第19話 モミジのメンバー集め
中層区の最下層スラム。煤けたコンクリートの壁に囲まれた、薄暗いチームハウスの一室に、モミジはいた。
テーブルを囲んでいるのは、下層区から上がってきたばかりのサブリナ、マーリン、ゲイダ。そして、彼らが事前に接触していた、中層区で同じくレベル10の燻りを見せている「もう一つの4人チーム」のリーダーだった。
「――これが、私の提案する『8人同盟』の全容よ」
モミジは、レベル1の最低ステータスでありながら、凛とした佇まいでテーブルの中央にホログラムのマップを投影した。
「通常、レギュラーサバイバルは1チーム4人が上限。だけど、中層区のエントリーシステムには、裏の同期機能が存在する。……【同盟のシステム認証(エントリー同期)】よ。裏でこの認証を済ませておけば、まったく別の二つのチームであっても、システムが優先的に『同じサバイバルエリア』へと同時に転送してくれる。これを利用するのさ」
もう一つのチームのリーダーが、腕を組みながら不審そうに眉をひそめた。
「システム的に同じエリアに入れるのは分かった。だがよ、モミジさん。初期の転送位置は、エリアごとに完全にランダムだ。俺たちのチームと、あんたのチームが、フィールドの端と端にバラバラに転送されたらどうする? 合流する前に、4人チーム同士として各個撃破されるリスクがあるんじゃないか?」
サブリナもまた、隣で懸念を示すように頷いた。
「そうだよ、モミジ。もし出会えなければ、私たちは中層区の強豪たちの前で、ただのひ弱な4人チームとして孤立するだけさ」
「出会えなければ、ただ逃げ回って隠れればいいわ」
モミジは、冷徹な瞳で全員を見回した。
「だけど、出会えた場合はどう? エリアの縮小に合わせて、あらかじめ決めた中間地点で合流すれば、私たちは『8人』になる。中層区の奴らがどれほど強くてレベル補正が高かろうが、所詮は4人の集まりよ。8対4――倍の人数で完全に包囲して一斉射撃を浴びせれば、レベル差なんて関係なく、確実に、安全に圧殺できるわ。これなら、レベル10で燻っているあなたたちも、レベル1にリセットされた私も、一切の生命の危機を冒すことなく、中層区で荒稼ぎできる」
モミジの語る、数の暴力。それは中層区のシステムの裏をかく、傲慢で確実な「物量のハック」だった。
「……いいだろう。いつレベルリセットに怯えて暮らす生活なんて、もうたくさんだ。あんたの戦術眼を信じて、同盟のシステム認証をしてやるよ」
もう一つのチームのリーダーが承諾し、コンソールの画面をタップした。
これによって、モミジの率いる「モミジチーム(モミジ、サブリナ、マーリン、ゲイダ)」と、名前を隠した協力チームの合計8名の同盟が、システム上に裏協定として登録された。同盟チームはサバイバルの都合上最後に残れるのは10名までだ。そのため8人以上は無理であった。
数日後。
モミジたち8人は、同期されたエントリー端末の前に立ち、同時に画面をタッチした。
『転送を開始します。バトルエリア15――廃重工業地区。制限時間、五時間』
真っ白な光が、モミジの身体をデータ化し、仮想の戦場へと送り出す。
瞬きをする間に、視界は錆びついたクレーンと、泥水にまみれた巨大なドックが広がる、重苦しい「廃重工業地区」へと切り替わった。
「モミジ、周囲に敵の気配は?」
転送直後、サブリナがサブマシンガンを具現化させながら、鋭い小声で尋ねた。
モミジは目を閉じ、尋常ではない鍛錬で開花させたスキル【気配察知】を周囲に広げた。
「……北東。約百メートル先に、4つの強い殺気の揺らぎ。……待って、この殺気、仲間(同盟チーム)よ」
モミジの脳裏に、同盟のシステム認証を済ませた、見知った光点の動きが視覚的に捉えられた。
