったんだ。」


記憶には残っていない。


けれど、その風景を見ていると胸の奥が温かくなる。


写真の裏には、母の字で短い言葉が書かれていた。


『この子がいつか、自分の道を見つけますように。』


主人公は写真を裏返したまま、しばらく動けなかった。


やがて、便箋を開く。


『あなたへ。』


たった四文字。


それだけで、胸が詰まった。


『この手紙を読んでいるあなたは、もう私が知っている小さな男の子ではないのでしょうね。』


主人公は苦笑する。


「そりゃ……そうだよ。」


誰もいない休憩所で、思わず声が出た。


『あなたは昔から、困っている人を見ると放っておけない子でした。』


『でも、それを私は何度も心配していました。』


主人公の手が止まる。


『優しいことは、とても素敵なことです。』


『でも、優しい人ほど、自分のことを後回しにしてしまうから。』


主人公は静かに息を吐いた。


母には、全部見透かされていたのかもしれない。


『だから、一つだけ約束してください。』


次の文章を読む。


『誰かを幸せにするために、自分を不幸にしないこと。』


主人公は目を閉じた。


風が頬を撫でる。


母の声が聞こえたような気がした。


『あなた自身が幸せになってください。』


『笑ってください。』


『好きな場所へ行ってください。』


『好きな人と出会ってください。』


『そして、あなたが幸せな時に、もし目の前で困っている人がいたら、その人に少しだけ優しさを分けてあげてください。』


主人公は便箋を握りしめる。


「……母さん。」


涙が一滴、紙の上に落ちた。


『それで十分です。』


『それ以上、何かを背負わなくていい。』


『あなたは、あなたの人生を歩いてください。』


最後の一文。


『黒糖飴は、誰かを救う魔法ではありません。』


『ただ、ほんの少し心を甘くするものです。』


主人公は胸ポケットから黒糖飴を取り出した。


見慣れた包み。


ずっと大切にしてきた。


けれど今まで、自分はこの飴を「母との思い出」としてしか見ていなかったのかもしれない。


母が伝えたかったのは、飴そのものではない。


その先にあるものだった。


主人公は包みを見つめる。


「……少しだけ、分かった気がする。」


その時だった。


風が止まった。


あれほど吹いていた風が、突然ぴたりと止まる。


国道を走る車の音だけが、妙にはっきり聞こえた。


主人公は顔を上げる。


道路の向こう側。


白いワンピースの少女が立っていた。


いつものように、何も言わない。


ただ主人公を見つめている。


「また来たのか。」


少女は答えない。


けれど今日は、いつもと違った。


少女は自分の胸元に手を当て、それから主人公の胸ポケットを指差した。


主人公は黒糖飴を見る。


そして、少女へ視線を戻す。


「これ?」


少女が小さくうなずく。


主人公は少し考えた。


そして黒糖飴を一粒、包みから取り出した。


「……いる?」


少女は微笑んだ。


主人公が手を差し出す。


しかし――。


少女の姿が、ゆっくりと透け始めた。


「え?」


風が吹く。


白いワンピースが揺れる。


少女は消えていく直前、初めて口を開いた。


「……つぎへ。」


主人公の目が大きく開く。


「え?」


その声を最後に、少女の姿は風の中へ消えた。


残されたのは、静かな国道だけ。


主人公はしばらく立ち尽くしていた。


そして、手の中の黒糖飴を見る。


「次へ……か。」


母の手紙。


白い少女。


黒糖飴。


どれも、同じ方向を指している気がした。


主人公はロードバイクへ戻る。


そして、ペダルに足を掛けた。


もう一度、国道の先を見る。


「じゃあ……行くか。」


走り出す。


今度は、答えを探すためだけではない。


自分の人生を歩くために。


誰かのためだけでもない。


自分自身のためにも。


国道の先には、夜へ向かう空が広がっていた。


その空の下で――。


主人公の旅は、また少しだけ新しい形へ変わり始めていた。

第126話を読んでいただき、ありがとうございました。


今回は、母が主人公へ最後に伝えたかった「自分自身の人生を大切にする」という想いを描きました。


優しい人だからこそ、誰かのために自分を犠牲にしてしまうことがあります。


だから母は、主人公に「自分も幸せになっていい」と伝えたかったのだと思います。


そして、白い少女が初めて言葉を発しました。


「……つぎへ。」


この一言が何を意味するのか。


主人公は次に、誰と出会うのでしょうか。


まだ旅は続きます。

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