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第八章 風間ジェミニ――護衛艦『ぎんが』艦長 その六

二十三

「なるほど、これで風間さんが、なぜ自衛官になったか、十分にその動機は理解できたと思います……」

 裁判官と弁護人席の間の空間に佇立した滝村が、白い光の中で告げた。

 小学生の時に比嘉にいじめられていた過去、比嘉との和解……

 そして比嘉と親友になったこと。

 高校二年の夏休み、比嘉が溺れている子供を救い、死んでしまったこと。

 その比嘉が、防衛大学を目指していたこと。

 比嘉に尊敬の念を抱いていた風間が、比嘉の夢を継ぐ形で防衛大学に入ったこと――

 これらを、滝村は、この法廷で、質問によってつまびらかにしたのだった。


 休廷を挟み、再び、104号法廷で審理が再開した。

 証言台に風間が着席し、滝村が質問を続ける。

「被告人は、護衛艦『ぎんが』艦長となり、その半年後に、オマーン湾への情報収集任務を命ぜられた、そうでしたね?」

「はい、そうです」

「その時、被告人は、この任務に就くに当たって、どのような気持ちを持ったか、お聞かせください」



「来たか、風間!」


 ()()()()()()――が、相好を崩した。


 幕僚長室に入室した風間が、奥に立つ人物にまず感じたのは、()()()だった。

 鎮座するマホガニー製デスクの向こう……

 スーツを身にまとった、恰幅の良い男。

 身長は百七十センチと、風間より低いものの、にこにこと笑う大きな顔、大きな身体が、巨大な存在感を放っている。


 この部屋の主、海江田(かいえだ)啓吾(けいご)――


 海上自衛隊のトップ、幕僚長だ。

 中央にはテーブルとソファが、デスクの横には桜の文様が描かれた幕僚長旗が置かれている。

 左側には、アクリルケースの中に、護衛艦の模型が飾られていた。

 風間の背後で、海江田の副官が扉を閉めた。

 濃紺の制服を着た風間が、腕をしっかり伸ばして海江田の机の前まで歩行する。

 そして、風間が頭を下げ敬礼すると、海江田も答礼した。


「申告します。

 護衛艦『ぎんが』艦長、二等海佐風間ジェミニ。

 令和8年〇月〇日付、中東地域における情報収集任務を命ぜられ、

 本日、出発の申告に参りました!」


 両手を、びしっ――とスーツの両側に付けた海江田が、まっすぐに風間の申告を受け止める。

 相互に敬礼を交わし――申告は、終わった。

「佐藤君」

 海江田が、部屋の入り口に控える副官に声をかけた。

 佐藤は海江田の意図を汲み、そっ……と部屋から退出した。


 二人きりになると、海江田はますます相好を崩し、デスクの脇から風間に歩み寄った。

「久しぶりだな、風間! 変わらんなあ」

 笑顔で見上げる海江田に、

「海江田さん、幕僚長就任、おめでとうございます」

 すると、海江田は、顔をしかめ、右手でネクタイの結び目を緩めつつ、

「いやあ、私には柄に合わんよ! この後、国会の予算審議委員会に呼ばれているからこのいでたちだ……制服だけを着ていればよかった頃が懐かしいよ」

 苦笑した。


二十四

 先に腰を下ろした海江田に促され、風間も革張りのソファに腰を下ろした。

 テーブルを挟んで海江田と向かい合う。

「それにしても、君を中東に派遣しようって時期にこの騒動だ――参ったよ」

 海江田が言ったのは、先だってアメリカが踏み切ったイラン攻撃について、だった。

 これにより、一気にオマーン湾近海は緊張……

 ホルムズ海峡は封鎖され、日本の船舶も多数がペルシャ湾内に閉じ込められる事態となっている。

「君の『ぎんが』に与えられた任務は、オマーン湾での情報収集だ……当該海域を通行する我が国の船舶に対する当該海域の安全確保、情報提供、というわけだが――正直、極めて難しい判断をしなければならない局面も想定され得る」

 難しい表情で海江田は語った。

 じっ――と風間は、海江田の言葉を聞いている。

 海江田は、ソファの上の大きな身体を捩って背後を見た。

 そこには、アクリルケースに入った一隻の護衛艦の模型が入っている。

「『ぎんが』だよ、風間」

 海江田が瞳を風間に向け、言った。

 確かに、その模型は『ぎんが』のものだった。

 艦首の艦番号は、間違いなく『ぎんが』のものである。

「私にとって特別な(ふね)だ。初めて艦長として指揮を執った艦――この艦を指揮して、今度は君があの難しい海域に行こうとしている――防衛大学校で、短艇(カッター)のオールを必死で漕いでいたお前がなあ――」

