『其の十三』 ヒモリと俺
俺とヒモリはこっそりと抜け出し、射的屋に向かうために歩いた。
「ヒモリってこういうの沢山行ってると思ったけどそうでも無いんだな」
「あ……ああ、私は山の中から皆を守るために見守っていたんだ」
「そうなのか、大変だったんだな」
「……遠くから聞こえる楽しそうな声、そして美味しそうな匂い、それだけでも楽しかった」
「でもこうやって実際に遊ぶとワクワクが止まらないものなんだな」
ヒモリはウキウキしながら歩いていた。
「よし、ヒモリ!今日は沢山遊ぼう!今まで頑張ったご褒美として!」
「え……でも申し訳ない、私の為に己を犠牲にしてまで」
「何を言ってる、神様でも俺から見たら一人の女性だ、今日はつきっきりで遊ぼうぜ!」
俺の言葉にヒモリの顔が少し赤くなった。
「お前……どういう意味で言っているのか分かっているのか?」
「え……?あ、そういう意味じゃないからな!ほら、あれだよ!あのー……」
言い訳を考えていると、ヒモリは笑顔になった。
その表情に俺は少し見惚れてしまった。
周りの人たちは動いている、しかし急に静かになり全てがスローで動いているかのように感じた。
「どうしたんだ?私の顔に何かついてるのか?」
「あ、いやなんでも無いさ……ほら行こう!」
俺はヒモリの手を握り、射的屋へ向かった。
その時の俺とヒモリの空間は何処は不思議な感じだった。
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射的屋に着くと、店主のおばちゃんとおじちゃんが俺達に気付いた。
「あらあら~ヒモリ様じゃないですか、その方は彼氏~?」
「これ婆さん!神様に向かってなんて口をきいているんだ!」
「良いじゃないの、昔の私たちみたいで」
「ば……ばあさん」
「いや俺達なにを見せられてるの?!」
なんとも言えない空気に俺はつっこんでしまった。
「まあさておいてと……二人ともやるかい?」
おじさんが聞くと、ヒモリは頷いた。
「よし!金はいらねぇ、お前らの愛を証明してみろ!」
「あ……愛?!」
驚いたヒモリは口をパクパクしていた。
「そうじゃ、共同作業じゃな!」
「そうそう、私たちもこういう事したわよねぇ~」
「ま……まて、俺はやるとは言ってない──」
その瞬間、ヒモリは決心したかのように、射的屋の銃を手に取った。
「よし……任せろレイ、私だけでも取れるさ」
「本当か?頑張れ」
俺は後ろで応援した。
ヒモリは中腰になり、狙いを定めた。
「よし、行ける!」
ポンッと出た弾はクマのぬいぐるみに当たったが、景品獲得にはならなかった。
「くっ……もう一度!」
ヒモリは次々と撃っていったが、どれもだめだった。
そしてヒモリが撃てる弾数は残り一発だった。
「や……やはり無理か……」
俺は居ても立っても居られなくなり、ヒモリの後ろから腕を回した。
「な……トチ狂ったのか!」
「そんなんじゃねーよ……ほら、あれ取りたいんだろ?」
「そ……そう………だが」
ヒモリの耳元でコツを教えた。
「これはな、身を乗り出して撃つんだ」
「そんなことして良いのか?!」
「良いんだ良いんだ、もし文句言われたらそいつに撃てば良い」
「まてぇぇい!変なことを教えるんじゃない!」
おじさんに注意されたが、無視をし説明した。
「ほら、もっと乗り出して」
「こ……こうか?」
「もっとだ!」
「くっ……これ以上はきついぞ」
何とか取るために、ヒモリの体を少し強く抱きしめた。
「ひゃうっ!」
「静かにしろ!ほら、集中して」
「そ……そんな事言われても!」
「よし、いまだ!撃て!」
「も……もうどうにでもなれ!」
銃から発射された弾が綺麗な弾道を描き、クマのぬいぐるみの頭にクリーンヒットした。
そしてゆらゆらと大きく後ろに倒れた。
「あらあら!おめでとう!」
「くっ……難しいくまさん人形を取られてしまった……」
そしておばさんからクマの人形を貰い、ヒモリに手渡した。
「ほら、取れただろ?」
「あ……ああ、ありがとう……」
その光景を見ていたおばさんがニヤニヤしながら言った。
「青春ね~、お二人さん似合ってるわよ?」
「そんなことないわ!」
ふとヒモリの方を見ると、嬉しそうにクマの人形を見つめていた。
「そんなに欲しかったのか?」
「あ……ああ!始めての景品だしな!」
「そりゃ良かった」
するとヒモリは俺に質問した。
「そういえばどうして知ってるんだ……?」
「んあ?ああ、取り方か……まあ歩きながら話そうぜ」
俺達はおばさんたちに挨拶をし、ふらふらと歩き出した。




