表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/19

『其の二』 俺と神様

「粗茶じゃが……」

「ありがとう」


お狐様は俺にお茶を渡した後、俺の正面に座り話し始めた。

「それで……そなたは何処まで覚えておるのか?」

「……」


目を閉じ、思い出そうとした。

しかし雲を手で掴もうとする感覚のように、何も思い出せなかった。

「……何も思い出せない」

「そうか……」


お狐様はお茶をすすり、一息をつき話した。

「妾の名前はイノじゃ、お主の名前は?」

「名前……俺の名前は……」


するとお狐様は驚いた表情で言った。

「もしや名前すらも思い出せないのか?!」


耳と尻尾がピーンと立ち、息がかかるぐらいにイノとの距離が近くなった。

「あっ……すまないな……少し取り乱してしまった」


イノの耳が垂れ、シュンと座った。

「そうかぁ……何もかも思い出せないのか……」

「なんか……ごめん、何も思い出せなくて」


するとイノは腕を組み考えた後、耳をピーンと立て話した。

「ならば(レイ)はどうじゃ!」

「レイか……」

「そうじゃ!何も思い出せない……つまりゼロ()ということだな!」

「あまりにも安直じゃないのか?」


そういうとイノはプンプンと怒った。

「なに!妾が考えた素晴らしい名前じゃないか!」

「他に何か案はあるのか!」


俺は考えたが、何も思い浮かべられなかった。

「ほーら、やはり妾が考えた名前がいいだろう」

「まあ……そうだな」


イノは満足していた。

しかし俺はまだこの場所については何も説明されてなかった。

「な……なあイノ、ここは一体何処なんだ?俺はなんでここにいるんだ?」


イノは俺を見つめると、縁側の方へと向かい俺に背を向けた。

「……ここは神々の世界、お主らの言葉で言うと天界みたいなものだ」

「天界……?つまり俺は死んだのか?」


するとイノはこちらに振り返り言った。

「それはそなたが知っているであろう」

「知ってるって……俺は何も──」

「この世界は生きている人間もいるのだ」


その言葉に俺は更に混乱した。

「じゃあ一体何だって言うんだよ……」


イノは懐から煙管(きせる)を取り出し、吸い始めた。

「お主の記憶ならばお主自身で見つけ出せばよい」


何を言いたいのか分からなかった。

だがイノは続けて話した。

「妾と旅をしないか、童よ」

「旅?それでどう俺の記憶と関係あるんだ」


するとイノは煙管を吸うと、俺に向かって優しく煙を吹きかけた。

「必ず思い出すさ、お主は何者でなぜここにやってきたのかを」

「ゲホッゲホッ……何するんだよ……」


煙管の煙で咳き込むと、イノは不敵な笑顔を浮かべていた。

「よし、旅の支度じゃ!」


そうしてイノはドタバタと忙しく動いた。

「お、おい!俺は行くとは言ってないぞ!」


するとイノは不思議そうに言った。

「なんだ……行かないのか?」

「ああ、ここが何処かも分からないのにどうして旅をしなきゃいけないんだ」

「ならば何もかも分からないまま過ごせばよい、そして朽ち果てていき自分が何者かも分からないまま死ねばいいさ」


「くっ……」

イノの発言に俺は考えた。

しかし旅以外の選択は無い。


「あー!わかったよ、ついて行くよ」

「素晴らしい選択じゃ!」


するとイノは俺の手を掴み、手のひらに一つの何かを置いた。

「これは?」

「お守りじゃ、何かあったら妾が込めた力でお主を守ってくれる」


見た目は普通のお守りだったが、どこか力強い雰囲気を感じた。

「よし、出発するぞ!」

「あ、おい!待ってくれって!」


こうして俺と神様の旅が始まったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