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5、国道で寝てたら人生終わったと思ったら始まった件 〜黒糖飴を奪い返したら大富豪に拾われた〜 第5章 原点回帰編  作者: Nao9999


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第124話 母が最後に訪れた郵便局

母のノートに残されていた、最後の住所。


それは、国道沿いにひっそりと佇む古い郵便局だった。


主人公を待っていたのは、一通の手紙と、母が最後に残した「ある約束」だった。

郵便局は、国道から少し離れた場所にあった。


古い木造の建物。


入口の横には、赤い郵便ポストが立っている。


塗装はところどころ剥がれていたが、今でも現役らしい。


主人公はロードバイクを建物の脇に止めた。


そして、母のノートをもう一度開く。


最後のページ。


そこには、短い文章だけが残されていた。


『ここで、最後の約束をしました。』


その下には、母の字で郵便局の名前と日付が書かれている。


主人公は、その日付をじっと見つめた。


「この日って……」


母が亡くなる少し前の日だった。


胸の奥が、きゅっと締め付けられる。


今まで何度も母の過去を追ってきた。


けれど、ここだけは何となく避けていた。


母が最後に何をしていたのか。


それを知ることが、少し怖かったのだ。


主人公は小さく息を吐いた。


「……行こう。」


扉を開ける。


カラン、と小さなベルが鳴った。


「いらっしゃいませ。」


奥から声が聞こえる。


カウンターにいたのは、七十代くらいの女性だった。


白髪をきれいにまとめ、眼鏡の奥から優しい目を向けている。


「こんにちは。」


主人公が挨拶すると、女性はにこりと笑った。


「こんにちは。暑かったでしょう。」


「はい。少し休ませてもらってもいいですか?」


「もちろんよ。」


女性はすぐに冷たい水を出してくれた。


主人公は礼を言い、水を一口飲む。


冷たい水が喉を通る。


それだけなのに、体の奥までほっとした。


「旅をしているの?」


女性が尋ねる。


「はい。ロードバイクで。」


「そう。」


女性は嬉しそうに笑った。


「昔も、同じような人が来たわね。」


主人公の手が止まった。


「……女性ですか?」


「ええ。」


女性は少し考えるように目を細める。


「優しい雰囲気の人だった。」


主人公は何も言わずに母のノートを差し出した。


女性はノートを見た瞬間、驚いたように目を見開いた。


「まあ……。」


そして、そっと表紙を撫でた。


「これ、あの人のノートね。」


主人公の胸が高鳴る。


「母を知っているんですか?」


女性は静かにうなずいた。


「ええ。」


「何度かここへ来ていたわ。」


主人公は息をのむ。


「母は……何をしに?」


女性は少し迷ったあと、奥の棚へ向かった。


しばらくして、一つの古い封筒を持って戻ってくる。


「これを預かっていたの。」


封筒には宛名が書かれていなかった。


ただ、表に一つだけ言葉がある。


『いつか、この子が来たら渡してください。』


主人公の目が潤む。


「……僕のことですか?」


女性はうなずいた。


「あなたのお母さんは、こう言っていたわ。」


「『この子は、きっといつかここへ来ます』って。」


主人公は封筒を両手で受け取った。


重さはほとんどない。


それなのに、胸にはずしりと重く感じた。


「開けても……いいですか?」


「そのために、ずっと預かっていたのよ。」


主人公はゆっくり封を開ける。


中に入っていたのは、一枚の便箋だった。


母の字。


見慣れた文字。


けれど、今まで見た手紙とは少し違っていた。


『あなたがこの手紙を読んでいるということは、私の旅の続きを歩いているのでしょう。』


主人公の視界が滲む。


『私は、あなたに何かを残したかったわけではありません。』


『お金も、宝物も、特別なものも必要ありません。』


『ただ一つだけ、あなたに残したいものがあります。』


主人公は次の行を読む。


『人に優しくされたら、その優しさを忘れないでください。』


『そして、いつか誰かが困っている時、その人へ渡してください。』


主人公の頬を涙が伝う。


その言葉は、今まで何度も聞いてきた。


けれど、この瞬間だけは違った。


母が、自分に直接話しかけているようだった。


さらに読み進める。


『黒糖飴は、甘いから持たせたのではありません。』


主人公の指が止まる。


『苦いことも、辛いことも、人生にはたくさんあります。』


『だからこそ、ほんの少しでも誰かの心を甘くしてあげられる人になってください。』


そして最後に、


『あなたが幸せになることも、忘れないでね。』


と書かれていた。


主人公は便箋を胸に抱いた。


「母さん……。」


声にならなかった。


郵便局の女性は、何も言わずにそっと離れてくれた。


しばらくして、主人公は涙を拭う。


その時だった。


カラン――。


入口のベルが鳴った。


誰かが入ってきたのかと思い、主人公は振り返る。


しかし、そこには誰もいない。


ただ、開いた扉から風が入り込んでいた。


風に乗って、一枚の白い花びらが主人公の足元へ落ちる。


主人公はそれを拾い上げる。


そして、ふと窓の外を見る。


国道の向こう。


白いワンピースの少女が立っていた。


少女は主人公を見つめている。


その手には、一通の封筒。


主人公が目を凝らした瞬間――


少女は風とともに消えた。


「……まだ、続きがあるんだな。」


主人公は小さく笑った。


母の手紙を大切にしまう。


そして郵便局の女性へ頭を下げた。


「ありがとうございました。」


「こちらこそ。」


女性は微笑んだ。


「あなたのお母さん、とても嬉しそうにしていたわ。」


「何がですか?」


「あなたが、きっと優しい人になるって。」


主人公は少し照れたように笑った。


「……母さんには、かなわないな。」


郵便局を出る。


ロードバイクのハンドルを握る。


国道の先には、夕方の光が伸びていた。


主人公はペダルに足を掛ける。


そして、ゆっくりと走り出した。


次に向かう場所は――


白い少女が消えた先。


そこには、まだ主人公が知らない母の過去が待っていた。

第124話を読んでいただき、ありがとうございました。


今回は、母が主人公のために郵便局へ残していた手紙が登場しました。


「黒糖飴は、甘いから持たせたのではない」


この言葉に、母が黒糖飴へ込めていた本当の想いが少し見えてきました。


そして、白い少女が持っていた一通の封筒。


まだ母の旅には、主人公の知らない続きがあります。


次回も、少しずつ過去と現在が繋がっていきます。

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