 ケースの中の『ぎんが』を眺め、感慨深げに海江田は言った。

 海江田は、風間が防大で第四中隊に所属していた時の、中隊指導教官だった。

「こうして現場で踏ん張れているのも、あの時の幕僚長の叱咤激励があったからです」

 海江田はふっと笑った後、

「良い艦だよ、『ぎんが』は――練度も士気も高い。隊内屈指だ。先任伍長は、確か――飯塚さん、だったかな?」

「そうです」

 海江田の問いに、風間が短く答える。

「懐かしいな――彼ならきっと、艦内を上手くまとめてくれているだろう」

 海江田は身体を戻して再び正面から風間を見据える。

「『ぎんが』は、ソマリア海の海賊警備を任務とする『てんま』の、氷室司令の指揮下に入る――彼は優秀だ、彼と相互に連携してしっかり任務を果たしてくれ」

「はい」

 ニコッ……と笑った海江田は、ゆっくり立ち上がった。

 風間も深いソファから尻を上げ立ち上がる。

「もっと話をしたいんだが――時間がな」

 腕時計を一瞥した海江田が、また風間を見据え、

「風間――」

 大きな掌を、風間の濃紺の制服の左肩に置いた。

 海江田の目から笑みが消え……まっすぐに、風間の瞳を覗き込んだ――


「いいか――事に当たっては、()()()()()――いいな」


 ずっしりとしとした海江田の、掌の厚みを左肩に感じながら、風間は、

「はい」

 しっかり頷き、答えていたのだった――


二十五

「私が当該海域に赴任するタイミングで、イランへのアメリカ軍の攻撃が始まっていました――これは、気を引き締めてかからねばならない――そう、決意したことを憶えています」

 風間の意識は、当時の市ヶ谷の防衛省から、霞が関の関東地方裁判所第104号法廷に戻ってきていた。答えながら、風間は、あの時、自分の左肩に置かれた海江田の掌の厚みを思い出していた。

「では、続いて、事件当日の夜の話を伺っていきます」

 長い前段をようやく終え、弁護人の主尋問は、事件での風間の指揮の内心に迫る。

「ではまず、当夜、『ぎんが』で、商船越後屋のタンカーからの救難信号を受信した時の状況について、お聞かせください」

「私が艦橋に入ると、副長から、救難信号は届いたものの、その後の続報が届かない、との報告を受けました」

「続報とは」

「どのような状況で救難信号を発したか――通常は、通信で状況が入ります。が、この時は、それがまったく聞こえてこない、ということでした」

「それで、被告人は、これに対しどのような指揮を執りましたか?」

「直ちに救難信号の発信地点に向かうよう指揮しました」

 滝村は書類に目を落とし、

「この時、被告人はソマリア沖の氷室司令に指示を仰ぎましたか?」

「いえ、仰ぎませんでした」

「それは、どうしてですか?」

 風間は、しばし考えてから、

「司令の考えも同じに違いないと感じたから、です」

「同じとは、直ちに救難信号の発信地点に向かうようにと、氷室司令も指示したに違いないと思った、ということですか?」

「そうです」

「なぜ、司令も被告人と同じ結論に達するに違いないと思ったのですか?」

 また風間は一瞬、沈黙してから、

「救難信号を発した後に、詳報が届かない、というのは、その貨物船に何かひっ迫した事態が発生したと考えるのが妥当です。ですから、事態は一刻を争う、そう判断し、可及的速やかに現着しなければならないと思いました。そして、司令も同じ判断に至るだろうと、そう考えたのです」

 風間の答えはよどみない。

「なるほど、被告人はタンカーに緊急事態が発生したのではないか、そう推測し現着を急いだ、そういうことですね?」

「そうです」

 茶褐色の肌の中で目立つ薄灰色の瞳を正面に向け、風間が言った。


二十六

 滝村の質問は、『ぎんが』が、燃えているタンカー『五輪丸』の停船した海域に到着した場面に移った。

 詳細な状況を把握すべく、『五輪丸』に接近していく『ぎんが』。

 そこに、急迫する国籍不明の高速艇をレーダーが捉える――

「被告人は、どうしましたか?」

「直ちに主砲撃ち方用意を指揮しました」

「確認しておきます。自衛隊では、このような場合、即座に主砲の撃ち方用意を下命するものなのですか?」

 風間からは、滝村の眼鏡が法廷の光を白く反射したように見えた。

 ゆっくりと――風間は滝村の質問に答える。

「敵対的行為が予期される艦船に対し、基本的には、言葉による警告を、それでも行為を停止しない相手には、威嚇射撃を行うというのが、自衛隊での、通常の運用であると思います」