「運が良いわ。初期のスポーン位置が、最初からこんなに近かったなんて。――合流するわよ、走りなさい!」
モミジは銃を出さず、最も身軽な状態で走り出した。サブリナ、マーリン、ゲイダもそれに続く。
北東の廃倉庫の影。
そこには、モミジたちの到着を待っていた、もう一つの同盟チーム4人が、丸腰の状態で息を潜めていた。
「モミジさん!」
「ええ。これで、8人全員が揃ったわね」
双子の妹が率いる、中層区の禁忌――『8人同盟』が、ついにフィールド上に結成された。
「ここからは、私の指示通りに動いてもらうわ。サブリナ、あの二階建ての強固な監視管制塔を占拠して」
「了解」
8人は音もなく管制塔へと侵入し、一階の入り口をゲイダたち3人がサブマシンガンで固め、二階の窓にマーリン(スナイパー)を配置した。
一方向にしか入り口のない、攻めにくく守りやすい強固な砦。
モミジは、その中央に立ち、冷たい笑みを浮かべた。
「ゲイダ、サブリナ。入り口の窓から、外に向けて、わざと銃声を鳴らしなさい」
「えっ? わざと……?」
サブリナが、驚いてモミジを振り返った。
サバイバルにおいて、無駄な銃声を鳴らすのは、自分の位置を敵に教える自殺行為だ。
「そうよ。このエリアの中層区の奴らは、銃声が聞こえれば『漁夫の利』を得ようと、あるいはキルを奪おうと、血眼になって寄ってくる。だから、その習性を利用して、奴らをここに『釣り上げる』のよ」
モミジの冷徹な知性が、敵の欲望を完璧に計算していた。
「……なるほどな。おもしろい」
ゲイダが不敵に笑い、サブマシンガンを窓の外に突き出して、虚空に向けて引き金を引きちぎった。
――ダダダダダッ!
激しい銃声が、雨の降る廃重工業地区に大きく反響する。おびき寄せの、始まりだった。
それから僅か数分後。
近づいてくる敵サバイバーたちは、この廃重工業地区の内部で『激しい銃撃戦』が起きているのだと思い込んでいるはずだった。彼らの目的は、銃声の主たちが互いに傷つけ合い、消耗した瞬間を横からハントすること。
だからこそ、敵は近づいて『戦闘中のサバイバーたちの位置を特定すること』だけに意識を集中させており、まさか自分たちが待ち伏せの網に誘い込まれているとは露ほども疑っていない。周囲の不審な殺気や気配を『察知』する警戒すら、完全に怠っていた。
敵のその心理的死角(油断)を、モミジの戦術眼は完璧に見透かしていた。
「――来たわ。人数は、4人。4人チームが、私たちの鳴らした銃声に釣られて、管制塔へと侵入しようとしている」
モミジは、二丁のリボルバーを両手に音もなく具現化させた。
「サブリナ、ゲイダ、全員銃を構えなさい。敵がこの扉を開けた瞬間、8人がかりの集中弾幕で、一瞬で圧殺するわよ」
扉の向こうから、侵入してくる敵チームの気配が近づく。
彼らは自分たちが「ハントする側」だと信じ込んで、銃を具現化させながら慎重にドアノブに手をかけた。
扉が、ゆっくりと開く。
「今よ! 撃ちなさいッ!」
モミジの鋭い叫びと同時に、暗い建物の一階から、8丁の銃口が一斉に火を噴いた。
――ダバババババババッ!!
凄まじい銃声が室内に鳴り響き、ドアをくぐった敵チームのサバイバーたちは、反撃する間もなく、その身に数十発の弾丸を浴びて一瞬で赤い光の粒子へと崩壊していった。
『キル獲得。+4000ラム』
モミジの視界に、安々と浮かび上がる報酬のホログラム。どうやら4人中2人も止めを刺したようだった。モミジの構築した「8人同盟」は、これを機に、完璧に、そして冷酷に牙を剥き始めていた。その数の暴力の裏側には、お互いを「駒」としてしか見ていない不信の闇が静かに確実に広がり始めていた事は知る由もなく。
FPSやってると、たまーに見るよね。こういった同盟ではないにしろ……




