第26話 歪んだ双子、上層区へ
中層区と上層区を隔てる、巨大な電子セキュリティーゲートの前。
アゲハは、ゲートの前に立った。
その時、ゲートの別の入場口に、大勢の同盟メンバー(サブリナ、マーリン、ゲイダたち)を引き連れたモミジの姿があるのを見つけた。
一年ぶりの、至近距離での再会。
アゲハは、本心ではモミジに「もう意地を張るのはやめて、私と一緒に戦おう」と、手を差し伸べたかった。
お互いの新スキル、アゲハの【徹甲弾】とモミジの【跳弾】、そしてお互いの【気配察知】を合わせれば、どれほど強い敵だって恐れることはないはずだった。
モミジもまた、アゲハのまっすぐな瞳を見て本心ではお姉ちゃんに「助けて」と縋りたかった。レベル1にリセットされた時のあの惨めな恐怖、身内を疑わなければ生き残れないあの張り詰めた同盟の闇から、本当は逃げ出し、お姉ちゃんに甘えたかった。
だが、二人の間には、あの日カフェでぶつけ合った激しい言葉の呪いが、高くて冷たい壁となって立ち塞がっていた。
『そんなの、お姉ちゃんの臆病な理想論よ!』
『復讐のために、自分の人間性まで捨てるつもり!?』
今さら、引き下がることは、お互いの「これまでの1年間の血と涙」を、自分自身で否定することになる。
意地を張るしかなかった。双子は、お互いの目を見つめ合いながらも、冷たく視線を逸らし、拒絶し合う。
「久しぶりね。モミジ」
アゲハが、感情を殺した静かな声で呼びかけた。実はこっそりモミジが上層区へ行くタイミングを見計らっていたのだが、モミジには秘密にしていた。チームも快くそのタイミングがくるまで待っていてくれていた。
「そうね。お互い、上層区へ行くレベルに到達したって事なのね。お姉ちゃん」
モミジの返事は、他人行儀なほどに冷たかった。彼女は、栗色のショートヘアの下から、アゲハを値踏みするように睨みつけている。
アゲハは、モミジの背後に控えるサブリナやゲイダたちの、ボロボロに擦り切れたタクティカルウェアや、おじいちゃんが繕ってくれた泥のついた靴下に視線を落とし、悲しみの混じった皮肉な笑みを浮かべた。
「……相変わらず、一年が経ってもあなたの考え(大所帯同盟)は変わっていないのね。自分のレベルを20まで上げるために、後ろの仲間をただの弾除けにして搾取してきたの?」
アゲハの冷ややかな指摘。
アゲハチームのメンバー(ボルテック、シーラ、メルティ)は全員がレベル20で揃っているのに対し、モミジ同盟の平メンバーのレベルは12や13と、極端に低いままだ。その格差が、アゲハにはモミジの「冷酷な支配」の証明に見えていた。
アゲハの皮肉に、モミジの瞳に激しい劣等感と怒りの火が灯った。
「ハッ、相変わらずお綺麗なお仲間を揃えて。でもね、お姉ちゃん、これが私の『最善』なのよ」
モミジは、一歩も引かずにアゲハの目を睨み返した。
「レベル1に叩き落とされた私にとって、中層区の化け物たちと渡り合うには、この方法しかなかったの! 私の戦術指揮の下で全員がレベル10を維持し中層区に居続ける。これが私たちが生き残るための、そしてラグランドルに追いつくための最も合理的な最善策なの! 一人も欠けずにレベル20にするなんて、お姉ちゃんの臆病な理想論は、ただの恵まれた強者の綺麗事よ! 私たち仲間もレベルリセットはあれ以降ないし、これでいいの!」
二人の「正義」は、完全に決裂していた。すれ違う想い。歪んでしまった双子の絆はそう簡単に修復される事はない。
そしてそのままゲートの自動受付端末へと向かった。
アゲハが自分の生体IDをかざすと、ホログラム画面に、美しく揃ったアゲハチームの光点が表示された。
アゲハ「レベル21」、ボルテック、シーラ、メルティ「レベル20」。お互いを信頼し、誰一人欠けることなく這い上がってきた完璧な4人の証明。
一方、別の端末にモミジがIDをかざした瞬間、画面にはあまりにも歪んだ光点が明滅した。
モミジ「レベル20」、同盟チームのもう一人のリーダー「レベル20」。だが、後ろに控えるサブリナやゲイダたちのレベルは「12や13」のまま。
リーダー二人だけがレベルを吸い上げ、平メンバーを弾除けにしてきた搾取の構図が、システム画面に無慈悲に映し出されていた。
アゲハは、ゲートのタッチパネルに、レベル21の生体IDをかざした。
モミジもまた、レベル20のIDをかざす。
『資格を認証。上層区への移動を許可します』
ゲートの電子ロックが解除され、双子はそれぞれの入場口から、一歩を踏み出した。
どうしても、ここで切りたくて(泣 短いけど、ご了承ください。中層区編までなんとか終わった(汗
次回の更新日は20時です。