「ではなぜ、被告人は、この時は、即座に相手の船に対して発砲準備を指揮したのでしょうか?」


「それは……少し長くなりますが――

 まず、日本のタンカーが炎上していました。

 これは、明らかに、何らかの攻撃が行われたことを示しています。

 そこに、突然、急速接近する艦船が出現した――

 私は、この船は、間違いなく本艦を攻撃する意思を持って急迫してきた、

 と感じました。

 だから、即座に、主砲発射準備を指揮したのです」

「その後、被告人は、どうしましたか?」

「当該艦船に向けての主砲発射を、指揮しました」

 滝村は、右手人差し指で眼鏡の位置を直した。

「この指揮の直前、副長の村澤三佐が言った言葉を憶えていますか?」

「……自衛権の逸脱、というようなことを言ったと思います」

「被告人は、この言葉を受け、どうしましたか?」

 じっ――と、風間を滝村が見詰める。

「特に……何もしませんでした」

「では、被告人が、主砲発射を命じた後、どうなりましたか?」

「当該艦船に主砲が命中し、ほぼ同時に、この艦船からの攻撃が本艦の艦首に命中しました」

「この時の、被告人の気持ちを教えてください」

 風間は少し天を見上げてから、


「危なかった――と、思いました」


 風間の薄灰色の瞳が、白い光を反射して輝いた。

「この判断は、被告人にとっては、合理的でしたか?」

 滝村の問いに、また、風間はちょっと考えてから、

「はい――そうですね、法的に言えば、正当防衛に該当する判断だった、と、私は思っています」


二十七

「『ぎんが』の撃沈した高速艇の乗員が海に投げ出されるのを見た時、被告人はどう思いましたか」

 滝村が淡々と質問する。

「これは――放っておくしかない、と思いました」

 短い風間の答えに、一瞬、傍聴席が、ざわっ――と、動揺した。

「なぜ、放っておくしかない、と被告人は思ったのですか?」

「それは――ふたつ、理由がありました」

 滝村は、じっと風間を見詰めた。

「まず、ひとつ目の理由を教えてください」

「目の前で我が国のタンカーが現に燃えています。一刻の猶予もならない、そう感じたからです」

「ふたつ目の理由は?」

「ふたつ目は――

 彼らは、我が艦に砲撃してきた者たちです。

 要するに、()です。

 ということは、この、投げ出された乗員は、()()です。

 もし、この()()を救助し、艦内に入れた場合に、

 万が一、彼らが爆発物などを持ち込んだら――

 又はトラブルを起こすなどしたら――」

 風間は少し言葉を切った。

「だから、私は、決断しました」

「なるほど、燃えているタンカーは危険性が高い、そしてイラン兵を救助した場合、リスクを艦内に抱えることとなる――そこで、あなたはタンカー救助を最優先とした、そうですね」

「そうです」

 滝村の眼鏡の中の瞳が、風間をじっと見詰める。

「この決断をあなたが下した直後、艦橋内で、何がありましたか?」

 風間が、何かを思い出そうとしているかのように薄灰色の瞳を彷徨わせた。

「確か――村澤副長が、私を止めました」

「何と言って、村澤副長は被告人を止めましたか?」

「敵兵を救助するべきだ、国際法に抵触するから、と言ったように思います」

「これを聞き、被告人はどう思いましたか?」

「――優秀な自衛官だ、と思いました」

 滝村は、ちょっと右の眉を上げ、

「どういう意味ですか?」

 風間は一度、口を引き結び――それから、おもむろに口を開いた。

「この逡巡は、自衛官として当然です――むしろ、


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 ……ですから、彼の制止は、理解できるものでした」

 静かに、風間の声が法廷に響いた。そして、付け加えた。


「だから、確か、私は――

 ()()()()()()()()――

 と……その時、言ったのです」


二十八

 この後――

 質問はタンカー救助の場面に移った。

 風間は、タンカーの船首部分からの出火にショックを受けたこと、ここに館野一尉をはじめとする立入検査隊を送り込むことについて、


「覚悟が必要だった」


 と語った。

 さらにタンカー上空に救助ヘリが至ると同時に、タンカー内の生存者から敵兵の数等の貴重な情報がもたらされたこと、ほぼ同時に救助ヘリが船上から銃撃されたことで、タンカーに敵性兵力が乗り込んでいるという事実が明白となり、

「立入検査隊に敵兵の排除とタンカー乗員の救助という、ふたつの難しい任務を同時に遂行させなければならないことに、責任を感じた」

 と述べた。

 立入検査隊をタンカーに接近させる際、村澤が救助ヘリを囮に使う指示を出したことに関して、ここでも風間は村澤を、

「優秀」

 と評した。


 その後は、艦橋で首尾を待つ――という、風間にとってはじりじりとした時間が過ぎる。

 この時の気持ちを、風間は、


「本当は自分が、先頭に立ってタンカーに乗り込みたかった」


 と語る。

 目の前で、タンカーの延焼範囲が広がっていく――

 タンカーのブロックの制圧と要救助者確保の報告が間欠的に届く中――

 風間には、タチケン隊の無事と、一人でも多くの乗員救助を、ただ祈って待つ、ということしかできなかった。

 そして――

 いよいよ巨大な炎の舌先が、タンカー船体の中央部を舐め始めた時――


「タンカー乗員を十一名、救助したという報告と共に、

 立入検査隊の館野一尉が船上で撃たれ、帰って来ない

 という、飯塚伍長からの無線連絡を受けました」


 風間の脳裏に、赤く揺らめく『ぎんが』の艦橋内が浮かぶ。

「これを聞き、被告人は何と言いましたか?」

 風間が眉間にしわを寄せ、唇をぐっと噛んだ。そして、答えた。

「館野を何としても救え――そう、命令したと思います」

「その後、何がありましたか?」


 轟音――強烈なオレンジ色の光に網膜を焼かれて……


「タンカーの中央部で、大きな爆発がありました」


『ヒガッチが! ヒガッチが……』

 あの夜、あの艦橋で……

 風間は、比嘉の死を伝えに来たシマブーの声を――確かに聞いた気がした。


 ()()()()()()()()()()()()()で……


 そして、風間は――

 何も動けなかった。身じろぎすらできなかった。


「タンカー中央部の大きな爆発を見て、被告人は、どうしましたか?」

「何も――」

 絞り出すような声で、風間は言った。

「何も、できませんでした……」

 俯く風間を見詰めつつ、滝村が、

「その後、どうなりましたか?」

 証言台で完全に下を向いた風間は、

「村澤副長が――

 館野を捨ててでも、離脱しろ、と……

 指揮を――執ってくれました」

 ゆっくりと、答えていた――


二十九

 白い静けさが、法廷を支配した。

 検察官と記者のペンを走らせる音が、この静謐をさらに際立たせる――

 おもむろに、滝村が質問を再開した。

「この結果、どうなったのでしょうか?」

 風間は、俯いていた顔をゆっくり上げると、

「村澤副長の適宜な指示で、館野一尉を除く立入検査隊も、要救助者十一名も……

 皆、無事に『ぎんが』に収容することができました――」

 しばし間を置き……

「風間さん――この一連の事件を通し、あなたが思ったことを、最後に述べてみて下さい」

 風間が、目を閉じ――沈黙した。

 そして――


「事に臨んでは危険を顧みず、

 身をもって責務の完遂に務め、

 もって国民の負託にこたえる――」


 言い終え――また、風間は黙った。

 そして、続ける。

「私たち自衛官が、入隊時に宣誓する言葉です。

 私は、ずっと、この言葉の意味を考え続けていました。


 ()()()()()()、とは?

 ()()()()()、とは?

 ()()()()()、とは?


 ……そして、いつか、抜き差しならぬ事態に直面した時、

 ()()()()()()()()()()()――

 いつもそう、考えていました……

 あの日――

『五輪丸』からの救難信号を受け、燃える『五輪丸』を目視した時、

 私はただ一点、『五輪丸』乗員の救助、を、

 自身の()()であると考えました。

 そして、この一点に向け、指揮を執りました。

 ですが――

 私は何か、()()()()()()()()のかも、知れません……」


 法廷の全員が、風間の言葉を傾聴している。

 風間は、目の前の机の一点を、その薄灰色の瞳で見つめ、静かに語り続ける――


「『五輪丸』の乗員救助という目的完遂のため、

 私は、急迫する“敵艦”を、即座に撃沈しました。

 その後、撃沈した“敵艦”の乗員の救助を放棄しました。

 これは、どんな理由があるにせよ、国際法違反であることは間違いありません。

 ですが――何かを救うためには、何かを犠牲にしなければならない。

 だから――私は、自分が責任を負うことで、

 目の前のタンカーから『五輪丸』の乗員を救出できるのなら、

 それでも構わない、そう、覚悟していました。

 でも――私は……私は、館野を救えませんでした――

 館野を危険な場所に送り込み、私は、安全な場所で――」


 ここで、風間は言葉を切る。

 風間の肩が細かく震えている――


「館野こそ、まさに、

 ()()()()()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()()()

 私は、そんな男を、殺してしまった――

 そして、まるで、館野が――

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()――

 そんなふうに、私には思えてなりません……」


 すすり泣きが法廷に響いた。

 風間の肩章――三本の金線と、一個の桜星――が打ち震えていた……


「そして――村澤三佐――彼には感謝しかありません……

 あそこで、彼が、撤退の指揮を執ってくれていなかったら……

 タチケン隊も、要救助者も、皆、死んでいたかもしれなかった――

 あの、辛い指揮を、私は、彼に託してしまった……

 私は――私に……

 ()()()()、『()()()()()()()は、()()()()()っ……」


 薄灰色の涙が、証言台の机に落ちた。

 白い法廷に、風間の嗚咽が、静かに――静かに、響き渡っていた……

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